第14話 ジャブジャブ、シュッシュ!

「おはよう、鷹山君!」

「お、おはよう?」


 登校して教室に入った瞬間、瀬川さんに挨拶された。今までこんなことなかったんだけどどうしたのか。


「今日は、えっと、元気?」

「? 元気ですけど」

「そっかぁ。今週も頑張ろうね!」

「うん……」


 ??



***



 おい、どうした私?

 あきらかに不審者じゃん。

 いつも通りのまま話す回数増やすところからでしょ。


「朱子おはよ」

「おはよう」


 香織は隣の席だから必然的に顔を合わせることになる。


「香織、デート楽しかった?」

「あっ、えへ、楽しかったよ」

「そ、そっかぁ」


 えへじゃねえわ。

 なんでそっちが先にデートしてるのかって責めてんの。


「で、でもびっくりしたなぁ~……なんで鷹山君と? 仲良かったっけ?」

「あー、その、えっとね?」


 なに、周りに聞かれたくない話なわけ?


「(中学のクラスメイトなんだよね)」

「はぁ!?」

「ちょっと、朱子!? どうしたの??」

「……ごめんね? ちょっとびっくりしちゃって」


 は? マジで言ってんの?


「き、聞いたことなかったなぁ……」

「まぁ……実はね」


 照れてる香織とは正反対に私の心は冷たくなっていく。


「ちょっと、鷹山君に話したいことあったんだった。ごめんね」

「はいよー」


 あと少しで教師が来てしまう。


「鷹山君?」

「瀬川さん、どうかしたの?」


 どうかしたのじゃねえわ。表情には一切出さないけど。


「め、メッセージ届いてますか?」

「あ、うん。返すの遅れちゃってごめん」


 次の日にやっと返してきたもんねぇ!


「今見れますか?」

「今?」


 鷹山がスマホを手にもつ。


「瀬川さん、何か送ったの?」

「……」


 メッセージを打ち込んで送る。


『私ともデートしてくれませんか?』


 香織と鷹山はまだ付き合ってない。それは香織の反応からわかる。


「?」

「だめ、かな?」

「予定が無い日なら?」

「そっか、やったっ!」


 『私とも』と書けば香織とのデートを知っていることを改めて認識させることができる。このデートはそんなに重いものじゃないと勘違いさせることができる。


「じゃあ、その……後でね!」

「あっ、うん」


 なんだその気のない返事。喜べ。


「蛍と何の話してたのー?」


 蛍……へえ、香織が名前呼びするのか。


「ほら、香織にID送ってもらったでしょ? 間違えて変な時間にメッセージ送っちゃって」

「あー、あるある。寝ぼけてとか」

「だからごめんねって謝ってきた」


 変に刺激して香織が焦って関係を一気に変えようとされても困る。

 適当にうそをついて誤魔化した。



***



「で?」

「でって?」

「瀬川さんと何の話してたんだよ?」

「ああ、朝のこと?」


 隆史とお昼を食べていた。


「実は瀬川さんは魔法少女だったんだよ」

「ばればれの嘘やめろ」

「そう……実は魔法少年だったんだ」

「冗談はいいから正直に吐け」

「おえ」

「……」

「おでかけするの~」

「お前ばっかりなんでだ!?」


 隆史が面倒なことになってる。


「お前、もしかして催眠術使えたりする?」

「エロ漫画の見過ぎじゃない?」

「見てねえわ!」

「AVか。隆史、そういうのは18歳未満は駄目なんだよ?」

「モテ期ってやつか? 人生で何回か来るって噂の……」

「隆史も今が絶頂期だよね。クラスメイトなら女子に話しかけても通報されないもんね?」

「どういう意味だ!」

「悪いけど俺、テレビに映りたくないから捕まってもインタビュー受けないよ?」

「受けろよ! 友達だろ!? じゃねえわ! 捕まんねえよ!」

「え、隆史……悪いこと言わないから自首しよ?」

「ちげえ! そんな話してたんじゃないだろ!」


 メロンパンを食べ終えた。ちなみに中にクリームが入ってるやつ。

 いつかあの因縁のサンドイッチにリベンジするために……


「で?」

「そういえば、あの隆史の言ってた後輩ちゃんいるじゃん?」

「ん、いきなりなんだよ」

「さっき廊下通ってたよ?」

「え!?」

「教室覗いてたから、なんか用だったんじゃない? 肩落としてどっか行っちゃったよ?」

「マジかよ……」

「わざわざ先輩の教室訪ねてくるって勇気あることだと思うよ?」

「俺、ちょっと行ってくるわ!」

「はいはい」


 青春だなー。

 俺、後輩ちゃんの顔知らないんだけど。いつ気づくのか。



***



 家に帰ってしばらくして、瀬川さんから通話がかかってきた。


「もしもし?」

「あ、あの……鷹山蛍くんですか?」

「そうだけど」

「よ、よかった……電話越しだとちょっと不安になってしまって」

「それで、どうしたの? 通話って珍しくない?」

「そ、そうですか……? 私そういうの詳しくなくって……」

「? そうなんだ」

「……それで、その……で、デート!のことを、話したくて……」

「あー、本気だったんだ」

「ほ。本気です! あの、あ、明日! どうですか!?」

「明日って、放課後?」

「そ、そうです」


 チャイムが鳴った。

 

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