邂逅Y∅
年末。
カナデは、トモから『VXR』の女性限定ギルドへの加入を勧められた。
ギルドマスターはイオリという女性だった。
『VXR』の前進である『YXR』というゲームだった時代からプレイしており、データコンバートして『VXR』の初期からプレイしているベテランプレイヤーだ。
カナデとは何度かパーティプレイしたことがある仲だった。
イオリは、トモとリアルでも知り合いで、トモの大学の3年生だ。
カナデはイオリのプライベートルームに招待され、ボイスチャットで会話を始めた。
イオリが言う。
「よろしくね、カナデ。
トモからいろいろ聞いてるよ。
なんでも相談してね?
あと、カナデと同じく、女子になった子が1人いるから仲良くしてあげてね?
アキナ。私の同級生で彼女なの。同じ大学だよ。私と同棲してるんだ。
カナデはトモの彼女なんでしょ?
うちのギルド、そういう趣味の子しかいないギルドだから安心して良いよ」
「はい。
アキナさんってそうだったんですか。
心強いです。よろしくお願いします」
「そうだ、男子になった子、ヒカルくん。
彼は、協調してるギルドで預かってもらうことになってるの。
ギルドマスターのユキトって男子が、アキナと真逆で元女子なのよ。
そっちのギルドは普通のギルドだから、お友達がいたらそっち紹介してあげてね。
うちはかなり特殊なギルドだから条件厳しいの」
「わかりました、いろいろありがとうございます」
「ユキトも同級生なの。医大生だから何かと頼りになるとおもうよ。
ユキトのギルドメンバーとも仲良くしてあげてくれる?」
「はい、もちろんです」
「カナデは、私の大学の後輩になるんだって?」
「ええ、まだ合格してないですけどね……」
「キャンパスで会おうね。楽しみにしてる。
勉強頑張ってね」
「はい、頑張ります」
……
∀XLのプライベートルーム、トモとカナデの部屋。
「カナ、イオリさんのギルドはどう?」
「ボイスチャットが楽しいね。
両声類じゃないから、いままでボイスチャット使えなかったから新鮮。
特にアキナさんとは仲良くなったよ。
妙に話が合うの」
「カナと同じく、元男子で、女子の彼女役だしね」
「うん。同じ目線で話してる感がすごい。
話がとても参考になる。
自分の将来を見てる感じ」
「それはよかった。
大学関係は大丈夫そうだね。
次は仕事関係か」
「夜のお店?」
「うん。私、レンって名乗ってるの。
カナは……春から入店予定だからサクラにしようか。
それでいい?」
「うん。任せる」
トモは端末を表示して連絡を取る。
<おはよ、レン。どうしたの?>
「おはようございます。
私の妹分のことなんだけど。
サクラって源氏名でいける?」
<サクラか……大丈夫だよ。今一緒なの?>
「うん。アヤメさんは時間、大丈夫なの?」
<会える?>
「もちろん」
<楽しみ。じゃ、向かうね、お部屋に招待して>
「したよ」
プライベートルームに大人の女性が出現する。
「おはよ、あなたがサクラ?
想像以上に可愛いのね」
「だめだよ、アヤメさん。
アタシの彼女なのだから」
「わかってるって。
私も彼女持ちだから大丈夫」
「彼氏持ちの彼女じゃん。
アヤメさん節操なさすぎだから、心配なの」
「大丈夫だよ。レンの彼女には手を出さないから。
サクラ、レンと別れたら私のところにおいでね?」
「まったく……。
で、サクラはどう?
一応できる範囲で仕込んでみたけど。
向いてそうかな?」
「ぱっと見は問題ないね。
むしろ人気が出そう……。
ちょっとロールプレイしてみよっか?
レンは黒服やってね」
カナデは、トモに教わった通り、アヤメを客に見立てて、接客をした。
「うん。素人にしては十分すぎるくらい身についてるね。
筋がいいね、有望株じゃん。楽しみ。
勉強頑張って、来春からうちにきてね。
店長には私が話を通しておくから。
フェイクドリンクつかうからお酒は飲まないで済むからね。
兼業学生にはアフターはさせないしね。
その辺はちゃんとしてるお店だから安心して良いよ」
カナデが言う。
「ありがとございます。よろしくお願いします。
勉強頑張って、来春から出られるようにします」
トモが言う。
「そうだ、一応伝えておくと、∀XLを提供してくれたのは、アヤメさんなんだ。
女癖は悪いけど、お店のナンバーワンで、とても頼りになる人だから安心してね?」
「そうだったんですか?
ありがとうございます。
おかげで、レンちゃんと一緒になれました。
とても感謝してます」
「うふふ、本当に可愛い子ね。
これからが楽しみ。
期待してるからね?
女を目一杯楽しみなよ?」
「はい!」
「そうだ、年明けからリナに面倒見させようかな?」
トモが言う。
「だと助かるかも。
でも、忙しいんじゃないの?」
「リナなら大丈夫だよ。
あの子、時間の使い方がうまいから。
それにサクラと似た立場だしね」
「……え? 元男性? ∀XL?
信じられないくらい女性的じゃん」
「あの子は、∀XLじゃないの。
別のかなり特殊な奴で、今の彼氏と入れ替わったの」
「……アヤメさんの人脈ってすごいね?
でも、そうなんだ、あのリナさんが……」
「とりあえず、リナをここに招待してくれる?
今ログインしてるから」
「わかった」
……
年末、新たな邂逅があった。
カナデは、良き先輩に恵まれ、巣立ちの年を迎える。
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