第7話 ベッドの上で
オレはレイラを誘ってバルコニーに出た。
街の灯が丘の下に広がって、さほど大きな市街ではないがそれなりに美しい。手前に見える真っ黒な建物は学園だ。もう誰もいないようだ。
「宇宙人だったんだ」
「うん、どのくらい離れているのかまだわからないんだけど、かなり遠いところ」
「イカとかタコみたいじゃなくてよかった」
「うふふ。同じことをイも最初言ってた。どんなに姿形が違っててもなんとかコミュニケーションしてみるって。あ、擬態じゃないよ。これが私の生まれたままの姿」
オレが、人間体に化けているのかも? とふと心に思ったのをレイラが読んだのだ。
でもレイラ、う、生まれたままの姿って。それ裸の時にいうセリフだから!
「あ、航平、エッチなんだ」
「だって急にそんな言い方するから!」
やばっ、ビキニアーマーの乳汗思い出した! うわっ、コクピットのプリケツもとい尻神様も!
うわああ、平常心! 脳ブロック! セクハラ、ダメ、ゼッタイ!
「あはは、航平ってやっぱり面白いね」
「面白いって……。なんかスミマセン」
オレからはレイラの心のなかは見えない。
ソフィアのハードな感じではなく、ナチュラルにリンクをブロックしている感じだ。
生まれた時からOTが当たり前の世界で暮らしてきたからかな?
「知性体はその星でどのような進化を遂げようといずれ同じ形に収斂する、という仮説があるわ。この星の人を見ていると、本当にそうなのかも」
ふーん。
「パンスペルミア仮説というのもあるわ。この宇宙の知的生命は前宇宙の遺伝子がビッグバンとともにばら撒かれて造られた」
「あ、それ知ってる。宇宙は膨張と収縮を繰り返している。ビッグクランチで潰れた前宇宙のタネから新たな宇宙の生命が生まれた……。それを繰り返して知的生命体が進化するとかいう脈動宇宙論」
ちなみにこれは某アニメの受け売りなんだけど。
「元が同じ遺伝子だから知的生命体は同じ形質を持つという仮説ね。この星にも同じようなことを主張する科学者がいたり、実際私とこの星の人々がほとんど変わらないという事実から、それもありえるかな。どっちも荒唐無稽な説といえばそれまでだけど」
いや、オレはそんなことを聞きたくて誘ったわけじゃなかった。
「レイラ、なぜオレと交際宣言なんてしたんだ?」
「航平のこと好きよ。それじゃダメ?」
ストレートすぎてオレのほうが赤くなった。
「ちょ、ちょ待てよ。昨日会ったばっかだぜ。確かに昨日から今日にかけて一生分くらいの出来事が一挙に押し寄せてる感はあるけど! なんでそれで突然」
「私はもう何カ月も前から航平を知っているわ」
ヴァンダーの適合者としてな。でもそれとこれとは……。
「航平は私のこと好きじゃない?」
いや好きですはい。
こんな超絶も超絶な美少女、嫌いとか言ったらバチ当たりますはい。
顔もそうだけど、スタイルがボッキュンボーンでもうね、ムラムラしないほうが男の子としてどうかしている。
「うふふ……また想像するのね。恥ずかしいわ」
しまったーっ!
また脳内妄想垂れ流しーっ!
「でも、私の体、見たい? 触りたい?」
はい、見たいです触りたいです。
「問題ないわ。私は航平の彼女。航平さえその気なら、好きにしていいのよ」
好きにしていいんですか!
清く正しくとか言ってませんでしたか!?
清く正しく好きにしたらいいんですか!?
唇とか!
おっぱいとか!
尻神様とか!
腰とか!
そして!
一番大事な!
ナニをナニしてナニなナニをナニってナニナニ……。
殺気を感じて後ろを振り向くと、かあさんが立っていた。目が座っている。
ワインの瓶を持って。
酔ってるやろ……かあさん。
ちょっと待って、LR着けてる! しまったオレの妄想が筒抜け……。
レイラがひ、と小さく悲鳴を上げた。
ぼこっ!
オレの意識は、瞬時に途切れた。
◇◇◇◇
目が覚めた。
ベッドだ。
暗い。まだ夜中のようだ。部屋の電気は消えている。
オレは頭を撫でた。派手に殴られたが、けがはしていないようだ。石頭でよかった。
かあさんも冗談のつもりだったんだろう。女武蔵に本気で打ち込まれたら、脳天唐竹割りになる。
右半身と左半身が涙のお別れだ。
オレはLRを着けてない。というか服も着てない。
トランクスはかろうじて履いてた。感触からして新しいものだ。
誰が履き替えさせてくれたんだろう?
……ふつうに考えて、かあさんだろうな。
ん? なんか左右に温かくて柔らかいものがある。
手を伸ばすと左手にぷにゅんと張りのある丸い弾力。
右手のはぼってりとした重い感触。
ええと、これは、まさかの……。
顔を左右に振る。
至近距離で左にレイラ、右にかあさんの寝顔があった。うひょうお!
