VXR

 学校から帰宅して、昼食を済ませると、ヒカルから通信アプリに着信があった。


<やっほー、カナちゃん。今大丈夫?

 特に用事はないのだけど、おしゃべりしたいなっておもって……>


「ヒカルちゃん、早速、連絡してくれてありがとね。

 大丈夫だよ。私からは連絡し辛かったしとても助かる」


<よかった。

 すごいな。

 私、カナちゃんとお話してる。

 子供の頃、いつも一緒だったのに全然お話しできなかったから、

 自分でも驚いてる>


「大人しすぎたよね?

 私、話しかけちゃダメなのかとおもってた、ごめんね?」


<そんなことないよ。

 でも、男の子苦手だったから、話かけられても何も返事できなかったかも>


「そうだったんだ。今は大丈夫なの?」


<まだちょっと苦手かも。

 でもかなり慣れてきてはいるよ。

 従兄弟とか親戚レベルまでは……>


「まだ先は長そうだね……」


<うん、なにかいい方法あるかな?>


「受験期間だからネトゲを進めるわけにもいかないしな……」


<あ、そうか、知らなかったんだよね。

 私、推薦でもう進路決まってるの。

 私立の大学に行くことになったんだ>


「そうだったんだ、おめでと。

 推薦か。あの女子高で推薦枠を取るってことは、かなり優秀なんだね」


<ありがと。でも模試であの女子大のA判定とるカナちゃんには敵わないよ>


「判定は判定だから合格できるかわからないけどね」


<カナちゃんなら大丈夫だよ。

 そういうばネトゲっておすすめなの?>


「チャットして一緒に遊ぶから、実際の相手の性別わからないし、

 直接会って話すわけじゃないから敷居は低そうだよね?」


<そうか……でもどうしていいのかわからない……。

 カナちゃんは受験生だから時間取らせるのも悪いしな>


「大丈夫だよ、もしやってみたいなら毎日1時間程度は付き合えるから。

 気晴らししないと続かないしね。

 実際、トモちゃんはゲームをガッツリやりながらあの女子大に合格してるよ。

 私は、流石に無理だけどね」


<トモちゃんもやってるの?

 あー、あのゲームか『VXR』だったけ?>


「そうそう、知ってたの?」


<うん、前に誘われた。パソコンよくわからなくて断念した……>


「あはは。教えてあげよっか? 今日は時間あるし」


<いいの?>


「うん、今からいこっか?」


<是非!>



……



 カナデは初めて、ヒカルの家に入った。

 ヒカルの部屋は、淡いグリーンを基調とした女性らしい爽やかな部屋だった。


 ヒカルは紅茶を入れてくれた。

 カナデは早速、パソコンのセットアップを始めた。


「性能的には問題ないね。アップデート適用するのに1時間くらいはかかりそう。

 そのあとは簡単だよ」


「ありがと、流石に元男子だね、たよりになる。

 パソコンのこといろいろ教えてね?

 将来的にも覚えないとだから」


「うん、まかせて。自信あるから。

 で、使うキャラどうする?」


「うーん、初心者向けのはなに?」


「DPS職っていうのがとりあえずおすすめ。

 最終的にはみんな奥が深くなるから難しくなるけどね。

 特に支援職は上級者向けぽいところあるから避けたほうがいいよ。

 変なクレームつける人が多い」


「そうなんだ。弓かナイフか刀か拳か魔法か召喚か……」


「まぁ、クラスやジョブは自由に変えられるから適当に選んで大丈夫

 使いやすいって思うの使えばいいから」


「へー、便利だね」


「キャラを作り直さないでも遊べる幅を広げてくれてるんだよね」


「ヒカルちゃん。どうせならさ、男キャラやってみる?」


「え? 男の子やるの私?」


「男の子のフリして会話すればそのうち慣れるかもよ?」


「ばれたら恥ずかしくない?」


「大丈夫、ネトゲは実際の性別と逆の人たくさんいるから」


「へぇー、そうなんだ」


「ちなみに私は、トモちゃんの命令で、何年も女の子やってるよ」


「あはは、そうだったんだ。トモちゃんは男の子?」


「いあ、二人とも女の子。でも結婚してる」


「結婚?」


「うん、いろいろ便利なの。ただそれだけ」


「へー、本当に性別は自由な世界なんだね?」


「ゲームだしね。

 私は、画面に男の子のキャラがずっと表示されてるよりも、

 可愛い女の子キャラが表示されてるほうが好きだったし」


「そっかー、見る頻度が一番多いのか……自分のキャラ」


「うん、好みのイケメンを操作してみたら?

 それで、そのイケメンならどんな風に発言するかを考えてチャットすればいいと思うよ」


「面白そうだね」


「私もそんな感じでやってるよ。

 画面に表示されてるキャラが、

 イメージと違う発言すると幻滅する派だからね、私は。

 なにかイメージ湧いてきた?」


「んー……種族は、エルフにしてみる。

 弓もいいけど刀もいいな。

 見た目の服と、装備デザインは別にできるのか……。

 なら、洋風の侍にしちゃおうかな?」


「乗ってきたね?」


「楽しくなってきた」


 ゲームの準備が済むと、早速キャラクター作成を行った。

 ヒカルはカナデとおしゃべりを楽しみながら、

 たっぷり時間をかけ、納得のいくイケメン・エルフを作り上げ、

 名前をヒカルと名付けて保存した。

 

 チュートリアルを済ませ、ゲームのメインストーリを進めて行った。


「カナちゃん。おもしろいねこのゲーム。

 男の子キャラ作って正解だったかも。

 見てて癒される……」


「よかった。私のキャラとトモちゃんのキャラにフレンド申請送っておいて」


「うん、よろしくね」

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