第8話 学園爆破
校門前で下車するや否や、またレイラ親衛隊に取り囲まれたが、レイラがオレと腕組みしながら歩き出すとしぶしぶ道を開けた。
レイラのバインバインな胸がオレの腕に密着する。思わず鼻の下が伸びちまうぜ。げへへ。
それを見ながら血の涙を流す男子たち。
あきらめろ。オレ、今やレイラと一緒に暮らしてるんだぜ。それどころか昨夜は一緒に寝ちゃったんだぜ。
そんでもってアレのコレやナニのナニまで触って見ちゃったんだぜ……。
けど、何でレイラはオレと交際宣言したのか。その理由は結局聞けなかった。
貴重な適合者なのは分かるけど、恋人扱いする必要はないはずだ。
ゼロ距離でくっついていても、どこかオレは地に足がついていない気持ちというか、すとんと腑に落ちていない。
一方で、今の状態で構わないじゃないかとも思うんだ。
仮にレイラが打算で恋愛ごっこをしてるだけだとしても、オレに利用価値があるのなら、とことん利用させてやればいいじゃないか。
絶世の美少女のために一肌脱ぐ。それはそれで男冥利に尽きるってもんだ!
実際、イ・ヴァンダー状態では心も体も一つに繋がるしな。
でもなあ。出来ればレイラの本心が知りたい。これってオレのわがままなの?
親衛隊越しに、塾業者がチラシ配ってるのが見えた。
そういえば、来年の今頃は受験シーズン本番だなあ。でもオレこんなんで入試受けられるのかな?
そもそも大学行っていいんかな?
このまま一生UCにいるのかな?
あ、でも適合者って年齢制限あるんだった。
適合者から外れた後はどうなる?
うーん、とうさんかあさんみたいに秘密保持のためその後もUCのままだろうな。
永久就職したようなもんだから、このままでもいいか。
国際公務員だしな。人に言えんけど。
レイラとのこれからもどうなるんだろう。
適合者から外れたらサヨウナラ?
でもその頃にはレイラも適合者から外れてるよな。同い年だし。いや、実際には仮死状態で80年ほど過ごしてるから、実際は90歳半ば?
いやいやその間はノーカンだろ。怖い想像になってしまった。ブルブル。
パイロット辞めたら、即結婚だったり?
そうなるとオレ王子になるのか? 異星の?
それもすげえ話だなあ。
大峰とか伊藤とかに話してもバカじゃないと笑われるだけだろうな。話さんけど。
ちなみにLRはポケットの中だ。スマホのレシーバーそっくりなのが災いして学校で着けると先生に怒られる。
昨日の今日ではまだ脳内リンク回路とやらはオレには出来てない。
だから、オレの悩みが密着しているレイラに伝わっているのかどうかはわからなかった。
ブツブツ考えているオレの腕から、心地よい弾力がすっと離れた。
「教室到着!」
レイラが敬礼のように右手を額辺りでかざしオレに微笑む。
あー、くそ。やっぱかわいい! 最高!
◇◇◇◇
「航平!」
大峰が大きな声を出した。
「何ボーッとしてるのよ。レイラと恋人になってこの世は天国ってわけなの?」
大峰がやけにカリカリしてる。
なんだよ急に。
休み時間にボーッとしてて何が悪いんだ。
第一、恋人がどうこうとかそんな次元の話じゃないんだよ。
整理出来てないよ。いろいろ。まだ。
オレたちはレイラの交際宣言のおかげで今日は席を追い出されることもなく、この休み時間も自分の机に座っていられた。
逆にレイラが取り巻きと廊下で談笑している。
「でもなんで航平、レイラの車で登校して来たんだ? 家、真反対じゃんか?」
と伊藤が聞いてくる。
ちょっと待て。なんでお前が
「朝早くに迎えに来たんだよ。おかげで眠いこと眠いこと」
オレがロテルに住んでいることはまだ秘密にしておいたほうが良さそうだ。面倒なことになるのは必至だ。それに眠いのは事実だ。寝てないからな。
「毎日来るってよ。電車で通学したほうがゆっくり出来るのになあ」
「なーに言ってんのよ。嬉しいくせに。顔に書いてあるわよ」
大峰が険のある言い方をする。
残念ながら今回はエスパー大峰も外れだ。
嬉しいも何も、オレがUCの護衛対象に含まれたからに過ぎない。