レイラはブランケットをかぶっていない。ていうかオレもだけど。かあさんもだった。
この部屋の空調は精密にコントロールされていて、掛け具なしでも快適なのだ。OT化されたAIエアコンである。そんなことはどうでもいい。
レイラは裸だ。かあさんは下着姿。慌てて右手を引っこめる。
あっぶねー!
かあさんがいくら美人といえど、かあさんのおっぱいを触っていい歳じゃない。そういう問題行為で不道徳な趣味はオレにはないのだ。
その分左手はそのままにし至高の弾力をしばし堪能する。うひょひょ。
かあさんは仰向けに寝てるが、レイラはうつ伏せなので、はみチチ部分しか触れられないんだけどね。
元が凄いボリュームなので、はみ出した部分だけでも揉み心地は抜群だ。いい。うん、凄くいい。
ぐへへ。
さらに目が慣れてきてよく見ればソフィアさんとクリスチーネさんが足元で寝てる。
こっちはちゃんとパジャマに着替えてる。
よかった。
いやよくない!
なんぞこの唐突なハーレム展開。
てかこのベッドデカすぎだろ。クイーンサイズってやつ?
レイラが身動きした。しゅっこっと左手をひっこめる。
電光石火。今の早業ならレイラに勝てるんじゃね?
「気がついたの……。よかった航平……」
目を覚ましたレイラが上半身を肘で支え起き上がる。
おいおいおいおい。そのかっこで起きたら。
ちょっとー。レイラさーん!!!
暗いから余計に白い肌がくっきりはっきりと。
腕の間に大きなスイカが。ビーチボールが。天使がこねたでかい餅が。
これだけデカいのに重力に逆らい垂れもせずにそこにしっかりと存在している!
すげー!
ぷるん。ぽわん。
若いって素晴らしい。
いや、そうじゃない!
先端の見えてはいけないものまでばっちり丸見えに見えちゃってるよおい!
見えすぎちゃって~って古いCMソング歌っちゃうよ! うおおお!
(宇宙人も地球人とおんなじなんだなー。地球人女子のナマはだか見たことないけど。主にネット知識だけど)
いやいやいや、そんな冷静に観察してる場合じゃない。
レイラが腕を伸ばしてオレにおぶさってきた。背中に手を回して密着する。
「まだ夜中よ。もう一回、寝よ」
レイラが耳元で囁く。なんか昼間もこんなことあったな……。
って胸に胸が密着してるんですけど!
ドキがムネムネ!
こんどは生だし、さきっちょの尖ったところの感覚までわかるんですけど!
それがオレの胸にあたってツンツン刺激するんですけど!
あはん。
いやちがーう!
「……ん?」
いやそのこんな状況で生理的にねこりゃもうしょうがないじゃないですか―。
青春ど真ん中―!
元気爆発―!
息子大膨張―!
「……航平、興奮してる……」
あっ。そんなとこさわさわしないでー。ひいい。
「……航平がその気なら、好きにしてかまわないのよ……」
んなこといわれてもすぐとなりにかあさんいるしソフィアさんもクリスチーネさんも寝てるしそんな無茶振り。
レイラさんオトコノコを追い詰めないで。
もうやめてオレのライフはゼロよ。
「うううん」
かあさんが咳ばらいをした。
慌ててレイラを引きはがし、ベッドに押し付けた。
今度はオレの下で仰向けになったので、全部見えてしまった。
胸も、へそも、その下も。
……これが宇宙姫騎士様の高貴な部分。ごくり。
うん、まさに気品に溢れている……。
いや違ーうう! 見ちゃダメだー!!!
でもそれはオレの眼に焼き付いてしまった。脳内メモリー再生余裕。
いや再生しちゃダメだ―――――!
「寝る! 今すぐ寝る!」
オレはしっかり目をつむって何も思い出さないようにした。
羊が1匹……。羊が2匹……。
2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41……。
色即是空。空即是色。
心に壁を作るのだ。ブロック! ブロック! ブロック!
頼む静まれオレのマイサン。
◇◇◇◇
ようやく朝日が昇った。
結局一睡も出来なかったよ……。
目はつむっていたけど。
レイラはあの後しばらくしたらスース―寝息をたてはじめたけどね。
なんと無防備な。
登校までだいぶ時間があるのでシャワーを浴びてスッキリすることにした。
各部屋にユニットバスがあるはずだが、このベッドルームにはなぜかなかった。
まだ4人は寝ているので起こさないようにして部屋を出た。かあさんとレイラからはぐっと目を逸らす。
レイラのあられもない姿をこんな明るい中で見たら、いろいろ出しちゃう。
うん? 鼻血とかだよ。と・か!
