第3話 私の幼馴染み(結奈視点)

 私には幼馴染みがいる。親同士が仲がよく小さい頃からよく一緒に遊ぶことが多かった。

 幼馴染みである悠君はとても優しい人だ。


 自分でいうのもなんだが、私は胸が大きい方だと思う。小さい頃、他の子よりも体の成長が早かったせいで、よく男の子達から色々と言われることが多かった。それが嫌で泣いてしまった事もある。その時は必ず悠君が私のそばにいてくれた。私のために男の子達と喧嘩してくれた事もあった。


 私はそんな優しい悠君の事が大好きだ。だから、悠君に相応しい女の子になる為には、いつまでも悠君に頼ってばかりはいられない。強くなろうと決意した。


 それからと言うもの、私に対して変な事を言ってくる男の子達に負けないように頑張った。

 男の子が苦手という事もあり、冷たい態度を取ることはそんなに難しいことでは無かった。勿論、全ての男の子が悪いとは思っていないが、嫌な記憶はずっと残ってしまうもので、なかなか苦手意識をなくす事は今も出来ていない。


 色々あり、出来上がったのが今の私だ。物凄く恥ずかしいが、学校なんかでは氷雪姫なんて呼ばれている。

 私の男の子に対する冷たい態度から来ているらしい。冷たい態度を取っているせいか、男の子からのいじめのようなものはなくなった。

 昔に比べれば強くなれたと思う。悠君の隣に立てるかな……


 一つだけ問題があった。男の子に対する冷たい態度を、悠君にまでしてしまっていると言う事だ。

 悠君にだけ違う態度を取ってしまったら、私の悠君への想いがダダ漏れになってしまう。それは流石に恥ずかしい。それに、私が悠君にそっけない態度を取っても、悠君は嫌な顔一つしないのでついつい甘えてしまう。


 そんな優しい悠君は、おばさん達の都合で一人暮らしを始めた。いきなり一人暮らしは大変だと思うから心配だ。


 おばさん達に悠君のことを頼まれた私は、自分でも恥ずかしくなるくらい張り切っていた。

 高校二年生の初日は、いつもより一時間早く起きてしまった。もし、悠君が起きていなかったら起こしに行ってあげようと思ったからだ。


 予想通り悠君は起きていないようだったので、おばさんから預かった合鍵を使って家に入る。

 悠君の家の合鍵……思わずにやけそうになってしまった。


 久しぶりの悠君の家でとても緊張してしまう。小さい頃はよくお邪魔していたが、次第にその回数は減っていった。

 仲が悪くなったわけではないと思う。ただ、私が男の子が苦手になってしまった事もあり、遊ぶ機会が一気に減ったのだ。私は女の子達と遊び、悠君は男の子達と遊ぶ。思春期の男女なのだからそんなものだろう。

