狂人の正論、あるいは、常人の極論
雨宮 隅
プロローグ
Future
まさか、僕がリクルートスーツに身を包む日が来るとは想像もできなかった。だが時は正確に刻まれ、僕はその呪縛から逃れられなかった。あと一年と少しで僕は学び舎を去って長いモラトリアムを卒業し、社会の荒波へ放り込まれる。
懐から深緑色の手帳を取り出す。
障害者手帳。
氏名、
生年月日、平成○○年、〇月〇日
障害等級3級
先輩が僕の前から「去った」後、彼女と過ごした記憶が薄れるのを少しでも遅らせたいとの一心で取得した、お守り。
そんな純粋とは言えない動機から、導かれた過程が今日ここにある。
今日行われるのは、障害者向けの合同説明会だ。まだ企業数は圧倒的に少ないが、国の障害者雇用率の押上げをうけて、確実にその数は増えている。
この手の集まりに参加するのは初めてだ。今まで精神科に通いながらも、一時的にお世話になっているだけで、自分は障害者じゃないと言い聞かせてきた。
でもどうやら僕の精神は、彼女と同じように変わっているらしい。
奇妙らしい。おかしいらしい。
今では、障害を持つことに誇りを持つとはいわないまでも、障害を持つことに戸惑わないくらいにはなっている。
かつて先輩が理不尽な世界で懸命に笑って過ごしていたように。
彼女が生まれ授かった様々な制約に
だから僕もそれを見習って、
生きる。
飯島先輩。
僕はもう少しだけ足掻いてみようと思います。
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