地球に落ちてきた姫騎士(限界突破バージョン)

さぐさぐ2020

第1話 そして姫騎士は落ちてきた

 艦尾が内部から爆発した。

 黒煙が拡がり、海上に破片が飛び散る。

 不敗の装甲も、超電磁バリアも、内部に仕掛けられた爆弾には無力だった。


 主機関が沈黙する。


 動力を失った艦は、たちまち速度が落ち、洋上を漂うだけの存在となった。


 星王家せいおうけオルドゥーズ、第3王女レイラ・モルヴァリッドの乗艦ナズィ・ニルファール。

 400メートルを超える艦はステルス機能を最大にし、宿敵である破門候ジャヒン・ギル・ジャハンの本拠地・ザルリン港に迫っていたが、単艦先行策が今はあだになった。


 奇襲で破門候自身を捕縛または討伐する計画だったが、乗員に内通者がいたのだ。


 破門候に情報が漏れたうえ、艦内セキュリティがハックされて緊急隔壁が閉鎖、乗員は各所に分断された。

 幹部クルーは戦闘指揮所CICにいるが、ネットワークがジャミングされ、火器管制がフェイルダウン。反撃はおろか、動力回復すらままならない。


 ザルリン港の周囲に破門候の戦闘艦が次々浮上し、艦隊の姿を現した。

 ずらりと並んだのは水中・水上両運用の潜水戦艦だ。

 浮上するやただちに甲板が展開し主砲がせり出す。反陽子ビームカノンの砲列だ。


 機関が停止し火力を封鎖されたナズィ・ニルファールは格好の的であった。

 破門候艦隊の主砲が一斉に反陽子アンチプロトンの火を噴いた。


 手加減一切なしの全力攻撃だ。

 破門候からすれば、呪詛すべき宿敵である。

 今まで何度も苦杯を喫した艦だ。


 まさに捲土重来。


 たちまちナズィ・ニルファールの白銀の巨体は爆炎に包まれた。

 不敗神話が終わる。超電磁バリアが展開できない以上、火力が上回れば装甲は破れる。


 飽和攻撃の前に、ついに艦腹が破れ浸水、ゆっくりと艦体が傾斜していく。艦橋が、砲塔が、猛攻の嵐に削られ、砕かれ、破壊されていく。


 艦首を飾る黄金の女神像が反陽子に散った。美しかった白銀の艦体がどこもかしこも無残に赤く焼け、黒く焦げていく。


 オルドゥーズの守護天使とも称される、優美にして荘厳な艦容を誇ったナズィ・ニルファールも、もはやこれまでと思われた。


 そのとき。


 ナズィ・ニルファールの舷側が爆破され、装甲板が大きく吹き飛び、巨大な穴があいた。


 と同時にそこから細く絞り込んだビームが発射され、破門候艦隊を薙いだ。

 前衛に出ていた数隻が瞬時に赤熱し、爆発炎上した。


 大穴から巨大な物体が空中に躍り出た。

 翼をもった獣のようなその姿。


 重装甲と高火力、それに見合わぬ機動力を備えた機甲兵アミール。その中でも重機甲兵アル・アミールと呼ばれる特別な機体。


 レイラ・モリヴァリッドが操る専用重機甲兵アル・アミール、イ・ドゥガン。『竜騎士』の二つ名を持つ肩高約18メートルの戦闘ロボットドロイドだ。


 ナズィ・ニルファールに搭載された最大戦力であり、破門候がもっとも恐れる兵器である。

 小さな機体に圧縮搭載された兵装は、ナズィ・ニルファールのそれをも超える。


 作戦ではイ・ドゥガンを真っ先に無力化する予定だった。

 先ほどの暗号通信では、それに成功したはずだった。


『姫、敵は動揺しているようだ。対応が遅い』


「そうね。に勝ったのがどっちだったのか、教えてあげるわ!」


 操縦席コクピットのレイラはイ・ドゥガンをジャヒン艦隊の上空で旋回させる。

 艦隊もようやく対空砲火を上げ始めるが、イ・ドゥガンの機動性に追従できない。

 逆に空中からビーム攻撃を受け、1隻、また1隻と沈黙していく。


 さらに、大破したはずのナズィ・ニルファールから砲撃が始まった。

 主砲は破壊したのに、どうやって攻撃している!?


