概要
通院の事実を恥じる彼は、秘密を握った彼女の「人質」となって、行動を共にすることを強いられる。
これは壊れている世界で心を病んでしまった、一組の男女のくだらない軌跡。
「人質」は「共犯者」になり、しかしついには「恋人」にはなれなかった、二人の旅路の馴れの果て。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!語り尽くせない名作
時々、その作者にしか書けない物語に遭遇することがある。本作もその一つだと思う。
本作はいってしまえばラブコメで、ラブコメといえば「ラブアンドコメディー」なのでエンターテイメントの雰囲気が強いと思われがちだと思う。実際にこの作品もラブコメとしての要素は判断に取り込んでいて、楽しく読める。
そして、その一方で、限りなく人の内面に踏み込んだ、それもリアルな形での、深みがある。
この両立が凄い。楽しませながら、考えさせる、心を動かされる、そんな何かがある。
これを個性と言っていいのだろうか。個性というにはやや浅はかなのかもしれない。もっと深くの、人そのものをこの作品で垣間見た気がする。
会話文が多い…続きを読む - ★★★ Excellent!!!正論≠極論
正論と極論、これは真逆にある物。
しかしこれが“狂人の正論”と“常人の極論”となった場合、果たしてどうだろうか?
恐らく大多数の方は常人の枠に収まり、その中で様々な物を抱えながら生きている。
私達は何を以て常人とするのかについて、ある程度の共通認識を持っています。しかし狂人の定義・区分については人によって大きく異なる曖昧なものだと、本作を読んで改めて考えさせられた。
社会、ひいては集団生活を送るには不可視の型がある。その型に嵌まることが出来れば仲間として認め、そうでなければ弾く。
弾く際に意識的かどうかはわからないが、自然と仲間外れにしていく流れが生まれ、その流れが変わることは滅多にない…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ラブコメのような私小説、あるいは、限りなくリアルなラブコメ
作者さんの実体験が反映されていることもあり登場人物、特にヒロイン飯島加奈のリアリティには目を見張るものがあります。呼び捨てで書くことに躊躇いを感じるほどに。障害(最近は障碍あるいは障がいと書くことも多いようですがあえてこう書きます)を抱えた人々の物語として読んでも、充分な読み応えがあるでしょう。
しかしながら、この作品のラブコメとしての魅力もまた、語らずにはいられません。語り手、高橋月路の瞳に写る「先輩」は彼を振り回すある意味困った存在ではありますが、そんな「先輩」に惹かれていく描写は、読んでいて楽しいです。二人の間にある空気はけして息苦しいものではなく、軽やかでコメディとしての面白さもあ…続きを読む