第4話 ヒーローロボ、ここに見参
空飛ぶリムジンの中では英語が飛び交っていた。
「特定対象を補足。
「前回の出現から370時間弱。周期が早まっている」
「内閣総理大臣の承認期限は40分間。
「UCとしては、無力化の上今度こそ捕獲したい」
「
えーと、この人たち何言ってるの? オレ、英語のヒヤリングは苦手なんだよ。ヒヤリングだけじゃないけど、さ。
レイラが最後に
「
空に虹色の丸い渦が出現した。虹色だが虹じゃない。円がべた塗りされたように七色に渦巻いて輝いているのだ。それに太陽は渦の向こう側にある。
なんだありゃ? オーロラか? この日本で?
虹の渦はみるみるうちにぐにゃぐにゃと変形していき、粘土でこねて作った大の字のような形になった。
すぐに、さらに輪郭がはっきりしていき、虹がすっと薄れると、そこに巨大な人型の機械が現れた。
これはどう見ても……。
「巨大ロボ……!」
「航平、あれ一応名前があってね、
レイラが日本語で教えてくれた。
へえあれがグルバタンか……。ほほう。
って知らないよそんなの!
「特定対象と
「特定対象出現地点から半径2キロ圏を
「
「いつでもいいわレイラ。自分のタイミングで」
「
レイラがまた英語で叫んだ。後半は英語じゃないみたいだが。
オレたちから少し離れた空にビキビキビキッと裂け目が出来た。
うーん、空に裂け目って、なんぞそれ!?
俺の思考は異常すぎる現実についていけてない。
その裂け目から、今度は二本足の恐竜を思わせるごついシルエットのロボットが空中を歩いて出てきた。
長い翼が後方に伸びている。
凶悪な面構えだ。強そうだが、虹色の渦から出てきた方が正義のロボットっぽく、レイラが
「今現れたのは
「は?」
「ジャンプするわ」
オレはレイラに座ったまま抱え込まれた。
いつものいい匂いが鼻いっぱいに広がる。さっき平らげていた辛みそラーメンの臭いは全くしなかった。
そしてデカい二つの膨らみが俺の上半身を優しくかつみっちりとホールドする。
いろいろすげえぞレイラ。
目の前の景色が切り替わり、そこはリムジンのキャビンではなかった。
球状の部屋に外部の様子が投影されている。
知ってるぞ、アニメでよくある全天周モニター式コクピットだ。
部屋の半ばが2階建てのようなタンデムシートになってて、オレが上後方、レイラが下前方に座っていた。
もちっとレイラに抱きしめられていたかったが、それ以上にこの状況に興奮した。
これは、夢じゃないよな!
現実は、ビキニアーマーなファンタジークエスト世界ではなく、スーパーなロボット大戦世界だったのか!
しかも爆乳美少女パイロット付き!
これでボディラインぴったりくっきりなパイスーなら言うことなしなんだが、レイラもオレも制服姿のままだった。
ちょっと残念。
レイラがオレを振り向きながら茶目っ気たっぷりに尋ねる。
「ふふっ、ここどーこだ?」
「さっきのごついロボットの中だよね、きっと」
「正解。
はいはい。
もうなんでも来いやっ。
すでにオレの乏しい頭脳は考えるのをやめている。
全天周モニターの正面にさっきの
「無力化して捕獲。UCも面倒なこと押し付けてくるわね。まあ今に始まったことではないけれど。航平、たぶん後でお願いするから、しばらくはそこで見ていてね」
何をお願いするんだよレイラ。
あー、なんだろうこの置いていかれ感。
ま、オレはどうせ思考停止してるから、いいんだけどね。
それに、見てろといわれなくても見てるけど。
巨大ロボ対巨大ロボの戦いをコクピット視点で観戦する日が来ようとは!
前席のレイラはちょっと前かがみ、というかちょうどバイクにまたがったような姿勢なので、ケツ、いやいや、そんな下品なもんじゃない。もといお尻の丸みがスカート越しにくっきりわかる。胸や太腿もそうだが、レイラさん実に豊満なボディをお持ちで。
操作するたびにそのプリケツ、もといカワイイお尻が至近距離でふるふる揺れる。
この席、まさにプレミアムシートやんけ! うほほーい!
ガコーンという重い金属音が響く。
ダメージ0。
逆にイ・ドゥガンの肩や胸先から細いビームが発射された。
イ・ドゥガンが追撃する。
イ・ドゥガンが右腕を振ると、剣が出現した。
こちらは
ガン! ガン! ガン!