 そう、ナズィ・ニルファールの主砲も、火器管制も回復していない。攻撃は破壊された装甲の内側から行われていた。


 破門候艦隊は浮足立った。

 イ・ドゥガンを追尾していた艦は予期せぬ方向からのビーム射撃に対応出来ず、たちまち駆逐されていく。

 ザルリン港にもナズィ・ニルファールの内部から発射された艦対地ミサイルが届き、港湾施設が次々に破壊される。


 大破し黒煙を上げているナズィ・ニルファールの艦体が、中央で二つに割れた。艦首から艦尾まで、大きく左右に展開する。

 海水がナズィ艦内に浸水する。


 内部には小ぶりの、といっても200メートル程度の艦が収納されていた。

 ナズィとの接続ケーブルがぱちぱちと切り離される。

 内部の艦はゆっくりと離水し、空中に浮かび上がった。


 陽の光を受けて輝く白銀の剣のような艦型。


 それこそが、オルドゥーズの科学力を結集して建造された斥力制御により飛翔する空中戦艦。


 真なるナズィ・ニルファールである。


 破壊された洋上戦艦は本物のナズィ・ニルファールを隠すための偽装艦だった。


 ほぼ沈黙した破門候艦隊を足蹴に、ザルリン港に進撃する空中戦艦ナズィ・ニルファール。


 空中からの対地砲撃で軍用施設を破壊しつつ、破門候ジャヒンがいる中央指令塔を目指す。


 イ・ドゥガンも空中戦艦の右舷に寄り添い、施設破壊を手伝う。


 港の背後にある山の中腹から地対空ミサイルが数発飛来した。破門候の最終要塞だ。

 ナズィ・ニルファールの近接防衛ミサイルで対応する。


「反撃が弱いわ。敵主力は先ほどの艦隊だけですべて潰せたのかしら?」


『油断は禁物だ、姫。本土を囮にするまでの作戦に出た敵だ。まだ切り札を隠している恐れは十分ありえる』


「そうね、。ナズィ・ニルファールも警戒を厳としつつ中央司令塔に直進!」


 レイラはイ・ドゥガンの人工知能と会話していたのだ。


 そして同様の人工知能はナズィ・ニルファールにも搭載されている。

 イ・ドゥガンもナズィ・ニルファールも完全自律型マシンであり、無人でも戦闘行動が可能だ。


 奪取されたコントロールは偽艦ナズィ・ニルファールと同様、人工知能の上にかぶせたダミープログラムだった。


 ハッキングされたをしていただけだった。はじめから偽艦は捨て駒にする作戦だった。まさか王国の守護天使たる艦を囮にするとは破門候も思うまい。


『超重力震を確認。バリア自律展開』


「なんですって?」


 突如、ナズィ・ニルファールの周囲の空間が裂けた。


 裂けた隙間から星空がのぞいた。


 いや、これは宇宙空間だ。


 気圧差で猛烈な嵐が発生し、宇宙への穴に吸い込まれていく。


 ナズィ・ニルファールもイ・ドゥガンも、破壊された施設や木々、土砂さえも穴のむこうの宇宙へ飛び出していった。



◇◇◇◇


 宇宙のどこか。


 イ・ドゥガンは単騎、緩やかに回転しつつ虚空を漂っていた。

 半身が眩しく輝き、半身は漆黒の影だ。


 恒星が近くにあるのだ。


 イ・ドゥガンもナズィ・ニルファールも潜水性能を有し、そもそもの気密性は高いが、宇宙空間での作戦行動は想定していない。


 まずは乗員の生命維持が最優先である。


 イ・ドゥガンは背中の翼を使って恒星からの輻射を排熱しつつコクピットの温度を下げ、かつ窒素濃度を高めてレイラを低温睡眠状態にした。


 レイラの意識が途切れたのを確認すると、現在位置の割り出しにかかった。


 だが星図はオルドゥーズの既知のものと一致せず、相当な遠方、もしかすれば数光年から数十万光年離れている、あるいは数十万年単位で時代が異なる、という程度しかわからなかった。


