全体的にノスタルジックな印象のある本作、どこか懐かしい、それでいて悲しげな雰囲気をまとうこの物語。決して万人受けとは言えないが、純愛であることは間違いないし、彼女の運命を変えることもできない。
悲しい現実だが、未来を先んじるといつまでもとどまっていられない。悲しさを背負っていく姿がそこにはある。
ここ一週間くらいで読み終えたが、作品としての完成度が高く、時折見せる過去の話が今へとつながり、悲しみが滲む。
まほろという少女も、主人公の佐保も同じようにしてコミュニケーションが得意ではない。
まほろは人には言えない秘密があり、それを受け入れる佐保。マンガを描く佐保に対してまほろが感じた思いとは? それを考えるともどかしい気持ちになる。
二人は互いに支え合い、不可思議な現象の中でも、幸せにつないでいく。
この二年と三ヶ月の間、彼女らは幸せだったに違いない。悲しい現実がこようとも、いずれは幸せな思い出に変わっていく。
喪失感と幸せは表裏一体なのかもしれない。そう感じました。
最後に、面白い作品をありがとうございました。
一話の最後に二人が別れが訪れる形になり、今の日常が元通りにはならなくなった中で過去の話として進んでいくのかと思いましたが、話は今と過去を行き来する形で進んでいきます。
現在の物語に関係する過去の物語が明かされ、また現在の物語に繋がった時、パズルのピースがハマったように話に引き込まれる感覚があります。
あとは何と言っても美しい文章とストーリー。
文章自体の美しさも感じますが、小説全体から感じる美しさはまるで神聖なものでも見てるような錯覚に陥ります。こんなこと言われても作者の方も困ると思いますけど。
ただ確かに、少しわざとらしさのある可愛さや萌えとは全く違う、自然体な美しさがこの話にはあると思うんですよね。
その雰囲気がとても魅力的な作品です。