空中を二重らせんのようにランデブー飛行しながら、剣と剣がぶつかる。
圧倒的にバスタード有利と思ったが、レイピアが技で受け流す。
敵も強い。
「おいおい、なんだよ。互角じゃねーか!」
「
またレイラがわけのわからないことを言う。
何合目の斬り結びか。
レイラはビームで牽制し、足技、肘鉄、また
イ・ドゥガンより
そうか、奴の方が軽いんだ。
おそらくは。
戦闘終了時間は1時15分とか言ってたっけ。うん、その程度の英語は分かったよ。
オレは腕時計を見る。
もう1時6分だ。
ヤバイんじゃないか、これ。
「航平……」
レイラが上ずった声を上げ、後ろを振り向いた。
額が薄っすら汗ばみ、頬の紅も色がやや濃くなっている。
さすがに疲れが出ているのか。
そうだ、レイラは言っていた。後半お願いするって。
「レイラ、オレになんかやってほしいことあったんじゃないのか。どうしたらいいんだ!?」
「受け入れてくれる? 私とイ・ドゥガンを」
「なにがなんだかさっぱりわからんが、あいつ、
「受け入れてくれるのね?」
「おお」
「ありがとう! それを待っていたわ!」
オレはビョーンと両手両足を何かに引っ張られてシートから飛び出した。
「わああ、なんじゃこれは!」
「受け入れてくれるのよね! 私を!」
レイラに祈るように言われたら、もう覚悟を決めるしかない。
「わかった、男子に二言はない。なんでもやってくれ!」
「ありがとう!」
シートのさらに後方、階段状の3段目が小さなステージのようになっており、オレはそこに着地した。
金属でできた
これに引っ張られたのか。昔のテレビ番組のゴムのコントみたいだな。太いゴムバンドをつけて必死に走るが途中で力負けしびよーんと後ろに吹っ飛ぶ、あれ。
「フィジカルリンケージ確認。イ・ドゥガンからイ・ヴァンダーへ
おいおいおいおい。
なんかもの凄いきしみ音と振動がしてるぞ。
さらに手足についたアームから熱いなにかがオレの中に流れ込んでくる。
イ・ドゥガンの胸部と腰部の分厚い装甲が、甲虫の羽根のように大きく展開し、内側から無数の兵装がせり出すのが、なぜかわかった。
モニターに映っているわけじゃないのに。
手足の太い装甲も解放され、細マッチョな形態へ変形する。外れた装甲は一部は収納され、一部は武器と化す。
竜を思わせる仮面が割れ、人の顔が現れる。
背中の大きな翼がバインダーのように畳まれると、恐竜にも似たシルエットだったイ・ドゥガンは、全身を武装した巨大な騎士の姿となった。
これは! 間違いなくヒーローロボット!!
敵よりもめっちゃかっこいいじゃんか!
そしてオレの中に流れ込んでくる熱いものは、イ・ドゥガンの知覚と認識だった。
オレはイ・ドゥガンと同じものを見、同じものを聞いた。感覚神経、運動神経を共有した。
人間では感知できない可視外、可聴外の情報さえ認識できた。
オレはイ・ドゥガンそのものになっていた。
そしてオレの中にレイラがいた。
「航平、あなたはイ・ドゥガンと合身したのよ。いえ、イ・ドゥガンじゃない、今の航平はイ・ヴァンダー。最強の
体の中からレイラの声が響く。
イ・ヴァンダー、……人工知能『イ』の知覚と知識を共有しているオレは、レイラのいう言葉を即座に理解できた。
そしてオレの中にいるレイラのナビゲーションも、遅延ゼロで直接オレに伝わってきた。
レイラとオレと『イ』は、その時一体になった。
こちらの動きが停まったとみて
オレの両手に剣が出現した。ロボサイズの日本刀だ。右に太刀、左に小太刀。
二刀流。
イ・ヴァンダーがそれを望んでいることがわかった。
オレの黒歴史。若さゆえの過ちの後悔の念はもう消えた。
オレの中に湧き上がるのは、むしろ歓喜。
さらにそこから小太刀を跳ねあげ相手をやや浮き気味にして
ここまで一呼吸。
手ごたえはあったが、まだ決定打じゃない。
接近戦は不利と見たのか、
させるかよ。
オレはビームを小太刀で斬り捨てながら太刀を上段に構えて
攻撃が上からくるものとみた
ふっ。甘いぜ。
下段から小太刀で脇から肩へ逆袈裟斬りにする。
更に間髪を入れず上段の太刀を振り下ろす。脳天唐竹割りだ。
斬られて落ちていく右腕を含め、
太刀の先に1メートルくらいの卵型のなにかが、半ばまで割かれくっついていた。
オレは刀を消して、その壊れた卵を回収した。
「
レイラがそう言うと。展開した装甲が再び閉じて恐竜型に戻った。
と、オレの意識も自分の体に帰ってきた。またビヨーンとアームが伸び、オレは後部シートに座った。
おお、なんかめっちゃ疲れたな。だるいぞ。
「ありがとう航平! やっぱUCの情報は正確ね! 相性ばっちりだったわ!」
レイラがコクピットをよじ登り抱きついてきた。
爆乳を押し付けられるのが気持ちいい。
いや待て。
UCって、何?