 でも、悠君と距離が空いてしまったようで悲しかった。


 緊張しながら悠君の部屋に入る。気持ちよさそうに寝ている姿は子どもっぽくて可愛い。

 緊張していたせいか起こす時、少し乱暴な感じになってしまった。


「まったく、まだ寝ているの? 今日から学校でしょ、早く起きなさい」


「あと少し……」


「そんな時間はないでしょ、学校に遅刻するよ」


 悠君の目が開き、こちらを見る。


「おはよう」


「あぁ、おはよう」


「今日から二年生になるんだからしっかりしてよね」


「わかってるよ」


「高校生になっても一人で起きられない人の言葉には説得力がないね」


 緊張でついつい冷たい態度になってしまう。


「うるさいわ」


「下で待ってるから早くしてよ」


 この部屋は悠君の匂いに満ちている。危険だ。動揺を誤魔化すように急いで部屋を出る。


 朝から大好きで、初恋の幼馴染みの部屋に入ることができた。今日一日頑張れる気がする。




 悠君と登校中に寝不足の原因を聞いたら、夜更かしして小説を読んでいたらしい。

 かなり面白かったらしく、その小説を話す時の悠君の目はとてもキラキラと輝いていた。


「結奈も読んでみないか?」 


 悠君からそんなお誘いをされた。


「え?」


「結奈にも是非読んでもらいたいんだ。今日の学校は午前中で終わりだろ?」


「そうだけど……」


「サイトのURL送るからさ」


「そこまで言うなら……」


 私はWeb小説と言うものもこれまでほとんど読んだことが無かったので少し躊躇ってしまった。だけど、そこまで勧めてくるのだから相当気に入ったものだったのなのかもしれない。私も悠君と同じものを共有したいし読んでみることにした。


「よし! 後で感想教えてくれよ」


 ◆◆◆◆


 学校に着いてからは良い事と嫌なことがあった。

 良い事は悠君とまた同じクラスだと言う事。そして嫌な事は、男の先輩に言い寄られた事だ。

 一度も話したことがない人からお茶に誘われだが、行くわけがない。

 クラスのみんなだけではなく、悠君も見ているのだ。本当にやめてほしい。私は悠君以外に興味はないのだ。


 断ったが諦めてはくれなかったみたい。話している最中もチラチラと私の胸に視線が行っていた。最低だと思う。私の胸を見て良いのは悠君だけなのに…


 その後の女の子達からの質問攻めからようやく解放された私は、家に帰り悠君から勧められたWeb小説を読むことにした。


 ずっと一緒にいた幼馴染みとの付き合う展開で、私は自然と口が緩んでしまった。だが、その後の展開は私の楽しい気持ちを全て壊した。

 せっかく付き合い始めた幼馴染みの女の子は、主人公に対して悪口を言い冷たい態度を取る。さらには浮気までする始末。

 主人公はそんな幼馴染みに対して、報復をするのだ。

 いわゆるざまぁ展開と言うものだ。


 私に取っての幼馴染みといえば悠君だ。自然とこの物語に出てくる二人と私たちを照らし合わせて読んでいた為、胸が苦しい。

 私はとんでもないことに気付いてしまった。


 これは悠君からの警告なのでは!?

 悠君に対して悪口は言っていないが、冷たい態度を取っていると言う自覚はある。

 もしかしたらこれ以上冷たい態度を取り続けるならざまぁするぞ、と言う事なのかもしれない。


 血の気がひいていくのがわかった。居ても立っても居られず途中で読むのをやめて、悠君の家に駆け込む。


「ちょっと、これどういう事!?」


 私は悠君に問い詰める。


「どうした?」


 驚いたような表情をしているが、私にはそれを気にしているほどの余裕は無い。


「どうしたじゃないっ、これ!」


 手に持っているスマホの画面を向ける。



「この幼馴染みがざまぁされる小説どう思ったの!?」


 少しだけ考えるような素振りを見せた後、口を開く。


「そりゃあ、最高だったよ」


「っ――」


 やっぱりだ。悠君は幼馴染みがざまぁされる展開を喜んでいる。

 私がこれ以上冷たい態度ををとればざまぁする気なんだ…

 そう思うと涙が出てくる。


「うっ……うぅ……」


「お、おい」


「帰るっ!」


 私は逃げ出すように自分の家へと駆け込む。


 どうしよう……

 私が冷たい態度を取っても悠君が嫌な顔しなかったことに甘えてしまったからだ。

 今更態度を変えるのは難しい。でもこのままだと悠君にざまぁされてしまう。


「うぅ……やだよぉ……悠君に嫌われたくない……」


 悠君に嫌われたら生きていけない。そうなればやる事は決まった。

 悠君に好きになってもらう為に頑張るだけだ。

 強くなろうと思って変われたのだから、大好きな悠君のためなら頑張れる。

 そうと決まれば、泣いてばかりは居られない。決意を新たに私の高校二年目の生活が始まった。

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