2.14

 バレンタインが近づいてきた。 


 カナデは昔からの習慣で、手作りチョコをトモに送ることを欠かさなかった。

 すでに手慣れているので、早めに作り、日付指定で当日の夕方にトモの家に到着するように発送しておいた。


 が、今年はそれだけでは済まなかった。


 義理とか友とかそんな面倒な物を送らざるを得なかったのだ。

 

 当然のように、ヒトミとミサキがカナデの家に押しかけてくる。

 

 カナデがチョコを溶かしながら言う。

「彼氏の分はいいとして、あとは誰に渡すの?」


 ヒトミが言う。

「初詣に行った男子校のメンバーと女子校の女子グループかな

 カナデの場合は、女子校は同じ中学出身の女子にあげればいいんじゃない?」


「12個か。ん、わかった」


 ミサキが言う。

「すっごい手慣れてるね?」


「昔から、トモちゃんが煩くてさ。

 かなり凝ったやつリクエストされたこともあったんだよ。

 それで鍛えられた」


「男子の頃から彼女やってたのか……すごいね。

 この型いいね。使っていい? 本命用に」


「どうぞ」


 ヒトミが言う。

「カナデ、いろいろヘルプお願い。

 私、手作り初めてなんだ」


「了解、でもどうして手作りするの?

 買ってもいいじゃん」


「手作りなんだよねって、無言の圧力を感じるのよ。宇宙から」


「準備できたよ。あとは型に流し込むだけ」


 ミサキが言う。

「じゃ、私の本命から……よし、これでいいか」


 ヒトミが言う。

「私も…………これで大丈夫?」


 カナデが言う。

「問題ないよ。

 あとは、適当に友・義理つくるね」


 ミサキが言う。

「ありがと」


「こんな感じでいい? 足りる?」


 ヒトミが言う。

「んー……うん。余るくらいだね。ありがと。

 冷めたら、ラッピングは任せて」


 カナデが言う。

「余ったのは父親にあげるか。

 泣いて喜びそう」


 ミサキが言う。

「いままであげなかったの?」


 カナデが言う。

「息子からもらって嬉しいと思う?」


 ミサキが言う。

「そうだったね……去年は男子だったね。

 なんか長いこと同性の親友やってる気でいたよ」


 ヒトミが言う。

「うん。私も感じた。

 カナデが男子とかもったいなさすぎる。

 カナデは女子がにあってるよ。

 カナデが女子になってくれて本当に助かってる」


 ミサキが言う。

「だね、女子になってくれてありがとね。

 親友になってくれてありがとね」


 

……



 バレンタイン当日。


 朝、カナデの家に集合してから、ヒカルが家を出るのを待機する。

 ヒカルが家から出てきたところを捕まえる。


 ヒカルが言う。

「おはよう。みんな。3人揃ってどうしたの?

 あ、そっか、バレンタインか」


 ミサキが言う。

「うん。これ私からヒカルくんへの本命チョコ。

 それと初詣で一緒になった男子への義理チョコ」


「ありがと、嬉しいよ。

 みんなにもちゃんと渡すからね」


 ヒトミが言う。

「これ義理チョコ。

 アツシくんには直接渡すから残りはお願いね」


「わかった」


 カナデが言う。

「義理だけど、ヒカルくんのだけはちょっと特別仕様にしておいたよ。

 あとこれ、他のメンバーにわたしておいてね」


「カナちゃんからもらえるなんて嬉しいな。

 他のみんなにも渡しておくね」


「よろしく」


 ヒカルと駅まで一緒にいって、アツシを待つ。


 程なくアツシが現れた。

 アツシが言う。

「おはよ。みんな揃ってるね。どうしたの?」


 ヒトミが言う。

「これ、本命チョコ。

 初めて手作りしてみた。

 よかったらもらって?」


「ありがとう。嬉しい。必ずお礼するから」


「あと、ヒカルくんにミサキとカナデからの義理チョコ渡してあるから、受け取ってね」

 

「わかった、二人ともありがとね」


 ヒカルが、袋から、アツシの分の義理チョコを出して渡した。



 ヒカル達と別れ、女子高へむかう。


 教室に着いたら、カナデは、各クラスを回って、友チョコを配り歩いた。


 カナデも友チョコをたくさんもらった。

 ちなみにトモ宛のチョコが、かなりあったが全て受け取り拒否しておいた。


 

 昼休み。中庭のベンチで昼食を取った。


 ヒトミが言う。

「やっとひと段落ついたね」


 ミサキが言う。

「だねー、面倒だけど本命渡せたので楽しかった」


 カナデが袋から箱を取り出して言う。

「あのさ、これ、私から二人に親友チョコ。よかったら受け取って」


 ヒトミが言う。

「え? いいの? てかおっきいね、なにこれ?」


「チョコレートケーキ」


 ミサキが言う。

「ほんとに? これ手作り?」


「うん。デザートにどうぞ」


 ヒトミが言う。

「ありがとね。私、簡単な友チョコ渡すんじゃなかったな」


 ミサキが言う。

「私もだよ、不意を突かれた……本当にありがとね」


「なんだかんだ言って、女子高で楽しく過ごせたのは二人のおかげだからね。

 これからもよろしくね」


「「こちらこそよろしく」」

 

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