それにしてもなんだよ、いちいち何突っかかってきてるんだよこいつ。
今日おかしいぞ、大峰。
「あ、おお、そいえば朝の塾、気前良かったな。シャーペン、消しゴム、ペンケース、ミニ卓上時計。セットでみんなに配ってたもん、塾って儲かるんだな。航平も貰ったろ?」
伊藤があからさまに話題を変えてきた。
まあ乗ってやるか。
大峰プリプリ座衛門の相手するよりましだ。
「いや、オレはレイラ親衛隊が邪魔で貰えなかった」
レイラもな。
「そうか、そりゃ残念。どれも安もんじゃないぞ。ちゃんとしたメーカー品だ」
伊藤がチラシ袋の中身を机に並べた。
たしかに、どれもこれも有名文具メーカー製だ。
中でも、ミニ卓上時計は4センチ角ぐらいのサイコロ型で、カラー液晶がアラーム付き時計、ストップウォッチ、タイマーに切り替えられる。試験勉強に便利だな。金属パーツも使われていて、安物臭くない。お、FMラジオもついてる。でもってモバイルバッテリー替わりにもなるのか。
今時はこんなのをタダで配ってるのか……。
すげえな塾業界。
昼休みになった。
オレたちは食堂で、レイラ御一行様とは離れて校庭側の大きなガラス窓の際に座った。
「航平、レイラと一緒じゃなくていいの? 彼氏の余裕ってやつ? 無理しなくていいのよ」
「いいよ、落ち着かないし」
大峰のやつホント言葉にトゲあるよな今日。
朝飯一緒に食ったし、夜もきっと一緒だから、昼ぐらいは別の友達と食べたいしな。
とうさんかあさんやアンダーガールズも一緒だけど。
といいつつ、ちょいとレイラの様子を覗く。ふむふむ、レイラは今日はオムソバか。
昨日の夕食、今朝の朝食を知った今は、ジャンク系を食べたくなる気持がよくわかる。
オレも今日はチキンかつサンドにコーラだ。
「航平、そんなんで足りるの?」
「ちょっと朝飯食いすぎてさ…」
「レイラで胸がいっぱいなんだろ。察してやれよ」
「伊藤、あんたバカ?」
大峰が目を三角にした。
そういう大峰はB定食だ。今日のBは中華で、炒飯と餃子、卵スープのセットだ。ちなみに女子向けに餃子はニンニク抜きになってる。
伊藤はA定食。ミックスフライとサラダだ。ライス大盛りは、男子の定番。
俺はさっさとサンドを食い終わりコーラをストローでちゅーと吸ってる。
伊藤も大峰もまだ食べていた。
食事する二人を眺めながら、昨日はレイラ被害者の会で急に仲良くなったけど、今日はギスギスしてるな。とぼんやり考えていた。
オレが恋人に昇格したし、被害者の会も解散かな。そもそもオレが勝手に心の中でそう呼んでるだけで、結成すらしてないけど。
大峰が食べ終わったが、伊東はまだ大盛りライスと戦っている。オカズ先に食べちゃうからだよ伊藤。
「醤油でもかけたら?」
「それだ」
伊藤はテーブルにある醤油を残りのご飯に掛けた。生卵でもあればもうちょっとマシだが、夏場のこの期間は販売を停止している。ふりかけは置いてない。そんなことしたらライスばっか注文する奴が続出だ。
「あのさ、航平」
「なんだよ。大峰」
「あたし、航平って呼んでるのに、あんたは大峰だよね昔から」
「だってうちの道場に通ってた時、瀧本だとかあさんかオレかわからんから航平呼びにしたんだろ?」
「そりゃそうなんだけどね」
「今日放課後さ、ちょっと時間くれない?」
「特に予定ないけど、なんで?」
「そん時言う。後でスマホにメッセージ入れるから」
「うがっ! ごほごほごほっ!」
突然醤油ご飯を伊藤が詰まらせた。
「おいおい、大丈夫か伊藤」
伊藤がコップの水を一気飲みした。
テーブルに伊藤が噴いた米粒が一面飛び散ってて汚い。オレの服にも付いていた。
「もう、きったねえなあ。ちゃんと拭いとけよ伊藤。オレ先に教室戻るわ」
「すまん」
「あたしも」
大峰がオレについてくる。
食堂を出て、校舎への渡り廊下を歩いていると、大峰がつぶやくようにぼそっと言った。
「放課後、大事な話するから」
「へ?」
「必ず会ってよ」
その時、突然校舎が揺れた。
地震!?