かあさんも、万が一にもそっちの性癖に目覚めたらまずい。とてもまずい。
ロテルの間取りは昨日のうちにLRで学習済みなので、オレは迷わずシャワールームにたどり着いた。
バスタオルやローブはシャワー前室に用意してある。だからオレはパンツ一丁で手ぶらだ。
シャワールームはフィットネスクラブのそれのように、壁とカーテンで仕切られたシャワーブースが5つあるタイプだ。
ロテルには個室のユニットバスのほか、2階にこのシャワールームと、3階に屋上露天風呂付き大浴場がある。
今までは女ばっかりだったけど、オレととうさんが暮らすようになったから、男女の時間割を作らないといけないな。うん。
ボディシャンプー等はブースごとに小さな棚があり、そこにセットされている。
よく知らないが、海外ブランドっぽい。見たことあるが読めないロゴだ。
匂いもきつくない。
ナチュラル系ってやつかな?
頭をゴシゴシ洗いながら、ここでスッキリさせちゃあかんかなー、などと下を見ながら考えていたら、扉が開く音がした。
どきっ!
「入るぞ」
「・・・・」
レオノラさんとイライザさんが裸で入ってきて、日本語で挨拶(イライザさんは喋ってないが)するとオレの左右のブースでシャワーを浴びはじめた。
「いやー飲んだぞ。飲んでたまま食堂で寝ちゃったぞ。コーヘイのパパさんなかなか強いぞ」
「・・・・」
「パパさんもさっき起きてママさん探してたぞ。ミッチーどこーって言ってたぞ」
「・・・・」
そうですか。
ってあなた方オレと一緒にシャワーしながら、なんでそんなフツーに会話してるんですか!
わざわざ隣に来るし。
だいいち誰かシャワーしてるの入ってくる前にわかるっしょ!?
それとも軍人って風呂に男女の別ないの?
シャワーはブースごとに仕切りがあるから今は見えないとはいえ、出入りする時は丸見えだ。
ん?
かあさん探してた?
やばいぜ! あの部屋に入ったら真っ裸のレイラが!
オレは大慌てで泡を流すとローブを着てダッシュで戻った。
寝室はもぬけの殻だった。
ベッドメイクし直され、ブランケットもきちんと畳まれていた。
掃除も済んだのか、髪の毛一つ落ちていない。
食堂を覗いてみると、壁際に料理がビュッフェスタイルで準備されており、かあさん、とうさん、レイラ、ソフィアさん、クリスチーネさんがトレイを持ってセルフテイクをはじめていた。
リゾートホテルのモーニングだな、まるで。
とうさんは昨日のまま、かあさんはローブ姿だが、レイラは学園の制服、ソフィアさん、クリスチーネさんはいつもの黒スーツ姿だった。
とりあえずセーフ。
それにしても着替え素早いな。レイラは
朝の挨拶をしてオレもトレイを取って食事をすることにした。
ソフィアさんが、
「航平、頭は大丈夫みたいだな。良かった」
と安心していた。心配で同じ部屋に寝てたのか。どんだけの勢いで殴ったんだよかあさん。
朝食もご馳走だった。
和食がないのは残念だったが、パワーサラダにドイツソーセージ、ほうれん草のオムレツ、グリルチキン、ホテルブレッド各種、オニオンスープ、フレッシュトマトジュース、プレーンヨーグルト、カットフルーツ、最後にホットコーヒー飲んだらホント腹一杯になった。
食事しているうちにレオノラさんとイライザさんも黒スーツ姿でやってきて合流した。
二人は朝からシャンパンをグラスで飲んでいた。
これがホントの朝シャンってか。
食事の終わりにロボメイドが朝刊を持ってきて、とうさんは経済新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。
ソフィアさんはフィガロを、クリスチーネさんはワシントン・ポストを、イライザさんは24サーチを、レオノラさんはザ・タイムズ・オブ・インディアを読んでいる。
国際的だなあ。
とうさんはそのうち髭剃りを兼ねてシャワー室に行き、オレも着替えに部屋に戻った。
そうこうするうちに適当な時間になったので、オレとレイラは学校に、とうさんは会社にリムジンで送ってもらうことになった。
念のため、LRも着けている。
決してなくさないようにとソフィアさんからくどくどと注意を受けた。
ちなみに仮になくしたとしても遠隔でリンクを切れるし、リンクが切れると基盤が自爆するので機密は守られるらしい。
内部を破壊するだけで、人間を殺傷するような威力ではないそうだ。
まあでも、なくしたらおおごとだ。
かあさんは専業主婦なのでロテルに居残り。これから露天風呂に入るんだと。
今日はクリスチーネさんとイライザさんが学校送迎担当、運転はクリスチーネさん。
ソフィアさんがとうさんの会社送迎担当で、玄関先に2台のリムジンが停まっていた。
空飛ぶ改造リムジンは全部で4台あるのだが、OTの塊なので普段は1台で運用をしているそうだ。
レオノラさんはかあさん同様ロテル居残り組。
イライザさんとレオノラさんは運転しないから朝シャンしてたのか。道路交通法はしっかり守るのね。
超法規的国際組織なのに。
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