第17話 やばい子は案外身近にいたりする

「おはよう、鷹山君!」

「おはよう」

「昨日ごめんね? 大丈夫だった?」

「ああ、うん。大丈夫だよ」


 来たの香織だし。


「あっ、教室で話しちゃってごめんね? 続きはこっちで」


 少しスマホを見せてから席に戻っていった。

 なんで謝られたんだろう?


あかね:どこで待ち合わせがいいですか?

蛍:待ち合わせって?

あかね:駅とかが分かりやすいですか?

蛍:そのままいけばいいんじゃ?

蛍:教室から


「はい!?」


 その声に驚いたのは俺だけではなかった。

 一斉に視線が瀬川さんを向く。


「ご、ごめんなさい! なんでもないです……」


 席に着いた瀬川さんは俯いていた。返信も来なかった。



***



 ま、まあ、想定の範囲内。

 周りに仲の良さをアピールする目的はそれでも果たせるし。

 教室からって度胸がありすぎない? 案外肉食系とかなわけ?


「おはよ」

「おはよう」


 香織も教室に入ってきた。


「んー? なんかあったのー?」

「何もなかったよ」


 ハンカチで手を覆っていたから、ちょうどお手洗いに行ってたみたい。

 邪魔されなくてよかった。

 ……今更だけど、デートで行く場所って私が考えるの?

 流石に鷹山考えてるよね?


「……」


 いつも通りの何にも考えてなさそうな顔。

 すっごい不安になってくる。

 一応考えておくか。はぁ……



***



「で?」

「でとは」

「申し開きはあるか?」

「何のこと?」


 変わらず昼ご飯は隆史と食べていたのだが、いきなり問い詰められている。


「いつの間に距離を詰めたのかって話だ」

「???」

「瀬川さんの方から挨拶。しかも2回目」

「クラスメイトだから挨拶するのは別に珍しいことじゃないでしょ」

「今までしてなかったじゃねえか!」

「何か心境の変化でもあったんじゃない?」

「お前が何かしたんだろ?」

「んー、放課後デートらしいよ」

「は? 瀬川さんがか!?」

「うん」

「おい、相手は誰だよ!」

「俺だけど。当事者でもなきゃ知るわけないじゃん」

「だったららしいとか言うな! あと、他の人に聞かれるんじゃねえぞ!?」

「なんで?」

「わかってると思うが、瀬川さんは人気なんだよ。今時珍しい大和撫子ってな」

「ばっかじゃない?」

「うっせー。で、相手とお前がデートなんてわかったら……」

「わかったら?」

「良くてリンチ」

「ちょっと瀬川さんに断っておくわ」

「待て待て、冗談だ」

「隆史に脅されたのでデートには行けません」

「おい! 俺が恨まれるような書き方すんな!」


 パンを食べ終えてしまった。

 いちごジャムって結構砂糖は入ってそうだけど、メロンパンとどっちが甘いのか。

 まだ因縁の相手には程遠い……


「というより、デートって普通にするんじゃないの?」

「お前の言う普通は明らかに普通じゃない」

「男女2人で出かければデートなんでしょ」

「いや、う~ん……まあ、そうか? それ誰に聞いたんだよ」

「妹だけど」

「うん。羨ましすぎて死にそうになるから一旦無視するぞ? いいか? デートに行くにしても近場にするんじゃないぞ」

「放課後にデートで遠出するとか、どういう神経してんの?」

「そこまでいうことじゃないだろ! いいだろ別に!」

「遠出するなら休日とかの方がありがたいでしょ」

「お前の考えは置いておけ。まずは瀬川さんのことを第一に考えろ」

「はいはい」

「お前とデートしてるのを同じ学年、いや、瀬川さんレベルならここの生徒に見られたら噂されるに決まってるだろ」


 ……確かに。それは、まずい。


「沖縄行くわ」

「お前頭どうなってんだ!? ぶっ飛びすぎだろ!」

「まじか。沖縄でも見られる可能性があると?」

「ちげえ! 時間的に無理だろ!」

「じゃあ、隆史はどこがいいと思うわけ?」

「そうだな……目につかなくてデートになると、やっぱり映画とかがいいんじゃないか? 受付とかを気を付けて、中に入れば暗いからそこまでバレないだろ」

「周りに誰がいるかなんて気にしないもんね」

「あとは、個室とか? カラオケとかもさっさと受付して部屋に入っちゃえば」

「他の人にバレない個室と」

「漫画喫茶のカップルシートは俺が許さん」

「そんなのあるんだ」

「いい。お前は一生知らずに生きろ」

「隆史って案外役に立つんだな」

「おい! 案外ってなんだ」

「はいはい。もう完全に理解できたから大丈夫」

「そういうこと言うやつって絶対理解できてないけどな」

「大丈夫大丈夫」

「どこにするつもりなんだ?」

「いいません。隆史につけられたりするかもだし」

「まあ、そこまで徹底してるなら大丈夫か。頑張れよ」

「頑張ることなんてないでしょ」


 スマホを取り出す。


「そもそも連絡先知ってるだけで羨ましいんだよな……」


 こっちを見てくる隆史。

 スマホを手前に傾けて画面を隠す。



***



「ん、朱子? スマホなってるよ?」

「気づかなかった。ありがとう」


 スマホを見れば、鷹山からメッセージが来ていた。




蛍:今日、家来る?


「はぁ!?」

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