第12話 智先輩再び(結奈視点)
悠君に夕食を作り始めてからまだ数日しか経っていないけど、毎日がとても楽しく感じる。
合法的に悠君の家に上がる理由ができたのだ。
ついこの間までほとんど会話をしなかったとは思えないほどの進展だ。やっぱりママには少しだけ感謝をした方がいいかも。
料理を作る事でざまぁを回避出来るかもしれない。それに結婚するためには胃袋を掴め、なんて言うくらいだから私の行動は間違っていないはず。
授業中も時々、今日の夕食は何を作ってあげようかな、なんて考えてしまう。
先生の話をしっかりと聞かないといけないとわかっているけど、ついつい悠君の事を考えちゃう。
改めて私は、悠君のことが好きなんだなと再認識して顔が熱くなる。
今日の夕食のことを考えていると、とある悩みを思い出す。私は悠君の家で料理を作り終えたらすぐに自分の家に戻ってしまう。
ここ数年間喋る機会がほとんどなかったのにいきなり家で二人きりになってしまって、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。
あとは悠君の家って意識するだけで心臓がドキドキするし、それにあの家には悠君の匂いで満たされているので頭がクラクラしちゃう。
そんな理由で私は自分の家に逃げ帰っている。
本当はもっと一緒にいたいし、私の作った料理を食べる姿も見たい。
毎日通っているのでそろそろ大丈夫になってきたと思う。今日は一緒にご飯を食べたいな……でも、迷惑だと思われたらどうしよう。
淡い期待と同時に不安に襲われる。
そんな事が頭の中でぐるぐるしているうちに一日が終わってしまう。悠君の夕食を考えながら帰り支度をしていると、クラスの女の子が私に声をかけてくる。
「結奈ちゃん、お客さんだよ」
入り口の方を見ると以前来た先輩の姿があった。
以前、名前を知らないと言ったらクラスの女の子達に驚かれてしまった。悠君以外の男の子になんて興味がないし、しかも先輩で接点なんてほとんどないのだから名前を知らなくて当然だと思う。
前回断ったのにも関わらずまた来て正直迷惑だ。このクラスには悠君もいるんだから、変な誤解をされたら嫌。
悠君の夕食について考えていて幸せだったのに、水をかけられたような気分だ。
「何か御用でしょうか?」
「もう一度来るって約束を果たしに来たんだ」
「私は約束した覚えはありません」
親しい仲のような言い方はやめてほしい。ちらりと悠君の方を見れば私たちの方を見ている。
悠君に誤解されるのではないかと言う不安と、その原因を作っているこの人に対する苛立ちを覚える。
たしかに顔は整っている方だと思うけど、悠君の方が何十倍もかっこいい。
茶髪で少しチャラいイメージがあってあまり印象はよくない。
でも、悠君が茶髪にしたら似合うかもしれない。
少し悪い感じになってかっこいいかも……
あれ? 茶髪も悪くないかも。悠君が茶髪にしたら私も一緒に茶髪にしようかな。そうすればお揃いだし……えへへ
「そう言わないでくれよ。今日も食事に誘いに来たんだ。いいお店を見つけたから一緒に行かないかい?」
「行きません。用事がありますので…」
以前断ったのになんで誘ってくるのだろう。いいお店の場所だけ教えて帰って欲しい。そのお店には悠君と一緒に行きたい。誘えるかわからないけど、知っていて損はないはず!
「なら、時間がある時に連絡してよ。これ、僕の連絡先が書いてあるから」
そう言って小さな紙を私の方に差し出してくる。
「いりません」
「いつでもいいから、ねっ」
強引にその紙を私に押し付けると去っていった。いらないと言っているのに無理やり渡してくるなんて……悠君のような優しい心はないのだろうか?
訳のわからないことだけ言って去っていく姿を睨みつける。こんな紙すぐにでも捨てたい。
そう思った瞬間悠君の姿が視界に入る。
待って……ここでいきなり連絡先を捨てる行為は、さすがに感じが悪すぎる。
冷たい態度と感じの悪い態度は似ているようで全く違う。
悠君に感じの悪い女って思われたくない!
今すぐにでもあの男の連絡先なんて捨ててしまいたいが、その気持ちを堪えてポケットにしまう。
帰ったらすぐにポイっだ。
私の周りに集まった女の子たちに対応しながら、今日の夕食は何を作ろうか考えた。
悠君の事を考えている時間が一番幸せだ。
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