第13話 まだ見ぬライバル
最近よく見る光景だ。エプロン姿の結奈が台所で夕食の用意をしてくれている。
手際良く料理を進めていく姿は普段から料理をしていることを物語っている。いつから料理をするようになったのかはわからないが、おそらくかなり長いこと料理をしてきたのだろう。
料理が出来ない俺からすれば、すでに十分すぎるほど技術を持っていると思う。
作ってくれる料理はどれも美味しい。一日で一番幸せな時間だと言っても過言ではない。
料理する結奈の姿をボーッと眺めていると料理が完成する。
いつもならここで結奈は帰ってしまうのだが、今日はいつもと違う。テーブルの上に俺の分の料理だけではなく、結奈の分の料理も並んでいる。
「一緒に食べたら迷惑かな?」
「全然そんなことない。一緒に食べよう」
「うん」
料理は結奈が並べてくれているので、俺は箸や飲み物を用意する。
もともと家族三人で暮らしていたのでコップは余っている。箸は使っていない割り箸を用意する。いくら洗っているとはいえ、他の人使っていた箸を使うのは嫌だろう。
結奈だけ割り箸では悪いので、俺も割り箸を使うようにする。
食事の準備を終えた俺たちは座る。
「いただきます」
「いただきます」
本当なら結奈が料理を終え、帰るタイミングで智先輩のことを聞こうと思っていた。図らずも聞くタイミングが増えたことはありがたい。
結奈が作ってくれた料理に手を伸ばす。今日のメイン料理は生姜焼きだ。とても美味しそうな香りが漂っている。
大きな口で一切れ食べる。口いっぱいに旨みが広がりご飯が進む。
結奈も少しずつ食べている。
ある程度食事が進んだところで、今日の学校でのことを聞く。
「あのさ……今日の智先輩のことなんだけど……」
結奈の体がビクッと震える。
「もしかして結奈も満更で無かったのかなって……」
「え?」
「ほ、ほら……連絡先受け取ってたからさ……」
「ち、違う!」
突然大きな声を出すので驚いてしまった。予想以上に大きな声が出てしまったのか、恥ずかしそうに俯く。
「あ、あれは、もらったものをすぐに捨てるのは良くないなって思っただけだから……もう手元にないから」
「そ、そうなんだ」
自分でもびっくりするほど安心している。結奈が智先輩に気があるのではないかどう思っていて不安だったが、そうでは無かったようだ。
「男の子が苦手だから、ほとんど喋ったこともない人にあんなこと言われても困るだけだから」
「そっか」
あぶねぇ、智先輩が積極的にアプローチしたことで、結奈の気持ちを動かしたのなら、俺も対抗してアプローチしようとしていたけど、やらなくてよかった。
結奈の表情を見る限り本当に嫌がっているみたいだから、強引なアプローチは嫌いなのかもしれない。
勝手に追い詰められて間違ったアプローチをしなくてよかった。
ある意味では、智先輩に助けられたな。
ここであることを思いつく。今ならそれとなく結奈の好みの男性を聞き出せるじゃないか?
「智先輩って女子からかなり人気があるみたいだけど、結奈は興味がないんだな」
「うん、興味ない」
「じゃあさ、どんな人が好みなんだ? その……気になっている人とかいるのかなぁって……」
結奈の肩が跳ねた。
まずい、踏み込みすぎた。勢いを止められず、無神経なことを言ってしまった。
慌てて言い訳をしようとしたところで、結奈が口を開く
「……うん、いる……」
「えっ……」
頭が真っ白になる。結奈も高校生なんだから、可能性はあると思っていたけど、改めて言われるとダメージが大きい。
「どんな人か聞いてもいいか?」
「うん」
「その人って智先輩よりもかっこいいのか?」
さっきまで話題に上がっていた名前が自然と出る。
「うん、何十倍もかっこいいよ」
なん、だと……智先輩もかなりイケメンだ。その先輩よりも何十倍もかっこいい奴だなんて……ルックスでは勝てないことが分かった。
「他には?……」
少し考え込むような素振りを見せた後言葉を発する。
「えっとね……その人はとても思いやりがある優しい人で、努力家で、一緒にいるととても楽しい人なの」
なんだその完璧超人は……見た目がイケメンなだけではなく、心もイケメンだというのか……
まだ見ぬ強大なライバル出現に動揺を隠せない。顔はどうにもならないが、それ以外なら努力で変えることができると思う。
ライバルは努力家と言っていたが、結奈に関する努力なら負けない。
結奈が気になっている時点で、何歩もリードされているが、まだ付き合ったりしていないのようなので、勝負はまだ分からない。
こっちは十年以上も片思いしているんだ。そう簡単に諦めるなんて出来ない。誰にも負けたくないんだ!
「俺、頑張るからっ!」
「う、うん。頑張って?」
負けないからな!
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