第18話 まーた家に連れ込んだ

「ど、どうしたの、朱子?」

「あ、な、なんでもない……」


 なんでもなくない!

 え、は?

 意味わかんないんだけど。



***



「(なんで来ちゃったかなー)」

「?」


 結局、鷹山の家に来た。


「どうぞー」

「……お、おじゃましまーす」


 勢いで来てしまったけど、大丈夫。最悪香織の家に逃げよう。


「荷物適当において」

「はい……」


 全然緊張してないじゃん!

 なんでこっちばっか緊張させられてんの!?


「今日は、その、どうして家に?」


 デートって言ったはずなんだけど聞いてなかったのか。


「んー、お家デート?」

「……あはは」


 それは相当仲良くなってからでしょ。

 でも、何にも考えてないようにしか見えない。


「隆史が噂になるから、他の人に見られない場所がいいって」

「そ、そうなんだ」


 なに余計なことしてんだ。

 噂になった方が楽なんだよこっちは。

 でも、家に来られたのはいい。観察して趣味とか……


「……」

「どうかした?」


 ふぅ……


「ごほっ」

「瀬川さん、大丈夫? お茶でよかった?」

「あ、ありがとう……」


 部屋中から匂いがするわけで。

 ……変態ではないけど、覚えておこう。



***



 瀬川さんと何をしようか。特にするものないんだよなぁ……


「た、鷹山君は普段何してるの?」

「普段……勉強とか? あと、最近は」

「あっ、そのゲームとかかな? 一緒にやってもいい?」

「そうだね」


 香織にゲームかしてとメッセージを打ち込んでおく。


「えっと……」


 やったままだったので難しいことはなかった。


「どれにする?」

「え、えっと、これとか?」

「じゃあ、それにしよっか」

「はい。前にやったことあるので!」

「そうなんだ」


 いろんなキャラクターを選べる対戦ゲーム。


「私は、これにします」

「じゃあ、俺はこれで」


 瀬川さんはよく誘拐されるお姫様、俺は誘拐犯の方を選んだ。


「えっと、このボタンがジャンプで……ふむふむ」

「? いいですか?」

「おっけー」


 瀬川さんはやったことがあると言ってるだけあって上手に見える。俺は動画で見たことがある程度なので動かし方もおぼつかない。


「すごいね、瀬川さん。よくそんなに大根当てられるね」

「え、あ、ありがとうございます……」



***



 さてと、これはどうしよう。

 鷹山、すっっっっごい下手だ。

 わざと自滅してるんじゃないかって疑ってしまう程度に。

 そういうぶりっ子っぽい行動するとしたらこっちなんだけど。


「次はどれにしよーかなー」

「……そうですね」


 でも、ゲームをやって正解だったらしい。

 遠慮がなくなってきているというか、気を許してきているというか。

 距離が近くなってきている気がする。


 友達感覚になり過ぎちゃうと女として意識しなくなったりするかもだけど、今まではほぼ他人レベルだったからいい方向につながっているはず。


「私はこれにします」

「じゃあ、俺はこの赤いおじさんで!」


 私は有名な黄色いねずみ。鷹山は有名な配管工。


「瀬川さん上手だねー」

「あ、ありがとう……」


 簡単に残機を減らす鷹山。

 自滅だから私がうまいわけじゃない。


「あ、やった!」

「やられちゃいました」


 うまい具合にやられる。

 なんかこれ……


「勝った!」

「強かったですね、鷹山君」

「さっきやったときは全然勝てないかと思ったぁ……」

「そ、そうですね」


 近い近い!

 全然気にしてないだろうけど、熱中しすぎて物理的な距離が近くなってる!


「次、協力プレイにしない?」

「そ、そうですね……」


 なんか、学校で見るのとは違ってすごく子供っぽい。

 ほんとに友達とゲームで遊んでるって感じで、男女ってことを全く意識してない。

 パーソナルスペースを知らないのかこの男は……人によっては絶対嫌悪感がわく。人によってはだけど。


「コンピューターは……9にしてみる?」

「そうですね、がんばりましょう」

「おー」


 早々に鷹山のキャラは死んで、私のキャラだけになる。


「やっぱりすごい……勝てそうですね!」

「はぃ……」


 だから近いんだって!

 緊張するだろ!

 鷹山に見られて集中できなくなり、やられてしまった。


「おしいおしい。どんまいどんまい」

「……はい」


 何だこれ。

 距離が縮まるのはいいけど、本当に友達感覚になってる……


「次いけそうだね」

「そうですね……」


 ……まあ、楽しんでるならいっか。



***



「ほんとに大丈夫?」

「はい。迎えに来てくれるみたいです」

「そっか。またね」

「はい、また学校で」


 瀬川さんが帰る時間までゲームをしてしまった。

 家まで送っていった方がいいのかと思ったけど、お母さんが迎えに来てくれるらしい。

 マンションの1回で見送って、戻ってくる。

 玄関の扉を開こうとしたところで、隣の扉が開いた。


「蛍?」

「あ、香織、帰ってたんだ」



***



「おかえり」

「ただいま、お母さん」


 車に乗る。なんだか疲れた。


「友達と遊んでたんでしょ? 楽しかった」

「まあ……楽しかったけど」

「そう、それならよかった」

「んー」


 たしかに楽しかった。

 高校生の男女として今日のような遊び方は正しいのかというのは疑問だけど。

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白い季節も飴は降る 皮以祝 @oue475869

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