登校日

 夏季休暇中の登校日が来た。


 カナデにとっては女子高への初登校の日だ。

 髪もだいぶ伸び、美容院で女性的な髪型にしてもらったので、見た目は、完全に女子高生になっていた。


 日焼け止めをしっかり塗り、カナデは初登校に望んだ。


 いつもは引きこもり生活なので、日差しが辛かった。


 いつもとは違う通学路をゆくと、次第に女子生徒の割合が増え、女子生徒だけになった。


 校門の前で、担任の先生が待っていてくれた。


 保健室に連れて行かれ、そこで待機し担任の先生を待った。

 チャイムが鳴り、担任の先生とクラスへ向かう。

 廊下で待たされ、ホームルームが始まる。


 先生がカナデのことを簡単に説明すると、ざわめきが起こる。

 そして、先生は、カナデを教室に案内した。

 

「先ほど紹介した、カナデさんです。

 みなさん仲良くしてあげてくださいね。

 カナデさん、みんなに挨拶してね」


「カナデです、突然のことで、2学期と3学期だけの付き合いになってしまいますが、よろしくお願いします」


 カナデがお辞儀すると、みんなが拍手してくれた。


「じゃ、カナデさんは、その席にすわってね。

 早速、ホームルームを始めますね」


 カナデは指示されて席に腰を下ろす。

 周囲の生徒はカナデに興味津々なようだった。


 同じクラスには、小・中学時代の同級生が数名いた。

 かなり驚いた顔をしていたので、カナデに気づいているようだった。


 ホームルームが終わると、その中の一人が、カナデに近づいてきた。

 

「ミユキだけど、私のこと覚えてるよね?」


「……うん、小・中学で一緒だったよね」


「だよね。今日の放課後ちょっと話せる?」


「うん」


「じゃ、帰らないでその席で待っててね」


「わかった」

 


……



 放課後、カナデの周りには、同じ中学だった子たちが勢揃いしていた。

 全部で8人いた。

 

 ミユキが切り出す。

「カナデってよんでいいよね?

 私たちのことも下の名前で呼び捨てでいいからさ」


「うん、わかった」


 ヒトミが言う。

「で、どういうことなの? 女の子になりたかった系?」


 ミユキが言う。

「それ、直球すぎじゃない?

 とりあえず、話を聞こう?

 カナデ、話してくれる?」


「わかった」


 カナデはもともと女性だったことを説明した。

 夏に体が大きく変化したことも説明した。


 ヒトミがいう。

「そんなことあるんだ。

 てか、女子だったんだ?

 じゃ、初恋とかは男子だったの?」


「いあ、自分は男だと思い込んでたし、

 男子が好きとかそう言うのはなかった」

 

「でも、男子みてドキドキしたりとかなかったの?」


「ないよ。女性としてちゃんと成長したのは本当につい最近だしね。

 それまでは普通の男子と変わりはなかったはずだよ」


「そうなんだ、今はどうなの?

 女が好きなの?」


「いまはまだ気持ちの整理がついてないからなんとも言えない。

 私のこと気持ち悪い?」


「いあ、ごめん。いいすぎたかも。

 男子だと思ってたから、ついきつく言っちゃった。

 本当に、ただ興味がわいただけだから気にしないで。

 女子が好きでも、男子が好きでも応援するよ?」


「ありがと、その、できれば、

 男子だったことは黙ってて欲しいのだけど」


「わかってる、みんなもそのつもり。

 ちゃんと説明して欲しかっただけだから。

 みんなもカナデのことを同じ中学出身の女子として扱うつもりだからさ」


「たすかる」


 皆から質問責めが続いたが、皆納得してくれたようで、小一時間ほどで解放してもらえた。


 そのあとは女子のグループの話とか、この女子高で生活する上でのいろいろな助言をしてくれた。

 

 皆、帰宅方向はほぼ似た感じなので、お喋りしながら、途中まで一緒に帰ることになった。


 最後に残ったのは、カナデの家から徒歩1分もかからないほど近所に住むヒカルという子だった。とても大人しい子で、性別の違いもあったため、ほとんど話をしなかった子だ。小学生の頃、トモと一緒によく遊んだ記憶はあった。女性にしては身長が高めで、体の変化で女性の標準的な身長まで縮んだカナデは少し見上げながら話をする状況だった。


「カナちゃんでいいよね?

 あたしたちも幼なじみだよね?」


「うん。覚えててくれたんだ。

 嬉しいな。ありがと。

 じゃ、ヒカルちゃんって呼ぶね?」


「もちろんだよ。でも、あたし、恥ずかしがり屋だからなかなか話しかけられなくて、トモちゃんたちについてゆくので精一杯だった。

 まさか、カナちゃんとこうやって話すなんて思ってなかったよ。

 しかもカナちゃんの身長追い抜いて見下ろしてるとか驚きだよ」


「あはは。私も、ヒカルちゃんを見上げるようになるとは思わなかった。

 そういえば、トモちゃんとは連絡とってるの?」


「たまーに、連絡とってるよ。

 カナちゃんのことも話してくれるの。

 高校に入って時々見かけることもあったけど、カナちゃん男子だったから話しかけづらくてね。

 今更感あるけど、よろしくね?

 これからは、いっぱいおしゃべりしようね?」


「こちらこそよろしくね」


 カナデはヒカルとスマホの連絡先を交換した。



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