閃光と共に窓ガラスにピシっとヒビが入った。
「伏せろ大峰!」
叫ぶのがやっとだった。
次の瞬間、ガラス窓が砕け、猛烈な轟音とともに爆煙が廊下になだれ込み、オレは吹き飛んだ。
空中で2、3回回転したように思う。壁だか床だかに全身をしたたかに打ち付けられた。
「がはっ!」
痛みで痺れて動けない。
意識は途切れなかったが目と耳がバカになっていた。
耳は鼓膜が破れたのか、轟音で麻痺しただけなのかもわからない。
視界は白黒のノイズで埋まってちかちかしている。頭を強く打つと目から星が出るというのは本当だった。
しばらくして、自分が大の字に伸びており、がれきに埋まっているのが分かった。
手足の感覚が戻ってきたので、腕に力を入れるとどかせられた。細かいコンクリート片ばかりだった。
ガラガラとがれきを崩して立ち上がる。でかいのの直撃受けてたら死んでた。ラッキーだった。
うん、両足で踏ん張れる。両手も動く。どこも骨折などはしてないようだ。打撲だけのようだ。
相変わらず耳はキーンという飛行機が飛んでるような音しか聞こえないし、目は見えるようになってきたが、煙と土ぼこりのミックスで煙幕状態で1メートル先が見えない。自分の足元すら灰色にかすんでいる。
オレはポケットのLRを耳に装着した。UCの学園警備システムがもう動き出してるはずだ。
一瞬で情報が飛び込んできた。
何が起こったのか、事態が把握出来た。
学園各所に設置したカメラの映像が爆発の瞬間を捉えていた。
校舎棟の1年から3年までのすべての教室が一斉に爆発した。
昼休みだったのが幸いし、大半の生徒は学食や校庭にいたので直撃は逃れた。
机の中や、ロッカーのかばんなどから爆発が起きていた。授業中だったら、大半の生徒が爆死していただろう。
朝配られていた塾のチラシ、それに入っていた卓上時計が時限爆弾だった。数台のカメラに時計が爆発するところが記録されていた。
UCのリアルタイム解析で、爆弾の種類もわかった。ナノテルミット爆弾。
超小型だが、爆速が極めて速く瞬時に数千度の熱爆発を起こす。
爆発時に強力な紫外線を発するが、有毒ガスや放射線の類は出ない。そちらの心配はしなくてよさそうだ。
時計の製造工場も突き止められていた。海外だったが、もうそこへUCの別動隊が向かった。今回の黒幕も割り出された。
UCに属さない某国とその同盟国の仕業だ。反UC 勢力の急先鋒だ。
しかも直接襲ったのではなく、中東系のテロ組織を
トカゲの尻尾切りってやつ? 卑怯な連中だ。
それにしてもUCのリアルタイム解析、早いな。まだ爆発から数分しか経ってないのに。
お昼みに起爆時間をセットしたのは、テロ組織もさすがに無辜の学生らの無差別大量殺害は忌避したかったのだろう。
目的はレイラの拐取。
学園各所に設置したカメラの映像がLR経由で送られてくるが、ほとんどが灰色一色で役に立たない。
動体センサーが玄関から校舎を経由して食堂方面へ移動する一団を捉えていた。これがテロ兵士たちだろう。
学内に隠されていたUCの警備ドロイドがすでに全機起動し対処を開始していた。
空飛ぶリムジンも3台が飛んで来ている。緊急事態だもんな。
レイラはどうしてるんだ。あいつが爆発にやられるとは思えん。
LRを着けてもレイラの動向はわからない。
ナチュラルボーンリンク阻害って、こういう時は却って不便だ。
そうだ。大峰は。
ついさっきまで一緒にいた大峰はどうした。
LRでマップを開く。今オレはどこに居る?
すぐわかった。装着したLRが位置情報を知らせているので、学園マップに自分の位置が示される。学園中にUCのスマートセンサーがグリッド配備されているからだ。
渡り廊下から吹き飛ばされて、10メートルほど離れた校庭の隅。生物部のビオトープに落ちていた。結構飛んでる。
雑木林がクッションとがれきのブロックになったようだ。ありがとう生物部!
で、大峰は?
一番近い生体反応は……あった。さっきまで歩いていた渡り廊下にひとつ、人間の反応がある。ピンクマーカーだ。生きてる。
でも周辺温度80度?
あっ、これ、廊下が燃えてる!
でもって。脈拍35? 血圧60? おいおいおい、死にかけとるがな大峰!
オレは警備ドロイドの1体に至急おれの位置に来るよう指示し、同時にオレ自身渡り廊下に向かった。目も耳も役に立たないので、マップ頼りで。
近接マップに切り替え、地図を拡大する。えーと、この辺が池か。ぐるっと回りこんでと。
いて!
