恋愛ざまぁ小説を勧めてから、幼馴染みの様子が少しおかしい
カムシロ
第1話 幼馴染み
目覚ましの音が部屋中に鳴り響いている。
目覚ましを止めようと起き上がろうとするが体が動かない。それどころか睡魔が襲い意識が遠くなり、目覚ましの音も次第に小さくなっていく。
その時、遠くなる意識の中で俺の部屋の扉が開くような気がした。
「まったく、まだ寝ているの? 今日から学校でしょ。早く起きなさい」
声が聞こえたと同時に体が乱暴に揺さぶられる。
「あと少し……」
「そんな時間はないでしょ、学校に遅刻するよ」
ゆっくりと目を開ける。太陽の光が眩しくよく見えない。
次第に目が慣れぼやけた輪郭がはっきりとする。
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
俺を起こしにきてくれたのは隣に住む幼馴染みの
親同士が仲がよく昔から遊ぶ機会が多かった。その繋がりは高校生になった今でもある。
結奈は幼馴染みの俺から見ても美少女だと断言できる。
長く伸びた黒髪に白い肌。目は大きくまつ毛も長い。唇は薄い桃色で艶やかだ。
「今日から二年生になるんだからしっかりしてよね」
「わかってるよ」
「高校生になっても一人で起きられない人の言葉には説得力がないね」
「うるさいわ」
「下で待ってるから早くしてよ」
そう言って俺の部屋から出て行く。俺はその後ろ姿をボーッと見送った。
俺の幼馴染みは俺に少しだけ辛辣だ。俺だけというよりは男子全般に辛辣な態度を取っている。
結奈が男にそんな態度をとるのには理由がある。
結奈はスタイルが良い。スラリとした体型に、制服の上からでもわかるほど胸が大きい。
同年代の女子と比べても圧倒的な存在感を放つその胸は自然と男子達の視線を引き寄せてしまう。
それだけではない。小さい頃から結衣は発育がよく、他の女子と比べて胸が大きかったことから、よく男子達に体の事で揶揄われていた。
思春期の女子にとって体の事で色々と言われることはとても嫌な事だ。
実際に結奈も陰で泣いていることがあった。俺はその度に近くに寄り添い、時には結奈をいじめたやつと喧嘩した事もあった。大切な幼馴染みが泣いているのだから当然だ。
まぁ、男子達の結奈に対する揶揄いがなくなったのは、俺の力ではなく先生に怒られたからなんだけど……
それからというもの結奈は男に対して苦手意識を持つようになり、今のような辛辣な態度を取るようになったのだ。
辛辣な態度をとっているが、本当は優しい女の子であることは幼馴染みの俺がよく知っている。
俺、
そんな初恋の相手が朝から起こしに来てくれただけで今日一日頑張れる気がする。
身支度を整え、結奈のもとへと急ぐ。朝食は食べない派だ。
玄関を開けるとそこには結菜が立っていた。
「悪い、待たせて」
「気にしなくて良いよ、早く行いこ」
一緒に歩いていると結奈が呆れたような声を出す。
「朝一人で起きれない息子を持つとおばさん達も大変だね」
「今日はたまたまだ。でも、起こしに来てくれて助かったよ」
「おばさん達に、よろしくって頼まれちゃったから……」
素っ気ない態度を取っているが、一人暮らしを始めた俺のことを、気にかけてくれている。
「昨日は寝るのが遅かったんだよ」
「そう」
今年の二月頃から俺は一人暮らしをしている。急遽父さんが海外に転勤することになったのだ。
最初は俺も行く予定だったが、外国の生活をすることは俺にはハードルが高かった。
高校も辞めたくなかったし、何より隣に結奈が住んでいる今の状況を捨てたくなかった。
父さん達は俺を連れて行きたかったようだが、なんとか説得して俺だけ日本に残ることになった。
結奈の両親が困ったことが有れば助けると言ってくれたことが、最後の決め手となり、俺の一人暮らしが始まった。
「それで、昨日の夜は何してたの?」
「え?」
関係ないことを考えていたせいで、なんと言ったか聞き逃してしまった。
「だから、夜更かししていた理由はなんだったの?」
俺はよくWeb小説を読む。今日の夜も少しだけ読んで寝ようと思いランキングを漁っていたら、ランキング一位の作品に目が止まった。
ラブコメ小説で、最近ラブコメにハマっている俺は迷わずそのページに移った。
その作品は今流行りのざまぁだったので少し躊躇ったが、ランキング一位を信じて読んでみることにした。
少しだけ読んで寝るつもりだったが、面白くて一気読みをしてしまった。
その内容は主人公が幼馴染みと付き合い始めるのだが、その幼馴染みは主人公の悪口を言ったり、浮気をしたりするとんでもない女で、その女にざまぁをするという展開だった。
幼馴染みにざまぁをするのは、幼馴染みが好きな俺にとっては、なかなか堪える作品だったが、それを差し引いても面白かった。
最終的には主人公のことを一途に思う彼女と幸せになるといった終わり方だった。
その過程がなかなか過酷なものだったが、最後に幸せそうな主人公達の姿に思わず涙が出そうになってしまった。
ランキング一位に相応しい作品だったと思う。
その作品を読んでいたせいで寝不足になってしまったが、それだけの価値はあったと思うので後悔はない。
「昨日読んだ小説が面白くて一気読みをしちゃったんだよ」
冷めた目をしている結奈にそう答える。
「はぁ、面白い作品に出会えてよかったけど、それで朝起きれなかったらだめよ」
「おっしゃる通りで」
そうだ。どうせならあの感動を結奈と共有したい。
幼馴染みがざまぁされる展開は少し引っかかるが、言ってしまえば所詮創作だ。気にすることはないだろう。
「結奈も読んでみないか?」
「え?」
「結奈にも是非読んでもらいたいんだ。今日の学校は午前中で終わりだろ?」
「そうだけど……」
「サイトのURL送るからさ」
「そこまで言うなら……」
「よし! 後で感想教えてくれよ」
そんな会話をしていると学校に到着した。
今日から新学年という事で、新たなクラス分けが発表されていた。
確認したところ俺は一組のようだ。
「どうだった?」
「私は一組」
「俺と一緒だな。それじゃ行くか」
「あ、職員室に用があるから先に教室行ってて」
「了解」
俺は結奈と別れ教室へと向かう。
一組の教室の扉を開き、新たなクラスメイトの顔を確認する。
一年生の頃と同じクラスだったものも結構いるな。
軽く教室を見回していると声をかけられる。
「おぉ、悠真! また同じクラスだな」
声の主は
「また一年よろしくな」
「おう!」
二人で春休み中の出来事について話していると、結奈が教室に入ってくる。
「おっ、皇さんも同じクラスなのか……ラッキーだな」
「なんでだ?」
意味がよく分からず聞き返す。
「そりゃ、学校一の美少女と同じクラスなんだから、嬉しいに決まっているだろ?」
結奈は男が苦手で冷たい態度をとっているがそれでも人気はある。容姿も良くスタイルも良い。男には塩対応でも、女子には優しく、結奈が優しい女の子であることは分かる。
一年生の頃は両手で足りないほど告白されていた。
全ての男が例外なく撃沈していたが……
要するに俺の幼馴染みは最高に可愛いということだ。
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