邂逅〼△
夏。
大学受験に失敗したシオリは、予備校通いをしていた。
シオリは、この春大学に進学した恋人のカエデとは遠距離恋愛になり、次第に気持ちが離れつつあった。
朝、駅前で男装カフェのノボリをもったウェイター姿に男装した女性に声をかけられる。
「お嬢さん、もし良ければどうぞ」
割引券とポケットティッシュをプレゼントされた。
もう一人のウェイター姿に男装した女性から声をかけられる。
「ちなみに、このカード、何色に見える?」
「え? 赤ですけど……」
「本当に!?
じゃ、これあげるね?
初回無料券。追加分もアタシがおごるから是非きてよ。
アタシ、ヒトミっていうんだ。ちなみ本名。
君みたいな子がタイプだから、個人的に付き合うことを前提に来店して欲しい。
ここのお店は夏限定でアルバイトしてるだけから、その間にきてね?
本気だよ?」
「あ……、考えておきます」
とても気さくで人懐っこい雰囲気の女性だった。
クールで高圧的な印象を受けるカエデとは、まるで違うタイプだ。
一緒にいて楽そうな人だなとシオリは思った。
「こら、ヒトミ、仕事中にガチでナンパするの禁止」
「ごめん、素敵な子だったからつい……」
……
シオリは、予備校の席に着く。
後からきた女子がシオリの隣に座る。
「ヤッホー、シオリ。今日もよろしく」
「おはよう。シノブ」
シノブが言う。
「何持ってるの?
男装カフェ?
あー、そいえば駅前で割引券配ってたね?
てか、無料券もらったの!?
私、普通の割引券だったよ?」
シオリはヒトミとのやりとりをシノブに話す。
「へぇー、面白そうだね。
帰りに行ってみようよ。
どうせ無料なんでしょ?
ヒトミって子にも興味あるし」
「えー……私、カエデがいるしな」
「いま微妙なんでしょ?
ちょうどいいじゃん。
シオリはもっと視野を広げるべきだと思うよ?
学校が別だからよくわからないけど、
話を聞いた感じだとカエデってなんか強引すぎない?
窮屈に感じたりしない?」
「……それね。
実は、遠距離恋愛にかわったら、最近よくそう思うようになってきたの。
カエデとは、体だけで結びついていたのかなって思うようになってきた。
でも、超美人でカッコよくて頭もいいしな……」
「大事なのはフィーリングだともうよ?
これから長く一緒にいて楽だと思う子と付き合った方がいいと思う」
「シノブは彼女とそうなの?」
「うん。疑いようがないくらいサユリとラブラブだよ。
すごーく楽で自然だよ」
「ごちそうさま」
……
予備校の後、シノブの誘いで、シオリは男装カフェに行った。
店に入ると、嬉しそうにヒトミがしおりの元にやってきた。
「来てくれてありがとね?
今日はアタシの奢りだから、好きなの注文してね?」
シノブが言う。
「いいなー、私は無料にならないの?」
「ごめんね、本気でこの子が気に入ったから奢ってるだけだから」
「本気って、付き合いたいってこと?」
「うん。ずっとこういう子を探してたんだ。
ビビッと来た。
アタシの直感て結構あたるんだよね。
絶対にフィーリングがあうとおもう」
シノブが二人を見る。
「んー……カエデよりはいい気がする」
「だれ? カエデって」
「シオリの彼氏」
「へー、シオリって名前なんだ。
相手がいるの? そっかー。
フリーな感じがしたんだけどね。
しあわせオーラを感じなかったんだよね……」
「あたしはシノブだよ。今年、浪人になったばかり」
「じゃ、同い年か。アタシ、L大の1年。
そうだった、とりあえず注文おしえて?」
3人はヒトミのおすすめを参考に注文を決める。
客足が少ないこともあり、ヒトミは、シオリ達のテーブルに張り付いておしゃべりを楽しむ。
シノブが言う。
「L大か。この夏に頑張れば私も届くかもしれないな。
シオリもそんな感じだよね? 確かB判定だったよね?」
「うん。志望校には入ってるね。
でも、カエデとさらに離れるんだよね……。
志望校から外せって言われてる」
「カエデは諦めた方がいいと思うよ?