がれきに躓いちゃったよ。見えないって不便だな。ゴミはマップに出ないし。
煙の向こうに赤い光、というか炎が見えてきた。
やっぱり廊下が燃えている。
まずいまずいまずい。
LRからは大峰のバイタルが送られてくるが、脈も血圧もじわじわ下がっている。廊下が燃えているから酸素が足りないのか、肺が焼けたのか。
……もしかしたら大峰の体自体が燃えているのかも。
早く早く早く!
ごち。あいてっ!
歪んだ鉄骨にぶつかった。どっかから飛んで来たんだろう。
近接マップに疾風のように青いマーカーが飛び込んできた。
警備ドロイドだ。
ドロイドにピンクマーカーの人物を救出し安全な場所に移動させろと指示を出す。
大雑把だが、OTの超AIが適切に意図を汲んで行動判断してくれる。
青いマーカーがピンクマーカーに重り、そのまま廊下から校庭へと出ていった。
拡大マップに切り替えると、二つのマーカーはくっついたまま校庭の中ほどへ向かっていた。
あ、空飛ぶリムジンが3台並んで停車している。
アンダーガールズ、もう来たんだ。
よかった、これで助かった。
オレもマップ頼りで渡り廊下を迂回しリムジンへ向かった。
◇◇◇◇
食堂に残ってテーブルを拭きながら、伊藤は、己のふがいなさを悔いていた。
レイラが転校して来たのはよかった。
俺たちは所詮モブだ。まあ航平は二刀流があるけど、あんなの某デスゲームでもなきゃ主役になれない。
レイラ爆弾で吹っ飛ばされた俺たちは、モブ同士3人で仲良くいつまでもつるんでりゃいい。
伊藤は、三人の微妙な距離の関係が、微妙なまま続けばそれでいいと思っていた。
はっきりさせたくなかったのだ。
三人でつるむことが急に増えて、ちょっと嬉しかった。
大峰の、航平への思いは随分前から知っていた。
二人は幼馴染だ。
大峰はよく航平をからかうが、自分の気持ちに気づかない鈍感な航平への当てつけのようなものだった。
そして伊藤も気がつかないふりをしていた。
大峰は、航平と違って鈍くはない。
だから、俺の大峰に対する気持ちも、大峰は薄々知ってる。
そう伊藤は思っていた。
さっき、大峰が行動を起こすまでは。
伝わってなかった。伝わっていれば、少なくとも俺の目の前で航平にあんな声の掛け方はしない。
レイラの行動は予想外、というか奇想天外だった。
驚天動地の航平との恋人宣言。
大峰は焦ったんだ。
そら焦るだろ。相手は超絶の上に超絶を重ねたようなとんでもない美少女だ。
大峰は、放課後航平に自分の気持ちを告白するのだろう。
その結果がどうであれ、今の三人の微妙なバランスは崩れる。もう仲良し三人組ではいられない。
俺はもっと以前に俺の気持ちをちゃんと大峰に伝えるべきだった。危うい関係はやっぱりもろいのだ。そんな当たり前のことから目を背けていた。
でも、もう遅い。
こんなことなら……。
閃光と共に伊藤は本物の爆弾で吹っ飛んだ。
「あいてててて……」
しばらくして伊藤は目を覚ました。何が起きたのかよく分からないが、少しの間気を失っていたのはわかった。
目を開けたのに視界は灰色一色だ。煙が充満しているようだ。
火事か?
いや、爆発? ガスに火がついた?
まさかの爆弾テロ?
レイラ爆弾とか考えてたバチ?
伊藤は自分が床にうつ伏せに伸びているのに気がついた。立ち上がろうとするが、腰が抜けたのか、這った姿勢から立ち上がれない。
煙が充満しているなら、姿勢は低いままでいいかと思い直し、這ったまま移動する。
手で探りながら進むと、周囲の様子が分かってきた。イスやテーブルがひっくり返って、がれきもかなり散乱している。窓ガラスの破片もある。危ない。
手が弾力のあるものに触れた。
ん?
