第2話 家庭訪問
スマホを開くとLAIMの通知が来ていた。
kaorin♪:初!
kaorin♪:何か反応は?
kaorin♪:おーい
kaorin♪:まだ見てないの
kaorin♪:土曜日のことなんだけど
kaorin♪:おーい?
kaorin♪:みてる〜?
kaorin♪:……
kaorin♪:無視?
kaorin♪:ねぇ
kaorin♪:ねぇ
kaorin♪:ねぇ
kaorin♪:ねぇ
kaorin♪:今どこにいるの?
kaorin♪:誰かいるの?
わぁ、こわ~い……
メッセージが送られてきた時間を見ると、授業が終わってからすぐに送り始めてきていたらしい。
蛍:メンヘラか
kaorin♪:おっ、やっと既読ついた
蛍:なにあれ、怖すぎない?
kaorin♪:いや、せっかくだしメンヘラ彼女風
蛍:せっかくってなんだ
kaorin♪:仕方ないから、彼女がいるって
kaorin♪:うそつくとき使っていいよ
蛍:使いどころがない…
kaorin♪:友達いないもんね
蛍:いるよ!
kaorin♪:嘘言っちゃいけないよ、おめぇさん
蛍:隆史、西倉隆史!
蛍:一緒に昼食べてた!
kaorin♪:西ってどっち?
蛍:方向じゃない! 西倉!
蛍:クラスメイトだろ!
kaorin♪:え、そんな名前の人、うちのクラスには
kaorin♪:えっ、あっ、そ、そうだね!
蛍:おい、やめろ
蛍:なんか妄想してるみたいだろ、いるから!
kaorin♪:鷹山ってアレだね
蛍:え、いきなりなに? なんで罵倒?
kaorin♪:罵倒じゃないわ!
kaorin♪:テンション高いなって
蛍:そうか?
kaorin♪:学校じゃすかしてるし
蛍:すかしてるって
kaorin♪:テンションで思い出したんだけど
テンションで思い出すことってなに? ドラクエ?
kaorin♪;同じマンションなんだね
蛍:え?
kaorin♪:半月マンションでしょ
蛍:なんで知ってるんだ?
kaorin♪:……
kaorin♪:今、あなたの家の前にいるの
嘘つけ!
ピンポーン!
ヒェッ
ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!
……こっわ
インターホンを見てみると、そこには坂月さんが本当に立っていた。
「……ねぇ、いるんでしょ?」
「こわいわ!」
急いで玄関に行き、扉を開けると、坂月さんがにやにや笑っていた。
「えへ、きちゃった♪」
「いや、彼女みたいに言われても、さっきまでので恐怖だわ」
「私たちは死ぬまで一緒でしょ?」
「なに、メンヘラ彼女続いてるの?」
「お邪魔しまーす」
「聞いて?」
「えー、寒いよぉ……風邪ひいちゃうよぉ……」
「勝手に来といて!?」
仕方ないので中に入れる。
「それで、なんで知ってるんだ?」
「何が? 鷹山のことなら何でも知ってるよ?」
「そういうのいいから」
え、本当に知らないよね?
「いや、私、お隣さん」
「まじで? 全然気づかなかった……」
「私がお隣さんってことは知ってても知るわけなくない?」
「ごめん、ちょっと理解できなかった」
「私の名前知ったの今日なんだから意識できないでしょ」
「そういうこと? でも、隣だとして、なんで知ってるんだ?」
「たまたま? 前に出てくるとこ見たから」
「そ、そうか」
ストーカーみたいでこわい。
「隣なら互いの部屋を行き来するのもすぐだね!」
「しなくていいです」
「真顔やめよう!? つれないなぁ〜」
坂月さんがベッドに転がった。匂いついちゃうでしょ!まったく!ありがとうございます。
「そういえば朱子が鷹山のID知りたいって」
「えっと?」
「……瀬川朱子ね」
「瀬川さんが?」
「友達からお願いします、だって」
「なんかふられたみたいになってない?」
「友達って、なんだろうね? そのあと一切話さないのに友達?」
「やめて差し上げろ」
「で、教えていいかんじ?」
「大丈夫」
「りょ」
女子ってみんなスマホ打つの速いよね。(偏見)
「さてとっと、この後どうする?」
「え、帰って?」
「ひっど! せっかく来たのに!」
「隣なら帰り道だろ!」
「なんかないの? ゲームとか」
「ない」
「え〜、つまんない……」
坂月さんが、ごろんと仰向けになる。枕を腕に抱いていた。ふむ。
「普段なにしてんの〜?」
「勉強とか」
「あ〜、そういえば順位高かったっけ……あっ、そうじゃん」
すぐに起き上がった。腹筋鍛えてる?
