第14話 まだ見ぬライバル(結奈視点)
悠君のために夕食を作ることが、私の最近の楽しみになっている。
今日のメイン料理は生姜焼きにした。悠君は基本的にお肉料理が好きなので、自然とお肉メインの料理になってしまう。もう少ししたら、その他の料理も作っていこうと思う。
やっぱり最初が肝心なので、悠君の好物を作りたい。胃袋を掴むのだ。
それにしても……
今日はいつもより悠君の視線を感じる気がする。料理している私をボーッと見つめている。そんなに見られるととても恥ずかしい。
それに、何か変なところがあるのではないかと不安になってしまう。
エプロンが似合っていないかな? このエプロンは、昔ママが使っていたを貰ったものだ。少しよれているし、デザインが古いかも……
悠君の視線を気にしすぎると緊張してしまう。こう言う時は無心で手を動かすに限る。無心、無心……
かなり集中して料理をしていたのかいつもより早く料理を終わらせることができた。いつもならここで恥ずかしさに負けて、家に逃げ帰ってしまうけど、今日は悠君と一緒に夕食を食べたい! せっかくの機会を無駄にはしたくない。
テーブルにお皿を並べる。いつもはひとつだけど、今日は自分の分もそっと並べる。
悠君が驚いたような表情をしている
「一緒に食べたら迷惑かな?」
迷惑だと言われたらどうしよう、と不安になり声が震えてしまう。
「全然そんな事ない。一緒に食べよう」
優しくそう言ってくれた。ほっと胸を撫で下ろす。
「うん」
私が料理を並べると、悠君は箸や飲み物を用意してくれている。ちょっと夫婦みたいだなぁ、なんて考えちゃう。
悠君はいつも使っている箸ではなくて、私と一緒の割り箸を使うみたい。悠君なりの気遣いだと思うと心から温かくなる。
食事の準備を終えた私のたちは座る。
「いただきます」
「いただきます」
いつもなら帰ってしまって見ることができないけど、今日は悠君が私の料理を食べてくれる姿を見ることができる。美味しいっても思ってくれるかドキドキしていると、悠君が料理へ手を伸ばす。
大きな口で一切れ食べる。そのあと夢中で食べ続けてくれている。よかった……
私も料理に手を伸ばす。
ある程度食事が進んだところで、不意に悠君が口を開く。
「あのさ……今日の智先輩のことなんだけど……」
体がビクッと震える。
「もしかして結奈も満更で無かったのかなって……」
「え?」
予想外のことを言われて一瞬思考が固まる。
「ほ、ほら……連絡先受け取ってたからさ……」
「ち、違う!」
誤解されていたことを慌てて否定する。思っていたよりも大きな声が出てしまって恥ずかしい。
「あ、あれは、もらったものをすぐに捨てるのは良くないなって思っただけ……もう手元にないから」
「そ、そうなんだ」
ちゃんと悠君の誤解を解く。私が先輩に気があるなんて思われたくない。
先輩の連絡先なんて帰ってきて一番に捨てた。
「男の子が苦手だから、ほとんど喋ったこともない人にあんなこと言われても困るだけだから」
「そっか」
あの先輩のせいで悠君に誤解されてしまった。私も紛らわしい行動を取ってしまったことも原因かもしれない。それでもあの先輩に腹を立ててしまう。
そんなことを考えていると悠君から声をかけられる。
「智先輩って女子からかなり人気があるみたいだけど、結奈は興味がないんだな」
「うん、興味ない」
私はずっと昔から悠君一筋だよ。
「じゃあさ、どんな人が好みなんだ? その…気になっている人とかいるのかなぁって……」
え、えぇ! ど、どうしよう……な、なんて答えればの!?
気になっている人なら目の前にいる。十年以上前からずっとだ。おまけに最近は気になりすぎて一日考えちゃう。
流石に悠君です! と答えるのは恥ずかしい。それに今の状態では言ったところで悠君に迷惑をかけちゃうだけだし……
いないって言うのも違う気がする。
必死に考えた私は、少しだけ悠君にアピールしてみる事にする。ずるい考えかもしれない……
「……うん、いる……」
「えっ……」
どうしよう……心臓がバクバクして苦しい。
「どんな人か聞いてもいいか?」
「うん」
「その人って智先輩よりもかっこいいのか?」
智先輩? そんなの比べるまでもなく悠君の方がかっこいい。
「うん、何十倍もかっこいいよ」
悠君の顔をチラリと見る。やっぱりかっこいいなぁ
「他には?……」
少し考えてみる。悠君の好きなところかぁ……
「えっとね……その人はとても思いやりがあって優しい人で、努力家で、一緒にいるととても楽しい人なの」
自分で言ってて顔が熱くなる。どうしよう……これ、私の好きな人悠君だってバレちゃってない?
智先輩は客観的に見れば整った顔立ちをしている。イケメンというやつだ。
友達の女の子も、かっこいいと言っていた。私は知らなかったが、かなりモテる人らしい。
そんなの智先輩よりも何十倍も格好良くて、優しくて、努力家で、おまけに一緒にいて楽しい人って言ったら悠君しかいない。
これって告白同然かも……恥ずかしくて悠君の顔が見れない。
ちょっと大胆に言いすぎてしまったかもしれない。
恥ずかしさ、後悔と悠君への想いで頭の中がぐちゃぐちゃになっている。
そんな時、悠君が突然大きな声を上げる。その声で俯いていた私は悠君の方を見る。
「俺、頑張るから!」
「う、うん。頑張って?」
混乱していてよくわからないけど、悠君は何かを決意したような表情をしている。おまけに頑張ると宣言されてしまった。
いったい何を頑張るのかはわからないけど、悠君が頑張るなら私はそれを全力で支えたい。私にできる事ならなんでもしてあげたいのだから……
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