第5話 相談(結奈視点)

「はぁ」


 自然とため息が出でしまう。

 今日から悠君に好きになってもらうために行動を始めたが、まだまだ先は長そう。


 朝から幼馴染みがざまぁされる作品をどう思うか聞かれてしまった。逆に聞き返すと、いい展開だったと言っていた。現実を突きつけられたような感覚だ。


「いい展開って……全然いい展開なんかじゃないよぉ……」


 愚痴のような独り言が漏れる。

 一回くらい朝食を作ったくらいじゃダメだ。

 当然といえば当然だ。小学生の頃からずっと冷たい態度を取ってきたのに、たった一回で挽回できるなんて都合が良すぎる。

 でも、喜んでくれたみたいだったから少しは効果があったかもしれない。それに今日は夕食もご馳走する約束をすることが出来た。腕によりをかけて作ろうと思う。


 気合を入れるが気分が晴れない。ざまぁされると思ったら涙が出てきそうになる。


「お! 結奈じゃん。おはよう」


 いつもより重い足取りで歩いていると、後ろから声をかけられる。振り返るとそこには私の親友である椎名奏しいなかなでちゃん。ショートヘアの似合う、明るく元気な女の子だ。

 部活動は陸上部でかっこいいスポーツ女子だ。


「奏ちゃん、おはよう」


「どうしたの? なんか元気ないみたいだけど……」


 側から見ても分かるほどだったらしい。


「やっぱり、元気がないように見える?」


「ま、親友の私だからわかるだけかもしれないけどね」


「そっか……」


「悩み事なら聞くことくらいはできるよ?」


 一人で悩むより誰かに相談した方が、何か突破口を見つけられるかもしれない。それに奏ちゃんは信頼できる。

 声を潜めて言う。


「その……男の子に好きになってもらうためにはどうしたらいいと思う?」


「えぇぇぇ!? 結奈、好きな人できたの!?」


「ちょ、ちょっと! 声が大きいよ」


 慌てて周りを確認するが、私たち以外には誰もいないみたいだから、聞かれてはいないと思う。


「ごめん、ごめん。まさか男嫌いの氷雪姫からそんな言葉が出るなんて思わなかったからさ」


 そう言ってケラケラと楽しそうに笑う。私の気も知らないで……


「誰かに聞かれたらまずいよね?」


「うん」


「だったら、ちょうどいい場所があるから行こう。学校が始まるまで少しだけ時間あるし」


 私は言われるがまま奏ちゃんについていった。


 ◆◆◆◆


「本当にここ、使っていいの?」


 私が案内されたのは学校のとある教室だ。


「ここ、文芸部の部室だからこの時間は誰も来ないから大丈夫だよ」


「そっか、奏ちゃん文芸部にも所属してたっけ」


 運動部だけじゃなくて文化部にも所属しているなんてすごいなぁ……


「まぁでも、ほとんどこっちには来ないんだけどね。私を含めて三人しかいないから、結構ゆるいんだよ」


「そうなんだ」


「早速話、聞かせてよ」


 ニヤニヤと楽しそうにする姿には一言言ってやりたいが、今は時間がないので心にしまっておく。


「実は、ある男の子に好きになってもらいたいんだけど、どうすれば良いか分からなくて……色々自分で考えて見てはいるんだけど、他の人の意見も聞きたいの」


「結奈だったら、普通に告白すれば問題ないと思うんだけど、こんなに可愛いんだから」


 可愛いと言ってもらえるのは嬉しいけど、今は素直に喜べない。


「その男の子に、よく思われていないんだよね」


「えっ? 結奈を嫌いな男なんているの?」


 そんなのいるに決まっている。第一、悠君以外にはどう思われても良い。問題なのは悠君によく思われていないと言う事実だ。


 ざまぁするぞ、と警告してくるくらいなのだから、かなりギリギリのラインまで来てしまっていると思う。


「私を好きになってくれる人の方が少ないんだから当然だよ」


「ふーん、その男が結奈のことよく思っていないってのは本当なの?」


「うん……ほら、私って男の子に対して冷たい態度をとっているでしょ?」


「氷雪姫って言われるくらいだしね」


 恥ずかしいからその呼び名を言わないでほしい。顔が熱くなっているのがわかる。


「その男の子にも同じように冷たい態度を取っているの……」


「あー、なるほどね。一部の男には冷たい態度も受けがいいと思うけど、嫌がる人はいるだろうね」


 うぅ……やっぱりそうだよね……


「私に良い考えがあるよ」


「本当に!?」


「これを使うんだよ」


 そう言って勢いよくこっちに手を伸ばすと、私の胸を鷲掴みにした。


「すごっ、柔らかい」


「ふぁっ?! な、なにするの!」


「こんな立派なものを持っているんだから使わないともったいないよ。男はみんなおっきなおっぱいが大好きなんだから」


「そ、そうかな?」


「視線を感じることないの?」


 あー、そう言われたらそうだ。


「心当たりがあるみたいだね。私には一生わからないことだよ」


 奏ちゃんはスラリとしてモデルみたいな体型をしている。どんな服でも格好よく着こなせそうで羨ましい。


「大きいのも大変なんだよ?」


「はいはい、贅沢な悩みだよね」


 本当に大変なのだ。可愛い下着はなかなかないし、肩も凝る。胸のせいで似合わない服もあるし、太って見えることだってある。

 男の子の視線は胸にばっかり集中して嫌になることもある。


「その大きなおっぱいを使えば、その男の好感度も上がるよ」


「そうかなぁ……でも、使うってどうすれば良いの?」


「揉ませれば良いよ」


「もまっ――そんな事出来るわけないじゃん! 恥ずかしすぎるよっ」


 たしかに悠君になら触らせても良いと思うけど、心の準備が出来ていない。でも、いつかは……


 顔が熱い。羞恥心と妄想で頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。


「あ、急がないと」


 奏ちゃんが手に持っている携帯で時間を確認している。


「また後で話聞かせてよね」


「う、うん」


 私たちは文芸部の部室を出て、それぞれの教室へと向かった。

 奏ちゃんの案は、ちょっとだけ考えておこう。

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