第20話 通じ合う想い(結奈視点)

 学校から帰ってきた私は、悠君の家で夕食の準備をしていた。

 早速、奏ちゃんのアドバイスを元に作戦を考えた。


 以前紹介してくれたWeb小説を読めばいいかもしれないが、あれは色々と辛すぎる。幼馴染みがざまぁ話は、自分と悠君を重ねてしまうので駄目だ。それに悠君の意図はちゃんと伝わっている。ざまぁするぞ、という忠告はしっかりと受け止めていし、そのために色々と行動も始めている。


 新たな作戦は、話をするための題材として悠君が今読んでいる作品を聞き出す事だ。そうすれば、感想も言い合える。純粋に会話をする回数が増えるに違いない。


 私が夕食の用意を始めると、決まって悠君が手伝いを申し出てくれる。


 優しい! 絶対にいい旦那さんになるに違いない……好き!


 今日もいつものように手伝う事はないかと聞いてきてくれた。そこで私は、Web小説でも読んで待っていてほしいと伝えた。これで大丈夫。自然な流れで聞き出せる。

 悠君は向こうのほうでスマホを使って読み始めた。


 しばらくして夕食の準備を終えた。テーブルに食事を並べ終えたタイミングで悠君を呼びに行く。


「悠真君、できたよ」


「わかった。すぐ行く」


 今日のメニューはハンバーグだ。これも悠君の好物の一つだ。


「いただきます」


「召し上がれ」


 さっきまで難しい顔をしていたけど、ハンバーグを一口食べた瞬間頬が緩んだ。


 どうしよう……すごく可愛い。夢中で食べている姿はとても愛おしく感じてしまう。

 将来、悠君のお嫁さんになった人はこの姿を毎日独占できるのだ。他の人に譲れない。なんとしても私が悠君のお嫁さんになる!


 ある程度食事が進んだところで作戦を実行する。


「さっきWeb小説読んでたの?」


「うん」


「なんて題名のやつ?」


「えっ……」


 悠君が驚いたような顔をした。私がWeb小説に興味を持ったことを不思議に思っているのかもしれない。

 悠君が好きなものに興味を持つのは当たり前だよ。そして、それを好きになれたら一番だ。


「『幼馴染みにざまぁしてから、最愛の彼女と幸せになります』だ」


 うぐっ……それは好きになれそうにないよぉ……


「へ、へぇー」


 なんとか相槌を打つ。

 あからさまな題名。夕食の準備をしている間にその作品を読んで、私にどんなざまぁ展開をするか考えていたのかもしれない。きっとその作品に書かれていたざまぁ展開を参考にしたのかな……


 やっぱり、まだまだ足りないということだろう。これまで散々冷たい態度を取ってきたのだから当然だと思う。それに、私もまだまだ足りないと思っていたところだった。


「もしかして……足りなかったの?」


「えっ?」


 悠君の反応を見るあたり正解みたい。



「なんで分かったんだ?」


「そんなの……分かるに決まってるよ……」


 伊達に十年以上も初恋を拗らせていない。


「結奈の言う通り、足りなかったんだよな」


「そう、だよね……」


 そこからは微妙な空気が流れた。食事を終え後片付けをした後、私は自分の家へと戻った。


 やっぱりまだまだだった。少し夕食を作ったくらいでは駄目だ。もっと悠君にいろんなことをしてあげたい。


 夕食だけじゃなくて、朝も昼も料理を作ってあげたい。

 そうすれば私の料理が悠君の体を作り、支えている事になる。

 なんとも言えない満足感と幸福感で満たされる。


「えへへ……」


 悠君が求めてくれるならなんでもできる。掃除や洗濯だって嫌じゃない。その他のお願いだって聞いてあげられる。

 仮に、体を求められても問題ない。むしろ触ってくれないかなぁ……

 想像して体が熱くなる。十年以上も好きなのだから悠君以外の人なんて考えられないし、興味もない。

 覚悟はできているから、悠君に身も心も捧げたとと言っても過言でない。


 色々と妄想が羽ばたいていたところで、ふと冷静になる。


 あれ? もしかして私……痛い子になっちゃってない?


 改めてここ数日のことを振り返る。最近、行動も妄想も暴走気味だ。


「うぅ……どうしよう……抑えられる自信がないよ……」


 悠君に冷たい態度を取っていたおかげで、ある程度距離を保っていた。でも、最近は距離が近くなっている事で、色々と抑えきれなくなっている。

 奇しくも、悠君に対する冷たい態度が私の暴走を抑えてくれていたのだ。


「だからといって……今更冷たい態度を取るなんて絶対に駄目」


 自然と口から言葉が漏れる。


 そんなことをすれば今度こそざまぁされる。そんなことされたら泣いてしまうし、生きていけない。


「だ、大丈夫……注意していれば平気なはず!」


 これからはもう少し、暴走しないように気をつけようかな。


 そして私は悠君のことを考えながら眠りについた。

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