 少なくともオルドゥーズ本国からの応援または協力は絶望的だ。


 母艦ナズィ・ニルファールとも連絡が取れなかった。

 お互い、まったく異なる座標に飛ばされてしまった様子である。


 イ・ドゥガンはレイラの長期生存を最優先事項とした。

 人工知能のいう長期生存とは、寿命を全うする、という意味だ。


 生命体が生存可能な場所の割り出しにかかった。


 現在最も近い恒星から、可視光や人体に有害な放射線を含め相当の電磁波が届いている。


 イ・ドゥガンの主動力である変換炉マルチリアクターは電磁エネルギーも利用できる。

 作戦行動に支障はない。


 恒星はG型スペクトルの黄色矮星だ。距離約1億6000万キロ。

 オルドゥーズの太陽とよく似た星だ。これは幸運である。


 全天を走査スイープすると、この太陽の重力系に属する星がいくつか見つかった。

 この恒星が、惑星を持っているということだ。


 生命居住可能領域ハビタブルゾーンは恒星から1億4500万キロから2億800万キロ程度、つまりちょうど現在地付近の軌道面と計算された。

 その範囲でスイープ結果を再検討した。


 あった。


 恒星から1億4960万キロ。どんぴしゃの位置に一つの惑星があった。


 不釣り合いに大きな衛星を持つのが気がかりだが、望遠で捉えた星の姿は恒星の反射に青く揺らいでいる。

 大気を持つ証拠だ。


 イ・ドゥガンはその惑星への接近を試みた。


 イ・ドゥガンの斥力制御は宇宙空間でも有効であったが、原理的に近傍に大きな質量がないと効果が薄い。

 試行錯誤しつつもその惑星の方向に進路を向けたが、相対速度差が大きく、そのまま突入すればイ・ドゥガン自体はともかく、中のレイラが危険なことがわかった。


 惑星側にも相当の衝撃が発生することになるだろう。


 巨大なクレータ―が出来る程度で済めばよいが、環境を激変させるような事態になっては、せっかくの生命居住可能領域ハビタブルゾーンの意味がなくなってしまう。


 空間を跳躍し転移してきたわけだが、運動量は保存され外宇宙速度を獲得しているようだ。

 空間跳躍の仕組みの調査は興味深かったが、今それは優先事項ではない。


 より大きな質量の物体として、恒星を重力アンカーとして使い制動をかけることにした。ひとまず恒星に向かう。


 斥力制御を併用し運動量を恒星側に移して減速するのだ。


 だが、一度のスイングバイでは減速しきれず、そのまま恒星系を振り切ってしまいそうになるところを斥力制御で修正、それを繰り返し、4度の周回で恒星の重力にようやく掴まり公転軌道を得ることが出来た。