ああー、なんかさっきまではイと知識を共有してたからなんら疑問を感じなかったけど、元に戻ったとたんまたわけがわからなくなっちゃったぞ。
えーと、これっていったいなにがどうなってるんだっけ???
「ジャンプするわね」
オレたちは空飛ぶ変形リムジンの中に一瞬で戻っていた。
イ・ドゥガンが空の裂け目に消えて、その裂け目が閉じロボットバトルの痕跡が何もなくなるのを見た。
改造リムジンは学校近くに戻り、校門前に着地した。
オレとレイラは先に降ろされ、女性4人を乗せたまま外装がシャカシャカとパズルのようにスライドしてノーマルなリムジンに戻った。
「13時13分、特定対象殲滅に成功」
「無力化の上捕獲も成功。ただし与ダメージは想定よりやや多し」
「状況終了」
「情報偽装解除」
「ギリギリセーフ!」
英語で何か会話するとリムジンは女たちだけで山の方に走り去り、オレとレイラは校内に戻った。
校内では非常放送が繰り返されていた。街の方でも同じような放送が流れるのが遠く聞こえた。
『……市長より避難指示の解除をお知らせします。さきほどのプラント火災は誤報であることが判明しました。危険はありません……』
レイラと校舎に入ろうとすると、ぞろぞろ講堂からみんなが出てきたところだった。
「あー! いた!」
「航平てめー!」
「レイラになにしたのよ!」
オレを見つけて口々に叫ぶ。
担任のテンタがつかつかとやってきた。
「瀧本っ! レイラを連れてどこ行ってた! 食堂から急にいなくなったというし! スマホに掛けても出ないし!」
スマホは教室のカバンの中だよ学校の中ではそうしとけって言ったの先生たちじゃん…。
それになにげにオレが
「宮野先生大変申し訳ありません。緊急放送で慌てて食事をしたら急に気分がとても、とても悪くなってしまい、瀧本くんに保健室に連れていって戴いて休んでおりました。避難指示が出ているにもかかわらず、休んでいる間瀧本くんがずっとそばについてくれていたのです。ですから悪いのは私です」
しれっとでまかせ言うなあレイラ。でもそれかなり無理ないか?
ってかその
「それならそれでなぜ職員の誰かに伝えん! 保健室なら内線もあったろうに!」
「宮野先生大変申し訳ありません。心細くて私がずっと手を握ってもらっていたので瀧本くんは身動きできなかったのです。ですから悪いのは私です」
(保健室で二人きり!)
(手をずっと握ってた、だってぇ!)
(レイラ様とベッドで)
(えっ、制服のままだったの……かな?)
(添い寝とかしてたり、いやきっとしてる)
(抵抗できないレイラ様にあーんなことやこーんなことを……)
(犯罪者瀧本!)
んーとね、なんか周りからものすごい悪意に満ちた圧力感じるんですけど……。
「それでは仕方ありませんね。警報も誤報だったことですし、生徒の所在を確認できなかったのはむしろ学校側の問題ですね」
「校長!」
いつの間にかテンタの横に校長が立っていた。
私立
永嶺校長はオレとレイラを交互にじっと見た。
「それでレイラくん、もう気分は治まったのかね?」
「はい、それはもう。瀧本くんのおかげです」
「ということで、いいですね。宮野先生」
「はっ、はい。校長がそうおっしゃるなら……」
もう一度校長はオレの顔を見つめ、すぐにすたすたと去って行った。
あー、助かった―。
けど、空飛ぶリムジンが校庭に飛んできたとき、誰も見てなかったのかな?
そんなことって、ある?
「では宮野先生、教室に戻ります」
レイラがぺこりと頭を下げる。
「おお、今日はもう授業はない。荷物持ったらさっさと帰れよ」
はーい、と言うやレイラは背後からオレに抱き着いた。
背中に柔らかい大きな膨らみが当たる。
「うぇっ。れ、レイラ、なにを」
「うふ。だって航平と私はもう一心同体だもの。これからもよろしくね」
レイラが耳元で囁く。
背後でまた怒声が沸き上がった。
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