束縛が酷すぎると思う」
ヒトミが言う。
「え? 遠距離恋愛中?」
シノブが言う。
「うん。
側から見てしあわせそうに見えないのよ。
カエデが一人でしあわせになってる感じかな」
「それひどいね」
「夏は、友達の家からここ通ってるんでしょ?」
「うん。そうだよ。
でも、L大だから学校始まっても、この辺くるの大変じゃないし」
「確かにそうか。
シオリ、試しにヒトミとつきあってみたら?」
「カエデに叱られる」
「カエデとのこと、見つめ直すいい機会だと思うよ?
カエデはやめた方がいいよ。
みてて辛い」
ヒトミが言う。
「お店早退するから、この後どっか遊び行く?
このお店でもいいよ。
シオリと、ちゃんとお話ししてみたい」
シノブが言う。
「いいの?」
ヒトミが言う。
「うん。
一番の目的は彼女探しだしね。
二番はお金」
「そうなんだ。
確かに探すの大変だよね」
「うん、すっごい悩んだけど。
親友がサポートしてくれてるからなんとかなってる。
このお店紹介してもらったのも、親友のつてだからね」
「素敵な親友がいるんだね」
……
2人はヒトミと合流して、ファミレスに入った。
途中、シズクというシオリの親友が合流した。
シズクが言う。
「私、J大に通ってるの。いま帰省してるところ。
教習所通いしてるんだ。
シズクの彼氏候補だって聞いて飛んできたよ」
ヒトミが言う。
「私L大なんだ、近くだね。よろしくね。
元彼の男子がP大に通ってるよ。
今の趣味に気づく前だったからかなり迷惑かけちゃった。
でも、今も友達として連絡取り合ってるんだ。
フリーだったら紹介するよ?」
「へー、どんな子?」
ヒトミはアツシのことを話す。
写真なども見せる。
「かっこいいじゃん」
「ちょっとまってね。
電話かけてみる……。
今大丈夫?
J大の女子、もちろんノーマルの子。
需要ある?
あはは。ちょっと話してみてよ。
すごく感じのいい子。
写メ送った。
みた?
でしょ?
向こうも好印象だったよ。
代るね」
ヒトミはシズクにスマホを渡す。
シズクは楽しそうにお喋りを始めた。
シオリが言う。
「この場で、シズクが彼氏作ってどうするの?」
シノブが言う。
「あはは、おもしろいねヒトミ」
ヒトミが言う。
「これで元彼がしあわせになってくれたら私も嬉しい」
シノブが言う。
「だよね、しあわせになるのが一番大事だと思うよ。
シズクはカエデの人形じゃないのだから、
ちゃんと自分で考えて決めなよ?」
「わかってる……。
じゃ、お試しでいいなら、付き合ってみよ?」
「ほんと? うれしい。
必要なら今の彼氏に話つけてもいいよ?」
「いあ、大丈夫。自分で決めるから」
「そっか、よろしくね、シオリ」
「よろしく、ヒトミ」
「私、夏はあの店にいるから、気軽にきてね。
夕方には終わる感じ。
近くの図書館で待ち合わせする?」
「うん、そうしよう、勉強もみて欲しいな」
「もちろんだよ。一応A判定だったしね」
シノブが言う
「そうなんだ、おじゃまでなければ、
私の勉強もみてもらっていい?
私の彼女はP大なんだけど事情があって向こうでバイト漬けなんだよね」
「うん、いいよ。
みんな近くの大学なんだね」
シズクは、アツシと連絡先を交換して電話を終えた。
そして、ヒトミに抱きついた。
「ヒトミ、ありがと、彼氏ができちゃった」
「それはごちそうさま。
アタシもシオリとお試しで付き合うことになったよ」
「私は応援するからね。ヒトミのこと。
カエデはシズクには重すぎると思ってたから」
「ありがと」
……
夏、新たな邂逅があった。
ヒトミにとって、重要な転換点を迎える。
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