第8話 あーんってよくない?よくない!?

「蛍のせいで恥かいたんだけど?」

「素直にごめん」


 聞かれているとは思わなかった。ここのスタッフの人すごい見てるじゃん。

 安全のためかな。いいと思います!


「蛍はクラゲみたいんだっけ。そこのでいいの?」

「人いるからいいかな」

「恥ずかしがらなくていいのに」


 退いてもらうのも悪いし。


「すいませーん、撮らしてもらってもいいですかー?」

「ねぇ、話聞いてた? いいって言ったんだけど」

「ほら、どいてくれたよ」


 やさしさが染みる……


「すみませんすみません」

「はい、とるよー」

「……」スンッ。


 頑張って真顔になったはいいけど、注目されてるぅ……


「あっ、私の分もお願いしまーす」

「いいですよー」


 香織も隣に来て真顔になった。これって仲悪いと思われそう……


「とれましたよー。これで大丈夫ですか?」

「ばっちりです! ありがとうございました」

「すみません、ありがとうございました……」


 撮ってくれた人と周りの人に頭を下げ、香織を連れてその場を離れた。






「あっこれ、マンタ?」


 真上を通り、体の下が見える。


「本当に顔みたいになってるんだな」

「ねー、ちょっとキモい」

「香織って結構きついこというよね。結構かわいくない?」

「えー、そう? うーん」

「まあ、もうどっか行っちゃったからいいや」

「えー、ごめん」






「え、でっか」

「でかいなー」


 めちゃくちゃでかいタコが地面を動いていた。たこ焼き……


「たこ焼きすごいできそうだよね」

「……そろそろお昼時か」

「たこ焼きあるかなー?」


 ありました。


「私たちは普通に食べてるけどさー、人によっては嫌そうだよね」

「サバの味噌煮定食とかもね」

「え、さすがに水槽に入ってたやつじゃないよね?」

「違うんじゃない……?」


 わからないけど。知りたくない。


「たい焼きはセーフかな」


 香織がクリーム、俺が餡子のたい焼きをそれぞれ買っていた。


「形だけだしね」

「あっ」

「え、どうした?」


 香織が何かに気づいたらしく、箸を置いた。


「今、二人でたこ焼き食べてるけど、私別のにすれば食べさせてもらえたじゃん」

「まー、ほしいならあげただろうけど」

「惜しいことしちゃったなー……あっ、これでいいか。はい」


 たい焼きを向けてくる。


「一口食べていいよ?」

「ありがとう」


 一口貰う。クリーム味。こっちのも差しだす。


「こっちのあんこの方が王道って感じ? あんまり自分で買わないけど、たまに食べるとこっちも美味しいよね」

「俺もクリームは久しぶりかも」

「まだ、お腹いっぱいじゃないでしょ? 他のたい焼きの味も試してみない?」

「結構味の種類あったなー」

「じゃあ、ちょっと買ってくるから、荷物置いていっていい?」

「あー、俺の方が荷物ないから買ってくる。全種類でいい?」

「全部いける?」

「たぶん?」

「じゃあ、がんばろう」

「了解」





「買ってきた」

「ありがとー」


 買ってきた、たい焼きは8種類。香織は隣に移動していた。


「ロシアンたい焼きかー」

「あー、確かに一つ激辛あったよ」

「え、マジ?」

「そういえば、香織って見た目のわりにギャルみたいなしゃべり方じゃないよね?」

「なに、いきなり」

「いや、今マジって言ったからふと思って」

「そもそもギャルじゃないし、マジってギャルのしゃべり方なの?」

「違うの?」

「蛍もたまに使ってるよね? 蛍がギャル好きなら頑張るけど?」

「別に好きじゃないからいいよ」

「んーでも、結局食べるからロシアンも何もないか」

「確かに」


 お互いに一つ目を手に取った。


「あっ、チーズだ。にゅーすたんだーどー」

「なにそれ。こっちは抹茶かな? あんまり食べたことないかも」


 お互いに少し交換する。


「抹茶味どう? 好き?」

「ちょっと苦めだけど結構好きかも。香織は? チーズ味」

「クリームの次くらいに食べるかな。やっぱりおいしいよね」

「あー、屋台とかでもチーズは見るか」

「次はなにかなー」


 香織は皮の白いたい焼きを手に取った。反対に黒色の皮のたい焼きを手に取る。


「これは、何味だ?」

「私の方はチョコだね」

「これ、何味かわかる?」

「んー?」


 香織も食べて、目を閉じて味を確認している。


「ごま、かな? 多分だけど」

「だからちょっとざらざらしてたのか」

「チョコはどう?」

「こっちは甘いね。のどが渇くかんじ」

「わかる」

「というか、蛍買ってきたのに何味かわからないの?」

「えっと、黒糖とどっちかなって」

「黒糖味があるんだ」

「うん。のこりも教えた方がいい?」

「んー、当てたいから、食べてから答え合わせして」


 俺はたぶん黒糖味のたい焼きを手に取る。香織は少し迷っている。

 残っている3つすべて、ほぼ赤色。ピンクに近いものもある。


「じゃあ、これで」


 香織は一番ピンク色に近いものを手に取ってかぶりついた。


「んー、ん? え、何味かわからない」

「すこしもらっていい?」


 傾けてもらった手からたい焼きを貰う。


「あー、ちょっと感じるような?」

「えー、赤ではある?」

「赤と言えば赤?」

「もう、なんでそんなあいまいなのー?」


 何度か食べながらも首をかしげている。


「あまいけど……あっ、エビ味!」

「え、すご。正解」

「やった! え、結構すごいよね?」

「俺だったら当てられないと思う」

「私も自分でびっくり」


 そのあと黒糖味をふたりで食べ、残り2つ。


「どっちかは激辛と」

「まー、二人で食べるんだから、気軽に決めよ?」


 香織が先にとったので、もう一方を手に取った。


「せーの」


 うん。


「かっらぁ!?」

「蛍はずれじゃん!」


 香織はめちゃくちゃ笑っていた。急いで飲み物を口に含む。


「ひぇ」

「なんかかわいい声出てるけど、私も一口もらうよ?」


 ぱくり、と香織も一口かじったかと思うと、一瞬で顔が紅くなった。


「からぃ~!」


 涙目になりながらコップを口に運んでいた。


「からいからいからい! えっ、こんなのネタじゃないじゃん! ほんとに辛いじゃん!」

「これ、食べればちょっとはよくなる!」


 受け取っていたもう一つのたい焼きを渡す。それを食べながら飲み物飲み込んでいく。俺も同じ。




「ふぅ……」

「からかったね……」


 何とか辛いのを消費し終わった。ほんとつらかった。


「そういえばさ」

「うん?」

「結局もういっこって何味だったの?」

「あー」


 先に辛い方を食べてしまったせいで全然味を楽しめなかったけど。


「えっとタイ味」

「たい? たいって魚の鯛?」

「らしい」

「えー、水族館ぽいけど……タイの味全然しなかったんだけど」

「もしかしたら激辛と混ぜて本当にロシアンするためか?」

「それはあるかも」


 妙に昼飯?おやつ?に時間をかけてしまって、もうそろそろペンギン触れ合い体験が始まる時間になっていた。

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