「教えてよ、勉強」
「え?」
「せっかくだし。もうすぐテストでしょ?」
せっかくとは、と考えている間に坂月さんは鞄から、教科書とノートを出して机に広げている。
「……なに?」
「色々言いたいことあるけど、教科書とか学校に置いてきてるもんだと思ってた」
「盗まれたり汚されたら嫌でしょ」
「なに、いじめられてる?」
「な訳ないでしょ。可能性の話。いいから、鷹山も用意して」
俺の鞄から勝手に教科書を出された。
「あっ、課題があったんだっけ? そっちからにする?」
「そうだな」
うん……おかしくない? なんかすんなり乗せられちゃったけど。
「あっ、間違えた。消しゴム借りるね。どっかいっちゃった」
「そうか」
「これって、なんだっけ?」
「えっと、すいへーりーべー………、ね? ネオンか」
「あー、なんか先生そう覚えろって言ってた! どういう意味なの?」
「意味は知らない」
「そっかー……そういえば、鷹山って文理どうするの?」
「まだ決めてない」
冬休み明けにアンケートをとると言っていた。
「鷹山は全部得意なんだからどっちでも大丈夫でしょ? なら、理系にしたら? 私も理系にしようかと思ってるし」
「そうだなぁ」
話しながらも手を動かし、課題を終わらせた。
「ちょっと休憩しよ?」
「テスト勉強は?」
「いいじゃん、まだ時間あるんだし」
「ていうか、いつまでいるつもりなんだ」
「……お腹すいたね……今日の晩御飯は?」
「わたくしはあなたのお母さんではなくってよ」
「ままぁ、おなかすいた~」
「昨日食べたでしょう?」
「わ~ん、お母さんがいじめる~ 訴えて賠償金でいいもの食べるんだから!」
「いや子供。こわいわ」
冗談はともかく。
「そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
「鷹山一人暮らしってことは自分で作るの?」
全然話聞いてくれないじゃん。
「一応作るけど」
「すごいじゃん。なんか得意料理とかあるの?」
「坂月さん」
「ん、なに? 私が得意料理ってやだえっち」
「焼けば食える」
「はい?」
「焼けば、食える」
「あー、男料理的な?」
「焼けば、食える」
「わかったから。本気で言ってるのは伝わったから。真顔やめて」
そっかー、と呟きながら、玄関の方へ向かっていった。
「帰るのか? 鞄忘れてるぞ」
「ちょっと待ってて」
閉じていく扉の隙間から、ぷらぷらと振られている手が見えた。
パタンという音ともに静寂が訪れる。
いつも見もせず無駄につけているテレビも暗い画面のままだということに今気がついた。
俺はなにを待っているのだろう?
ピンポーン
坂月さんがいる。
手にタッパーを重ねて。
「ごめん、手、塞がるの考えてなかった」
「どうやって鳴らしたの」
「頭突き」
「頭突きとな」
「ま、いいから」
「それはいいけど、なにそれ」
「余り物。一緒に食べよ」
「早くない? まだ6時前だけど」
「鷹山っていっつも何時にごはん食べてるの?」
「だいたい7時ごろ?」
「同じだ。後であっためるから、冷蔵庫じゃなくていいよね。おいといてくれる?」
「いいけど……」
重ねされたタッパーを受け取ると、坂月さんは靴を脱いでいた。
「……なに?」
「いや、別に」
「……あー」
坂月さんは近くに来て、玄関の方を見ると、口を開いた。
「ああやって靴が並んでると、一緒に住んでるみたいだね」
はにかみながら頭を傾け、俺の肩に乗せて言う。
うん……なにこの距離感!?
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