第3話…転生前①
唐突だが私は所謂転生者だ。きっかけはゴルフボールだ。なんだそりゃと言われるかもしれないが、私だってそう思う。
あの日、私はとにかく急いでいた。まあ、ぶっちゃけるなら寝坊して遅刻しそうだったのだ。電車を一本乗り過ごしたらアウトのギリギリスレスレ~なラインを精一杯駆け抜けていた。そんな時。
「っ!!!」
後頭部に言葉では言い表せない衝撃を感じて脳内が真っ白になる。
「……きょ…ゅうり…び…だっ……のに」
倒れながら呟いた末期の言葉は我ながら悲しい台詞だった。
ただ、原因はわからずとも、なんとなく自分は死んだんだなー、とは思ったけど、まさか次に気がついたら応接室のソファに寝ていたなんて誰が想像つくか。
「こ、こ、こここどこ?」
別に鶏になったわけじゃありません。応接室というよりは社長室の方があっているのかもしれないが、ぺーぺーもぺーぺー、未だにお茶汲みとコピー取りを押し付けられるレベルの新入社員だった私は、社長室には一度も入ったことがないのでテレビとかで見た印象しかないのだ。
部屋には私が寝ているソファとローテーブル、テーブルを挟んでもう一個ソファ、そしてごっついデスク、ドアと窓。取り敢えずぐるっと周りを見渡したけど、人は誰も居ない。……ん?
窓に近寄って外を見る。……真っ白だ。窓に何か塗ってあるとかじゃなくて、真っ白。霧で前何にも見えない感じ?でも暗くはなくて…えー、どう言ったらいいんだろう。ていうか、ホントにここ何処?
「おや、起きましたね」
「ひゃっ!?」
窓にぺったり貼り付いて、外?を見ていたら、突然声をかけられた。慌てて振り向くと、ドアの所にたぶん男の人?が立っていた。スーツを着た長い金の髪の……外国人かな?美形だけど正直服が似合ってない。どっちかっていうと、ギリシャ神話とかの神様みたいなズルズルの服の方が似合いそう。その彼?はわたわたする私の様子にも構わずソファへと腰を掛けた。
「似合わなくて悪かったですね。これでも貴女方の世界に合わせたんですが。この部屋も面談をする時の部屋を模したものですし」
「ふ、ふぇっ!?」
え、今もしかして心の中読まれた!?
「まあ、そうですね。取り敢えず掛けてください」
なんだかよくわからないけど、このまま窓に貼り付いててもしょうがない。ひとまず彼に勧められるまま、恐る恐る向かいのソファに腰を据える。すると彼が指をパチン、と鳴らした瞬間、テーブルにポット、それとお盆に乗った茶筒と急須と湯呑みが現れた。
「うわっ!!」
「話が長くなると思うので飲み物を用意しました。ちなみにセルフでお願いします」
え、こんなワケわかんない場所に来てまでお茶汲みですか。まあいいや。
茶筒から茶っ葉を急須に入れ、ポットの湯を注ぐ。ホントは湯呑みにお湯を先に入れて温めたいけど、お湯捨てるとこ無いしね。
ちょっと蒸らしてから、湯呑みにお茶を注ぐと、ふわりと凄く良い香りがした。高い茶っ葉かしらん。お茶菓子も欲しいなあ。
「意外と図太いですね。まあ、いいでしょう。話を始めますね。まず、手っ取り早く言うと、貴女は死にました」
「ド直球っ」
「遠回しに言っても、事実に変わりはないので」
まあ、確かにね。そっかー。やっぱり私あの時死んじゃったのね。
「そうです。死因は脳挫傷というやつですね。後頭部に『コレ』が直撃したので」
そう言って彼がテーブルの上に置いたのは、何処からかどう見てもゴルフボールにしか見えなかった。
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