第4話 アプローチ

 このままでは色々まずいと思い、肩を揺らして、組まれた腕もほどこうとする。


「ちょっと、いきなり動かないでよ」

「いやいやいや、その前に気にするところあるでしょ?」

「なに?」

「……近くない?」

「別に普通でしょ」

「え、そう、か?」

「嘘だけど」

「だよな!?」

「別にいいでしょ~」


 そのまま横に倒れる。頭が胡坐あぐらをしている俺の足の上に乗る。


「だから、近いって……」


 頭をどけようとするが、思いっきり力を込めているらしくなかなか持ち上がらない。


「……無防備過ぎない?」


 意地でも動かない! といった顔をしているので、諦めて尋ねる。


「もし、手を出すなら責任取ってね」

「軽い! 軽すぎるだろ!」

「蛍の財産は私のものね」

「金目当てか……」

「何言ってるの、心と体もね」

「根こそぎとろうとしてるじゃん……冗談はともかく、なんでそんなこと言うんだ」

「私の目的のため」

「……目的ってなんだ」

「私の目的? わかるでしょ」

「わからないから聞いてるんだ」

「蛍と付き合いたいの」

「……」

「聞こえた? 蛍と付き合いたいの」

「……え、シリアスは? この雰囲気で」

「明日のデートの最後に告白するから」

「今!? それ今言ってどうするの!?」

「返事はそのあとすぐに返して。次の日までに返事しなかったら告白を受け入れたとみなすから」

「待て待て待て」

「私は本気で蛍が好き」


 そう言うと、起き上がった。満足そうな顔で。


「じゃあ、食器洗おうかな」

「切り替えが早すぎる……」

「何にも切り替えてないからね。私は最初から最期まで蛍が好きだから」


 食器をもって流しの方へ行ってしまう。

 え、気まずいんですけど。


「あの、坂月さん? こっちで洗っておくので……」

「さっき名前で呼べって言った」

「……香織、自分で洗うから」

「私の使った分を洗うついでだから。気にしないで」

「気にするけど!? 自分が告白された相手とおなじ空間にいるのは精神的にクルものがあるんですけ!」

「告白は明日。まだしてない」

「したようなものだろ!」

「勘違いしないでくれる?」

「勘違い!?」


 香織は洗い終えたのか、水気をとっている。

 何この状況? つらい。


「気まずそうな顔してるし、そろそろ帰ろうかな」

「……そうか」

「今、安心しなかった? ん? そんな顔するなら泊まってくぞ?」

「勘弁してください」

「これからも永い付き合いになるんだから慣れて」

「確定事項!?」

「さてとっと」


 戻ってきて、教科書などを鞄に詰め始めた。


「あっ、そうだ。明日何時からにする?」

「え?」

「デート」

「ああ、デートね……」


 できれば行きたくない。


「モーニングコールしようか? それとも、カギ渡してくれれば直接起こすけど」

「いい、大丈夫だから。えっと、午後から? 1時ころにしようか」

「1時ね。わかった」


 返事を聞くと、香織はそのまま帰ろうとする。


「じゃ、また明日」

「ちょっと待って、集合場所は?」

「何言ってんの? 迎えに来るよ。無駄に会える時間を減らす必要ないじゃん」

「あっ、はい」

「じゃ、お邪魔しました。もう遅いから鍵閉めてね」


 軽く頭を下げると、帰っていった。おそらく隣に。

 …おふろはいってねよ。



***



 よし、ちょっと落ち着いた。お風呂しゅごい。

 そもそも、そんなに悩むことなんてない。

 返事なんて決まっているのだし、ちょっと相手のペースに呑まれてしまっただけだ。


 スマホが光っているのが見えた。

 そういえば全然かまっていなかった。でも、今は無理。

 どうせ隆史からだろうし、今日は寝る。おやすみなさい。




……




 甘いにおいが残ってるんですけどぉ……



***



坂月香織side



 明日、これ着てこ。お気にいりのだし。どこ行こっかな~? 水族館のデートは夢だったし決定でしょ? あ、でもご飯食べた直後だったら、あんまり歩くのも良くないか。映画館とか? でも、映像でびっくりして体に悪いかもしれないし。

 春とかだったらピクニックとかしたいのに。家族みたいでいい。うん、来年すること一つ決定。

 甘いものとかどうなんだろ? 学校で食べてるお弁当だけじゃわからないし、休み時間とかもお菓子食べてないから、あんまり好きじゃないのかな? でも、男子は女子と比べたらあんまり食べるイメージないし……明日聞けばいっか。話題にもなるし。

 あんまりキチキチしたら楽しめないかもしれないし、のんびりできる場所か~。

 初デート のんびり 場所 っと、検索検索。えっと、男性は…… 水族館が上位にある! やった。あー、魚の話題がね。なるほど、たしかに、いろんな種類いるだろうしね。カフェとかもあるのか~。でも、これも甘いもの好きかによるよね。あっ、コーヒーもか。どうなんだろ。男の人って好きそうなイメージあるけど。まあ、蛍が好きじゃなかったら意味ないし、全部参考ってことで…… あっ、猫カフェ!? そういう選択肢もあるんだ。そういえば、どこかにあるって聞いたことあるような。調べ…… もうこんな時間!?

 今日は寝て、明日起きてから考えよっと。



***



瀬川朱子side



 返事来ない。なんで、普通かわいい女の子からLAIM来てたら、返すでしょ? というか、なんで先に香織が交換してるの? 私からじゃない? むしろあっちから聞いてきなさいよ。

 男子は全員、あざとい感じの女の子が好きなんじゃないの? 私は完璧だったわよ? なのに、おかしくない? どういう神経してるの?


「あかね~? お風呂入らないの~?」

「もうちょっと待って!」


 お母さんの声に返事をしつつ、LAIMを更新し続ける。しゅっしゅ。更新更新更新更新。はやく、返事!

 部屋の扉が開かれた。


「もうあかねだけなんだから、はやくしてよ。お風呂きれないでしょ」

「……はいはい」


 仕方ない。寛大な心、そう、ひっっっっろい心をもって。 何か用事があって、気づいてないだけ。普通返すもん。返事どころか友達申請の許諾すら来ないなんてことないない。お風呂から出たら、気づいたあっちから慌てて返事してきてるって。












 来てない。





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