第9話 イワシ娘っているのかな?

 ペンギンの触れ合い体験は、手を消毒したうえで直接触っていいらしい。

 こういうのは手袋の上から触るのかと思っていたけどそうでもないらしい。

 飼育員であってるのかわからないけど、ペンギンを抱えながら柵の近くを回ってくる。


「わぁ、初めて触ったかも。結構柔らかいんだね」

「なんか勝手にかたい毛のイメージあるね」

「濡れてる時のイメージが強いのかな?」


 やはり結構にぎわっていて、小さい子も多い。めちゃくちゃ目が輝いている。

 かわいい。ロリコンではないけど。


「なに、子供ほしいの?」

「香織、いきなり何を言い出してるの?」

「いや、結構好きそうだから。かわいいびーむ」

「それはペンギンに向けてあげてくれる?」


 頭を撫でたり、くちばしを触ったりと結構好きにされているのに、ペンギンは嫌がる様子はなかった。というか動かないけど生きてるよね? うん、あったかいし本物なんだけど、全然動かない。でも、かわいい。


「かわいいねー」

「蛍って結構かわいいもの好き? というか、動物好き?」

「結構好き。癒されるから」

「癒しねぇ……私がいつでも癒してあげるけど?」

「なんで動物と張り合おうとしてるの?」


 ぎゅっとくっついてきた香織を引き剥がす。


「そうやってつっけんどんにするじゃん」

「つっけんどんって」

「ペンギンには蛍から触るくせに私はすぐどかして」

「だから張り合うのやめよう?」





 ペンギンを堪能し終えて、館内に戻ってきた。外と比べていきなり薄暗くなるので少し目がくらっとした。


「こっちはなんだろー?」

「えっと、かに?」

「ほんとだ。カニと魚一緒に入れていいんだね?」


 足の長いかにが地面を歩いている中、その頭上ではのんきに魚が動いている。


「カニもかわいいよね」

「魚食べてるところとか?」

「いや、ちょっとわからなくもないけど、蛍はやっぱりちょっと変だね」

「なんか赤ちゃんっぽくない? 手で直接食べちゃうみたいな」

「それならほら、外国で手で直接食べる人も好きなのかな」

「それは違くない?」





「あっ、カレイ?ヒラメ? どっちかわからないけどあそこにいるよ」

「どっち向いてるかで見分けられるって聞いたことある。どっちがどっち向きかわからないけど」

「駄目じゃん……あ、ヤドカリもいる」

「なんで俺たち地面ばっかり注目してるの?」

「ね、サメとかいるのにね」

「ハンマーヘッドシャーク?」

「あたまどうなってるんだろうね」

「アレは結構ぶさいくだよね」

「でも、ぬいぐるみだとかわいいよね」

「ぬいぐるみは人気そうだよね」

「あとで買おうかな」

「いいと思うよ」

「お揃いにする?」

「んー、見てからで」





「普段食べるイワシがああやって大群でいるのちょっと違和感あるよね」

「一匹だけだと食材、って感じするよね」

「どのくらいいるんだろうね?」

「どうだろ。1万匹とかいるのかな」

「二人で食べても数年もつね」

「毎日は飽きない?」

「それは……私が頑張ってレパートリー増やさなきゃ」

「イワシ専門の料理人目指せるんじゃない?」





「やっぱりハンマーヘッドシャークのぬいぐるみある!」

「あっ、ずっと思い出せてなかったけど、シュモクザメか」

「だからずっと長い方で呼んでたんだ」

「あっ、チンアナゴのカプセルあるよ」

「んー、ゲームセンターにあったやつと同じみたい。全部持ってる」

「全部……こっちは? 模型?」

「もってないけど、それはいいや。蛍は?」

「どうしよう。なにか買いたいんだけど」

「マグカップは? 2組セットだし」

「マグカップはいいかな。何か置物でも……」

「サボテンとか?」

「なんで水族館でサボテンが?」

「さあ……」

「目覚まし時計にしようかな。家にないし」

「使うの?」

「スマホのアラームしか使わないかも」

「タオルとかでいいんじゃない? あって困るものでもないし」

「そうだね。それにしようかな」

「シュモクザメのぬいぐるみは少し高いし、私はマグカップにしよ。冬になるし」





「蛍、めっちゃつやつやしてるじゃん」

「一年分癒された……」


 水族館を満喫できた。


「えーじゃあ次行くの来年? イルカちゃんに一年間会えないのね……およよ」

「およよって、言葉の綾だよ?」

「さてと、帰ろっか」

「ん、どこか食べてかないの?」

「家で食べよ。もったいないし」

「あー、うん」


 一緒に食べるんだ。


「何食べる?」

「イワシ?」

「わー、ざんこく~」


 冗談めかして香織は笑っている。


「天罰として荷物持ちね」

「おぬし、神様じゃったか」

「ひれ伏しちゃう?」

「荷物持ちで勘弁してください」

「許しちゃう!」


 ぎゅっと腕を抱く。体重を掛けられてる気がする。


「とりあえず駅でいいよね?」

「うん。近くで売ってるから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る