触ったまま顔を寄せたら、女子の制服だった。触っていたのは胸だ。
慌てて手を引っ込める。
この状況でラッキースケベとは。
「お、すまんすまん。事故事故」
女子は仰向けに倒れている。
うちの学校は名札を着けてないので、顔を見ないと誰か分からない。
胸をがっつり触ってしまったが、反応がない。
気絶しているのだろうか。
煙を手で払いながら四つん這いのまま頭の方へ移動する、
顔は赤い塊になっていた。
血で染まった髪の毛だった。
頭を抱え、べったりと貼りついた髪の毛をかき上げる。
「うっ!」
女子の顔が見えた瞬間、伊藤は昼食を戻しそうになった。
大きく割れたガラスが左眼から口元までざっくり裂いて深々と刺さっていた。
頬の肉がはぜ、ちぎれた皮膚や筋肉がぶら下がりドクドクと血が噴き出ていた。
ガラスにへばりついている潰れてドロリとした白いものは……。
うぶっ。
が、ヒュー、ヒューという呼吸音が聞こえた。
まだ生きてる!
「誰か、手を貸せ! ここにめちゃヤバい子がいる!」
伊藤は夢中で叫ぶが、返事がない。
「誰か――――――!!」
「ここ……、いる……」
煙の向こうから細い声がした。男子の声だ。
「大丈夫か!」
「脚が……。骨が、折れた……、みたい……、だ」
「そうか、近くに誰か動ける奴はいないか」
「わからん……、見えない……。助けて……、頼む……」
伊藤は青ざめた。心臓がぎりぎりと握りしめられたようだ。呼吸が早まる。
自分がたまたま幸運だっただけで、みんなこんな大けがしてるのか!?
廊下に出ていった大峰は無事か?
レイラは?
……なんなんだよ、これ!
なにが起きたんだよ!
◇◇◇◇
焦げたような臭いが漂い始めた。
煙しか映らない監視カメラから、警備ドロイドたちのAIカメラに視界を切り替える。優先すべき対応項目を判断し、その方向にカメラをズームしてくれるので状況が分かりやすい。
校舎棟に火の手が上がっていた。
銃声も聞こえる。
ドロイドとテロリストの戦闘が始まっている。
ええと、マップだとこの辺り?、だよな。校庭の真ん中。
大峰を救助したドロイドのカメラにリムジンから降ろした超小型の人工心肺装置が映っている。血液の循環が始まっている。早い。
OTによってA4サイズにモバイル化されたものだ。
肉眼では、煙が立ち込めていて先が見えない。今の視界は2、3メートルというところだ。
校庭にも窓ガラスの破片やサッシのフレーム、コートのフェンスなどが散乱している。
足元が見えるようになったので格段に進みやすくはなったが、ひどい有様だ。
爆弾の威力、恐ろしや。
「コーヘイ!」
いつの間にか耳が聞こえるようになっていた。
アンダーガールズのレオノラさんが煙から出て来た。いつもの黒いスーツだが、透明なマスクで顔を覆っている。
「これ」
オレもマスクを受け取り装着する。目、鼻、口がカバーされた。
英語での会話だが、LRのおかげでバッチリだ。
「大峰は?」
「大峰って、今しがたドロイドが連れてきた女の子?」
「うん」
「心肺停止状態だったけど救急処置を始めてるぞ。もうすぐ体育館に臨時治療所を展開完了するから、そっちに移動するぞ」
「心肺停止!?」
「ああ、もう大丈夫だぞ。バイタルは戻ってるぞ」
「そうか、よかった。レイラは?」
「無事だぞ。食堂の負傷者を搬出中だぞ」
「いっぱいいたはずだけど!?」
「広域瞬間移動使ってるぞ」
◇◇◇◇
天井から水が噴き出した。
スプリンクラーの散水だ。
伊藤はあっという間にずぶ濡れになった。
抱えている重傷の女子をかばってわざと水を受けたせいもあるが。
煙の粒子が水に取り込まれ、視界が開けてきた。その分床が泥水に浸かったようになる。
想像してたよりひどい。
テーブルも椅子も備品類も吹き飛ばされ積み重なっていた。
特に校舎寄りの窓側がひどかった。
奥の厨房側は比較的マシだったが、割れたガラスがあちこちに突き刺さっていた。
校舎棟が赤く燃えているのが煙越しに見える。そもそもは向こうで爆発が起きたようだ。
動いている人間はいない。みんな、床に投げ出されて転がったまま泥だらけになってる。
死んでるのか、気を失っているのか、けがで動けないのかはそばに行かないとわからない。
でも、倒れている人、少なくないか?
もっと大勢が食べていたように思うが……。
戦闘服で身を固めた一団が、割れた窓から入ってきた。
自衛隊! 救援だ!
伊藤が勘違いしたのは仕方ない。
赤外線ビジョン、動体センサー、防弾ヘルメットに防塵マスク、防弾ジャケット。
だが、彼らは短機関銃を構えていた。
赤いレーザーが伊藤の額をポイントした。
「え……、銃?」
伊藤は間の抜けた声を上げた。
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