第13話 通い妻じゃん

「今更だけど、なんでうち来たの?」

「え、ここ私の家ですけど」

「違うよ? ここは俺の家!」

「一緒一緒」

「全然違う!」


 鍋の中をかき混ぜている香織。

 大丈夫。さっきトイレに行くついでに中にカレーが入っていることは確認した。


「あ、中辛でよかった?」

「いつもは辛口だから大丈夫」

「辛口ってよく食べれるね。罰ゲームじゃない?」

「俺の食べてるの辛口でも甘い方だから中辛と同じくらいだと思う」

「違いあるんだ」

「何かすることない?」

「いきなりどうしたの?」

「なにか手伝わないと落ち着かない」

「えー……その場ではねてれば?」

「何の手伝いにもなってない!」

「そうは言われても……」


 音が鳴った。


「あ、じゃあ、ご飯よそっといて」

「おぉ! ついに手を貸すことができるのですね……」

「ご飯とカレーは左右に分ける?かける?」

「私は分ける」

「おけまるおけまる」

「はいはい」


 ご飯をよそって渡す。


「ちょっとはやいけど食べよっか」

「そうだね」


 お皿を運んで、二人でこたつに入った。


「何やってるかなー」

「こういう時間って困らない?」

「確かに。変なニュースやってるし」

「明日は冷えるって」

「ならマフラーしていこっかな。二人で巻けるやつ」

「あれって存在するんだ? 普通の長さのだと防寒の効果薄まりそうだよね」

「お互い興奮してるからその分体温高いんじゃない?」

「なるほど」


 7時になった。


「隊長がんばってるなー」

「ねー。無人島とか体張りすぎ。50とかでしょ?」

「あ、蛇。そういうば、蛇というか爬虫類ってかわいい顔してるよね」

「蛍ってやっぱ変だね」

「え」

「あっ、チョコちょっと残ってた。……チョコがちょこっと残ってた」

「わざわざ言い直さなくていい。チョコ入れたんだ?」

「うん。なんとなく」

「カレーって隠し味で色々入れるよね」

「あー、コーヒーとかも聞いたことあるね」

「隠し味って普通の人でもわかるくらい変わるのかな」

「そうなんじゃない? 明日ためす? ちょっと残ってるし」

「うちに何かあるかな?」

「勝手に見とくねー」

「どうぞー」



***



 カレーを食べ終えて、こたつでぐだっていた。


「ほー、ほー、ほーたるこい。こっちのみーかん、あーまいぞー」

「どうもどうも、ぱくり」

「ふ、かかったな! それは媚薬入りのみかんだ!」

「な、なんてものを!? あっ、なんだか体が熱く!? ……逆じゃない?」

「えっち」

「そっちからはじめておいて!?」

「はいはい」

「……ほーれ、あたらしいみかんじゃぞー」

「わーい、ビタミンCだー」

「正直者のあなたにはレモンを差し上げます」

「もしかして、蛍、今、眠い?」

「ちょっと?」

「こたつで寝ると風邪ひくんだっけ」

「人類最大の罠だね」


 ところでいつまでいるの?


「あー、外さむそー。窓、がたがたいってる」

「そうだね」

「今日はもう、外出ると危ないかなー」

「……帰りなさい」

「そんな!? こんな寒い中歩いて家まで帰れと?」

「隣だから寒さ感じる前に着くよ」

「つきません~」

「だだっこやめなさい」

「……今日は、帰りたくないな」

「帰りなさい」

「鬼畜!」

「ほら、みかんあげるから」

「みかんで釣ろうとしたってそうはいかねぇ。足りない分は体で支払ってもらおうか」

「だからなんで男側をするんだ」

「ほら、私に餌付けして?」

「えづけて」


 むいたみかんを一つ口に入れた。


「これで名実ともにこの家のペット!」

「ちがいます」

「けちー……」


 香織はしぶしぶこたつから出て、立ち上がった。俺も立ち上がって玄関まで見送る。


「蛍が私とこれ以上いたくないって言うから帰るよ」

「言い方よ。明日は学校なんだから」

「そだね。じゃ、また明日学校で。おやすみー」

「はいおやすみー」


 香織が玄関を出て、隣に入っていったのを見て、玄関の鍵を閉めた。寒い寒い。

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