∀XL∅GL

キクイチ

いざない

 ここではないどこかの世界。

 地球ではない地球のような惑星。

 日本のような日本ではない国。

 仮想世界へのフルダイブ技術が未発達の世界。


 フルダイブ型仮想デバイス∀XLアクセルという現実時間を超越した加速世界を体験できるデバイスの存在が都市伝説化していた。



 初夏。


 早朝。


 男子学生カナデは、1つ年上の幼馴染、女子大学生トモと一緒に、いつものように『VXR』というMMORPGのネトゲをプレイしていた。


 トモの要望で、カナデは女性キャラを使い、同じく女性キャラを使うトモのネトゲの妻として、ゲームを遊んでした。ゲーム内ではカナデは男言葉禁止というルールがあった。


 カナデが発言する。

「トモちゃん、大学ってどんな感じ?

 そろそろ進路決めないとなんだよね」


「そういえばカナって今年受験だっけ?

 うーん、普通だよ?

 専門性が高くなってる感じかな。

 大学は自主性が試されるから本気で学びたいならかなり能動的に生活しないとだね。

 カナは、うちの大学が志望?」


「自主性か。成績はまずますだけど、その先の目標がないんだよね。

 てか、トモちゃん女子大じゃん」


「そういえばカナは男子だったね。

 すっかり忘れてた。ネトゲの嫁だし」


「……そんなこと言うとネカマやめるよ?」


「冗談だって。

 そういえばさ、フルダイブの加速世界って興味ある?」


∀XLアクセル?」


「うん」


「実在するの?」


「うん。知り合いが持ってる」


「ほんと? そのツテで入手できたりするの?

 ってか、どうせ高額だよね……どっちにしても無理か」


「価格はそうでもない。

 向き不向きがあって、合わないとダイブできないらしいから」


「そうなんだ。いくらくらいするの?」


「30万くらいかな?

 合わない人が裏サイトで流してる。

 でも、新品はもっと高額だけどね」


「高いな……」


「買ってあげようか?」


「え? 何言ってるの?

 いくら幼馴染でも、そんな高額なもの貰えるわけないじゃん。

 てか、トモちゃんだって簡単に買える金額じゃないでしょ?」


「じつはさ、アタシ、一台持ってるんだよね」


「うそ!?」


「本当。学生とバイトを両立したくてさ、勉強時間と睡眠時間確保するために使ってるの。かなり便利」


「そんなお金どうしたの? 生活費切り詰めてる感じ?」


「アタシ、夜の仕事してるからそれなりの収入があるんだよね」


「夜? 大丈夫なの?」


「もちろん親には内緒。体は生娘のままだよ」


「そうなのか。でも、そうまでして稼いだお金を使わせるのは申し訳ないよ」


「アタシとカナの仲じゃん。プレゼントくらいさせてよ。

 受験勉強有利になるよ?

 大事な〝妹分〟だし。応援したいのよ」


「妹って……でも、ほんとにいいの?」


「もちろん。かなり余裕あるからね。親にバレるから生活費には回せないし。

 進学してバイト始めたら何かプレゼントしてくれればいいよ」


「そっか……でも合わなかったらもったいないな」


「合わなかったら転売すればいいだけだから」


「わかった、じゃ、おねだりしちゃおうかな?」


「いいよ。私は嫁には甘いからね」


「ありがと、トモちゃん」



 数日後、トモからカナデ宛の荷物が届いた。


 箱を開くと、ピンク色のヘッドギアのようなものが入っていた。


 同梱されていたトモのメモ書きの通り、各種の設定をする。


 デバイスのタイムリンク機能を使って、トモが指定した時刻に設定し、デバイスを装着して、ベッドに横になる。


 やがてカウントダウンが始まり、現実世界の視界が徐々に別世界へと塗り変わっていった……。



……



 カナデの目の前には、水色の家具やカーペット、カーテンなどで統一された女性的な広い部屋と、現実世界とそっくりのトモの姿があった。


「カナ、∀XLアクセルへようこそ。こうやって会うのは久しぶりだね?」


「トモちゃ……え!?」

 カナデは、答えようとしが、喉から女性の声が発せられ驚いた。

 しかも、体を見ると裸の女性だった。


「トモちゃんこれどうなってるの?

 性別の指定の項目なかったよね?」


「ネッドギアが女性用だからね。

 カナの生態情報を元に女性体を作り出してるの。

 カナが女の子に生まれてたらこんな感じになってたんだよ?」


「そういうの事前にいってよ。

 ネカマやるのとは大違いなんだからさ」


「ネカマしないでも、もう、女の子でしょ?」


「……服はないの?」


「あるよ。これきて?」


 トモは服と下着を一式渡す。


「下着も?」


「あたり前だよ。

 現実世界と一緒で、ちゃんと下着付けないと気持ち悪いよ?」


「わかった」


 カナデはトモにレクチャーしてもらいながら、下着をつけた。

 ストッキングを履き、ワンピースを来て、ヒールの高いサンダルを履いた。


 トモは、大きな鏡を出し、化粧のテンプレートを一覧表示して、選ぶと、カナデの顔に反映された。手足の爪もカラフルに彩られた。


「なんだか、本当に女の子になったみたい……」

 カナデが呟く。


「似合ってる、可愛いよ。カナ」

 トモは嬉しそうにカナを抱きしめた。

 柔らかな体をダイレクトに感じる。

 トモからは優しくて甘い香りがした。


 そのあとは、トモが世界の説明をしてくれた。

 現実の世界と同じく、電子書籍や各種アプリケーションを利用することができた。

 現実世界の端末とのリンクも可能だった。

 

 トモはカナデが勉強に必要な書籍類を準備しておいてくれた。

 宿題も、トモが同梱してくれた特殊なプリンターを使えば、この世界で手書きした内容が、本物同様に印刷できるようになっていた。

 

「他の人が来たりないの?」


「うん。私たちのプライベートルームだからね。

 外出すればそれなりに会えるけど、現実世界と同じ容姿だから、

 出歩かないようにしてるの」


「そういうことか。

 とりあえず、勉強済ませちゃうか……」


 カナデはテーブルについて、勉強を始める。


 トモは、アロマを炊くと、

 さわやかなBGMを流しはじめた。


 トモは、カナデの隣にすわり、嬉しそうに勉強を教えてくれた。


「トモちゃん、時間は大丈夫なの?」


「加速世界だよ? 現実世界はほとんど時間が進んでないからね?」


「そっか、じゃ、甘えちゃう。ここ教えてもらっていい?」


 カエデはいつもの十倍くらい勉強をこなした。

 

「そろそろ時間だから、私はログアウトして仕事行ってくるね?

 カナは、アラームがなるまで勉強続けなよ。

 夕食時間に設定しておいたから。

 時間はたっぷりあるからしっかり勉強しなよ?」


「わかった」


 不思議と集中力は途切れず、飽きることなく、勉強に没頭できた。


 アラームがなったので、ログアウトした。



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