ラブコメのような私小説、あるいは、限りなくリアルなラブコメ

作者さんの実体験が反映されていることもあり登場人物、特にヒロイン飯島加奈のリアリティには目を見張るものがあります。呼び捨てで書くことに躊躇いを感じるほどに。障害(最近は障碍あるいは障がいと書くことも多いようですがあえてこう書きます)を抱えた人々の物語として読んでも、充分な読み応えがあるでしょう。

しかしながら、この作品のラブコメとしての魅力もまた、語らずにはいられません。語り手、高橋月路の瞳に写る「先輩」は彼を振り回すある意味困った存在ではありますが、そんな「先輩」に惹かれていく描写は、読んでいて楽しいです。二人の間にある空気はけして息苦しいものではなく、軽やかでコメディとしての面白さもあります。ハラハラさせられる場面もいくつかありますが。純文学的でありながら、エンタメとしての面白さも一級品です。

そしてもう一つ挙げたい魅力が、豊富に取り入れられているゲームやアニメの話題。全ての元ネタがわかったわけではありませんが、ああそうだよね、と共感できる話題がありました。登場人物たちと同じ時代を生きている感覚が、先程あげたリアリティにつながっていることは語るまでもないでしょう。そしてそのリアリティが登場人物たちに深みを与え、その恋模様に引き込まれる一因となっています。

長々と書いてしまいましたが、作品の魅力は伝わったでしょうか?読んでみようかな、と思う方が、このレビューで一人でも増えたら良いのですが。

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