 次に軌道の長円を伸ばし、公転しつつ目標の惑星に近づく。


 このころには目標の惑星が恒星から数えて3番目の惑星であることが把握出来ていた。

 またざっと9つの惑星が恒星を巡っているのもわかった。


 9番惑星の軌道の外にもさらにいくつかの惑星があるようであったが、詳しい調査は後回しにした。


 3番惑星の夜の部分には人工の光が見えた。

 都市を築く文明があるということだ。


 また超小型の人工物が極く低軌道を周回していることもわかった。

 少なくとも、第一宇宙速度を獲得する程度の科学力は有している。


 それは異邦人であるレイラの生存にとっては懸念材料ではあるが、一方、明るい材料でもある。

 3番惑星の宇宙人エイリアンたちと良好なコミュニケーションが得られれば、レイラの長期生存に希望が持てる。

 たとえ彼らがコミックに出てくるような奇抜な姿であったとしても、だ。


 途中、2番惑星を利用してさらに減速を行い、相対速度差を調整した。


 やがて3番惑星の軌道に乗り、3番惑星の公転周期よりもやや遅い周期に調整した。

 この時すでにこの恒星系に来て3番惑星が46回公転するだけの時間を費やしていたが、さらに33回の公転の後、ようやく衛星軌道に到着することが出来た。


 3番惑星の重力に掴まり、衛星軌道を43回周って大幅に減速、緩やかに自由落下した。


 大気との摩擦で周囲が高温のプラズマと化したが、イ・ドゥガンの分厚い装甲にはさしたる抵抗ではなかった。


 突入した場所は海だった。



◇◇◇◇


 その日大気圏に突入した小惑星は燃え尽きぬままインド洋に落着した。


 付近の島を大津波が襲い、さらに海中火山の爆発を引き起こし、その後半年にわたり大地震が頻発した。


 だが、小惑星が数か月前から観測されており、落下位置が精密に予測され周辺の避難が完了していたため、人的被害はなかった。


 また、幸運にも小惑星が太陽を巡る軌道から地球の衛星軌道に遷移していたことで、小惑星の位置エネルギーが激減したことも不幸中の幸いだった。


 地震が落ち着いた後、インド、アメリカ、フランスをはじめ各国が共同して小惑星の回収に努めたが、海中の巨大クレーター以外に痕跡は見つからなかった。


 やがてそんな大事件も繰り返される日常で上書きされ、人々の記憶から薄れていった。


 そして数年が経った。



◇◇◇◇


 高校2年の2学期が始まって1週間が過ぎた。今日も太陽は照り付け、9月だというのに真夏日だ。登校するだけで汗が噴き出る。


 ただでさえ暑苦しいのに、その日朝から教室は大騒ぎだった。鬱陶しい。


 登校途中からすでに誰彼ともなく伝わった噂。

 いや、噂じゃないぞ。宮野に連れられているのを見た、というやつもいた。

 宮野は担任の先生だ。


 金髪の美少女が転校してくる!


 それもうちのクラスだとよ!


 なんでも北欧だかどこだかの小国の王族らしいぞ。


 なんでそんなセレブがこんな学校に転校してくるんだよ!?


 あれじゃないの? 下々の生活を見る社会勉強とかいうやつ。


 SPとかついてんのかなあ?


 それじゃ社会勉強にならないじゃん。


 えーでもオレ英語苦手だよどうしよう。


 ばか、英語とは限んないだろ。フランス語とかドイツ語かもよ。


 ドイツ語なんてイッヒリーベディッヒ! しか知らんぞ。


 フランス語ならアンドゥトロワだけだな。


 やーね男子下品で。


 でも王女様とお近づきになれたらそれはそれですごくない?


 いやかなりすごいよとりあえず友写してインスタね。


 ID交換したいけど、王女様ってスマホもってるのかな?


 でもほんとに王女様なのかな~?


 尾ひれハヒレがついてるだけじゃないの?


