第2話 氷雪姫
今日から二年生という事もあり、クラスメイト達は少しばかりテンションが高いような気がする。かく言う俺も少しだけテンションが上がっている。やはり久しぶりに友達と話すのは楽しい。
時間になり、担任の先生の発表から面倒な始業式と続き、やっと今日の予定が全て終わった。
俺は健吾と話しながら帰り支度をしていると、教室に一人の上級生が訪ねてきた。
「このクラスに皇さんがいると思うんだけど、呼んでもらえるかな?」
その上級生の方を見ていると、隣で健吾が驚いたような声を上げる。
「三年の
「イケメンだな」
整った顔立ちに、引き締まった体。高身長という事も相まって女子から人気が高いと噂の男だ。上級生の噂なんてほとんど知らない俺が知っているくらいなのだからよっぽどだ。
結奈が三年の先輩の元へ行く。
「皇さん、もし時間があったらこの後一緒にお茶でもどうかな?」
そう言って爽やかな笑みを浮かべる。
おそらくこの笑顔で多くの女子達は恋に落ちてしまうのだろう。
クラスの女子からは黄色い歓声が上がり、男子もそわそわとその様子を伺っている。紛れもないデートのお誘いだ。
しかもクラスのみんなが見ているにもかかわらず大胆なことをするな。
「この後予定があるのでお断りします」
結奈は一切悩む素振りなど見せず断る。
「そっか……それならLINE教えてよ。君と仲良くなりたいんだ。また誘うから」
「結構です。私はあなたと仲良くなりたくないので」
バッサリと言ったな。先輩は断られると思っていなかったのか固まっている。あれだけイケメンなのだから女子から断られるとことの方が少ないのだろう。羨ましい限りだ。
「さすが氷雪姫だな。イケメンの先輩相手にも容赦ないな」
隣で健吾が感心したような声を上げる。
氷雪姫。
どこの誰が名付けたのかは知らないが、結奈の呼び名だ。
今のように男子に対する氷ように冷たい態度と、結奈の雪のように美しい白い肌が由来らしい。
結奈がこの呼び名をどう思っているかは分からないが、俺は響きが好きだ。
結奈がバッサリと断った事で、教室空気がなんとも言えない感じになっている。
先ほどまで黄色い歓声を上げていた女子達は、ヒソヒソと話し始めている。男子達は心なしか安心しているように見える。
固まっていた先輩が動き出す。
「今日は帰るよ……また来るから」
そう言って駆け足で教室から離れていく。クラス中の視線が耐えられなかったのかもしれない。
断られたのに諦めないなんて、かなり本気で結奈のことを狙っているのかもしれない。
もやもやした気持ちになるが、結奈が断ったおかげで少しだけ気が楽になった。
一人になった結奈の元にクラスの女子が集まっていく。
結奈は当分解放してもらえないだろう。健吾に軽く挨拶して俺は帰ることにした。
◆◆◆◆
家に帰ってきすぐに、約束した通り結奈に小説のURLを送ろうとスマホを開くと、結奈からメッセージが一件来ていた。
『起きてる?』
時間を確認すると、朝六時に送られたもののようだ。おそらく、このメッセージに返信しなかったため、起こしに来てくれたのだろう。
約束した通り結奈に小説のURLを送った。そのあと、昨日のように面白い作品はないかとWeb小説を漁り始める。
どれくらい時間が立ったかわからないが突然物凄い勢いで部屋の扉が開かれる。
「ちょっと、これどういう事!?」
結奈が取り乱したように部屋に入ってくる。
「どうした?」
「どうしたじゃないっ、これ!」
手に持っているスマホの画面をこちらに向けてくる。そこには俺が朝勧めた小説のページが開かれていた。
読んでくれたのか……
「この幼馴染みがざまぁされる小説どう思ったの!?」
どうって……面白かったに決まっている。夜更かしして一気読みをし、最後には泣きそうになってしまった作品だ。だからこそ結奈に勧めたのだ。
結奈もわざわざ感想交換をするために来たってことは、相当気に入ってくれたのかもしれない
「そりゃあ、最高だったよ」
「っ――」
結奈の目が見開かれると、じわりと涙が浮かぶ。
「うっ……うぅ……」
「お、おい」
「帰るっ!」
そう言って勢いよく部屋を飛び出して行った。突然の出来事で俺は何も出来ずただ立ち尽くすしか無かった。
感想交換をしに来たはずの結奈はすぐさま帰ってしまった。
いったいどうしたというのだろう……
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