経験した人にしか見えない世界と恋愛模様のギャップ

正直に言うと作者さんの自己紹介に惹かれて読み始めました。
どのジャンルでもそうですがその状況を経験した方としていない方では詳細な描写の部分に大きな差が出ると思っています。
この題材に関しては健常者として取材をしても実際に精神科に通っている人との差を埋めきるのは難しいと思いますし、実際に主人公達と同じ境遇の作者の方の一人称小説が読めるのは貴重な体験でした。

始まり方は病院で男女が出会い仲を深めて、というどこか既視感のある内容で、ヒロインの目的もそこまで新しい部分があるわけではないのですが、そこは精神障害というリアルな題材を扱っていることもあり非現実的過ぎないところも魅力だったのかなと。
一人称小説として読める主人公達の心情描写も彼らの人間性を理解するに十分な丁寧さで、キャッチーとは真逆な硬派な始まり方ながら作品の世界に引き込まれた理由はひとえにその文章力にあると思います。

個人的にマイナス方面に思ったことを書くならば、もう少し序盤から障害の部分にフォーカスすることを増やしてもよかったのではないかと。
精神障害の二人が普通の恋愛を送ろうとする序盤は、一話単位で切り取ると良くも悪くも普通のラブコメになりかねないので、ネット小説という媒体で見るとそこだけが勿体ないなと感じました。

ただ、文庫本として考えるなら全体を通してみた時に緩急の緩の部分にあたる話だと思いますし、自分でも少しエンタメに寄った意見だとも思うので、特に気にしないでください。

今回は面白い作品をありがとうございました。

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