第16話 オムライスをば食べませう
「持ってきたー」
「おかえり」
「食べたらやろうね」
ゲーム機を置いて、キッチンに戻ってくる。
「さてと、まずは」
「うずうず、うずうず」
「わざわざ口に出さなくていいから。じゃー、ニンジンの皮剥いて」
「ほいさー」
もちろんピーラー。
「蛍が作ったときは何入れたの?」
「ニンジンとハムとか?」
「たまねぎは?」
「玉ねぎ入れるの?」
「きのことか入れる家もあるみたい」
「まあ、焼けば食えるしね」
「やだ、蛍の言ったことがこの世の真理……?」
「香織は他に何入れるの?」
「んー。適当に? 合いそうなもの入れちゃえ的な。じゃがいもとかナスとかね」
「ナスがオムライスに合うの?」
「案外? そういえば、蛍って苦手なものあるの?」
「トマトとかピーマンとか? ケチャップは大丈夫だけど」
「食感がダメな人かー。ピーマンは苦いから?」
「そんなところ」
「ま、そんなに気にしなくてもいいかなー」
「香織は苦手なものないの?」
「私はいい子なので苦手なたべものはありませーん」
「えらいえらい拍手拍手」
「いやーどうもどうも」
「次何すればいいの?」
「蛍って本当に急に方向転換するよね……えっと、じゃあ混ぜてて」
「ほほい」
「その変な返事何なの?」
***
「私盛り付けて持ってくから、蛍は机拭いといて」
「りょりょ」
物をどかしてテーブルを拭く。
「はいどうぞ~」
「どうも~お?」
目の前に置かれたハートの描かれたオムライス。
「香織さん?」
「愛情たっぷり詰めました」
「……交換、するっ?」
「かわいく言っても変えませーん。ちゃんと受け止めてくださーい」
「食べづらくない?」
「いや、蛍? これにはいろいろあったんだよ?」
「聞きましょう」
「まず、『愛してる』って描こうとしたのね?」
「うん。前提がおかしいね」
「でもさ、『愛』って漢字かくの無理くない?」
「ソウダネー、ショッパクナッチャウネー」
「で、『I LOVE YOU』も多いなーって。で、こうなりました」
「うーん……食べましょう」
「そうしましょう」
「いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
***
おいしかったです。まる。
「さってと、蛍くん? ゲームをしましょー」
「そうしましょー」
「まずはこのレースゲームで」
「有名だよね」
自分の操作するキャラクターと車を設定し終えると、コンピューターも交えて準備位置についた。四角い箱を持ったキャラクターが浮かんでいる。そこに書かれた数字が5から一つずつ減っていく。
「あ、負けたら罰ゲームね」
「え!?」
「すたーとぉ!」
「うわっ」
香織のキャラクターが先に走り出した。
「ちょっと? せこくない? せーこーくーなーいー?」
「ごめんね蛍。勝負は非情なんだ」
「あっ、大砲でた」
「蛍? それ捨てなよ。私達友達でしょ?」
「おっさきー!」
「もー!!」
***
「へっへ、お客さん、ここが気持ちいんですかい?」
「ちょっとくすぐったいかなー」
レースの結果は俺が3位で香織が2位。一位はコンピューターのサルだった。
そしてただいま肩もみ中。
「めっちゃ柔らかいんだけど肩こってるの?」
「どうかな~……おっぱいおおきいからこってるとは思うよ?」
「こらこら」
「じゃー、次は私がもんであげよー!」
「もし俺の肩がもみたいのなら、俺に倒されてからにするんだな!」
「くっ、なんて卑怯な……もう一回やろう!」
***
「くそぉ!」
「ふっふっふ……最後、スッポンを投げなければそちらの負けだったな!」
「昔の癖が戻ってしまったっ!」
今回は香織が1位。俺は最後の最後で香織の投げたスッポンに当たって5位。
肩はさっきもんでしまったので、今回はふくらはぎをもんでいた。
「さっきよりくすぐったいなぁ……あぅっ」
「こっちもやわらかいですなー」
「あっ……あぁっ!」
「そういう声出さない」
「だ、だってぇ……勝手にっ! でちゃ…んぁっ!」
「今のはわざとでしょ? 悪い子にはこうだ!」
「ごめんごめんいたいいたい」
「もっとほぐしてやる!」
「きゃぁ~」
***
結局ゲームで香織に勝つことはできなかった。
「焼きミカン忘れてたね。ちょっとやってくる」
「見たい見たい」
オーブントースターにそのまま入れるだけでいいらしい。簡単!
「そういえば、香織ってアイス派じゃなかった?」
「……蛍に染められちゃったっ」
「みかん色に染めてやったぜ」
しばらくして、オーブントースターからミカンを取り出して、こたつに持って行った。
「なんかねー、皮も食べていいらしいよ」
「皮ってこのちょっと焦げてる外の厚い方? へー」
「漢方らしいよ?」
「……そんなにおいしくない……」
「……ほんとだ。ちょっと食べてあとはポイしよ」
中の方は新鮮でおいしかった。
焼きミカンは、検索結果の通りすこしだけ甘く感じる。
「ふわぁ……」
「ん、香織ちゃんおねむですか」
「おねむです」
「食べたら帰りなさい」
「……はーい」
言い返すことなく、焼きミカンを食べ終えた香織は鞄をもって帰っていった。
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