 でも金髪はホントらしいよ。職員室で見た子いるもん。



 なんでえどいつもこいつも。


 オレは転校生なんぞ興味ねえよ。そんなことよりこの暑さ何とかしてくれよ。クーラーあるのに2学期はもう付けないってどういうことよ。貧乏なのかうちの学校。

 学費安くもないのに。ってオレが払ってるわけじゃないけど。

 けっ。


「席に着け―!」


 ドアを開けるや否や、担任のが怒声を上げた。


 宮野が本名だが、若くしてつるっぱげなのでタコ=テンタクルズ、テンタ来るず略してテンタと生徒はひそかに呼んでいる。

 見た目と違ってスポーツマンで陸上部の顧問をしている。空気抵抗を減らすために剃っている説も一部にあるが、顧問が試合に出るわけじゃないので天然だろう。

 ちなみに毛があってもイケメンとはいえない。背はそこそこ高いのだが。


「ホームルームをはじめる! さっそくだが、今日は転校生を紹介する」


 おお~~~という歓声が涌いた。


 ドアから教室に姿を現した少女。


 オレは、そこにありえないものを見た。

 瞬間、教室がその子を中心にして光り輝いた。


 後に冷静になって考えると、それはオーラというものだったのかもしれない。

 とにかく眩しく光って見えたんだ。


 緩やかにウェーブのかかった金髪。

 脱色して染めたものではない、本物の金髪だ。むしろ銀髪に近いかもしれない。


 ウチの決して垢抜けているとはいえない制服に身を包んでいるのに、スーパーモデルのランウェイのような身のこなし。


 スラリとした長身だが、あの胸のボリュームは何だ。スイカか。ビーチボールか。はたまた天使がこねたでかい餅か。


 足も長い。テンタと身長はさほど変わらないのに、腰の位置は20センチくらい高いぞ。

 かといってただ細いだけではない。スカートから伸びる腿は案外強靭な筋肉を感じさせた。


 そして顔。

 深いグリーンの大きな瞳。鼻筋のとおった彫りの深い横顔。ルネサンスの彫刻が裸足で逃げだしそうな造形美だ。

 完璧な美貌は、怖れすら感じさせる高貴さだ。

 肌の色は薄いが、頬は健康的にピンクに染まっている。


 数歩歩いて、教壇の横に立つと、彼女の濡れたように赤い唇が開いた。


 いつの間にか歓声は止んでいた。みんな圧倒されているんだろう。そのあまりの美しさ故に。


「みなさんはじめまして。レイラ・モルヴァリッド・オルドゥーズと申します。レイラと呼んで下さいね」


 彼女は現実離れしたその姿とは裏腹に、ごく自然ナチュラルな日本語で喋った。


 オレの心臓は飛び出さんばかりに鼓動が早くなっていた。


 なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ!


 こいつ、同じ人類なのか。

 すごすぎるだろ。

 日本のアイドルなんぞ目じゃない。ハリウッドのトップクラスの美人女優を生で見たらこんな感じなのかも。

 興味ないなんて言ってゴメンナサイ!

 心の中でジャンピング土下座する。


 前言撤回! 即撤回!!


「見てのとおりレイラは外国籍だが、家庭の事情で本校に通うことになった。日本について事前によく勉強しているが、わからないことも多いだろう。クラスメイトとして仲良くサポートするように」


 をつけろよタコスケ野郎。

 あっでも本人がレイラと呼んでって言ってたから、それでいいのか。


 テンタのセリフで我に返ったのか、ふたたび歓声が涌いた。


 レ・イ・ラ、レ・イ・ラ。


「はいはいしつもーん。外国ってどこから来たんですかー」


「こら大峰おおみね。プライバシーに関する質問はいかん」


「構いませんわ宮野先生。『オルドゥーズ都市王国』です。インド洋の小島が領土の小さな国です。国際的にはフランスの属領扱いですので日本の地図には載っていません」


「家庭の事情ってなんですかー」


吹屋ふきや、お前もそういうのは……」


「構いませんわ宮野先生。数年前の大津波で私の国は大きな被害を受けました。復興のため外貨を稼ぐ必要があります。私はそのために日本で勉強することにしました」


「オルドゥーズ王国のオルドゥーズさんってことは、レイラは王族なんですか~」


「あちゃー、三木みきまでも……」


「構いませんわ宮野先生。そのとおり、私はオルドゥーズ都市王国の第3王女です」


 おおおおおおおおお~~~。


 地響きのような声が轟いた。


「お前らいい加減にしろ。ホームルームの時間がなくなる。まあコミュニケーションはしっかり取ってもらいたいが、休み時間にな。レイラも席につけ。瀧本たきもとの隣が空いてる。三列目の一番左な」


 テンタがそう言う前から、オレの期待はマックスで爆発寸前だった。


 オレの名は瀧本航平こうへい


 そしてオレの左隣りはなぜか1学期からずっと空いてる席なのだ!

 なんというラッキー!


 レイラがオレの隣りに座った。

 ちなみに左の席は校庭に面した窓際だ。その右がオレ。レイラの前は男子で伊藤いとう修司しゅうじ。後ろが最初に質問した女子の大峰美幸みゆきだ。


「よろしくね、瀧本くん」


「瀧本航平だ。航平でいいよ」


 つとめて冷静に受け応えしたつもりだったが、


「航平、デレデレしすぎ」


 大峰にツッコまれた。

 くそっ。この女。


 でもレイラすっげーいい匂いするんだもん。デレてもいいじゃんかよ。


「僕は伊藤。伊藤修司」


 前の伊藤が振り向きながら精一杯の笑顔で挨拶する。

 伊藤、顔がひきつってるぞ。

 なるほど、オレもあんな感じなのか。


 まあしゃあないわな。こんな反則的美少女の前で冷静になれという方がおかしい。


「そこ、いつまでもペチャクチャしない!」


 テンタの指導が飛んだ。

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