第18話 エルデ・ドゥガン
レイラはいつもの前席にジャンプしてライディングポーズになっていたが、オレは初めて自力でコクピットにジャンプしたため着地に失敗した。
レイラのスカートの中に顔を突っ込んでしまった。
「きゃあ! 航平、今はダメよ!」
「うぉっ、ごめん!」
慌ててバックして後席に着く。モーションアームが自動的にオレの手足に固定された。
「イ、ナズィ・ニルファールの現在位置は?」
『サマルカンド上空だ』
えーと、サマルカンドって、どこ?
データベースデータベース……。
おお、あった。ウズベキスタンの都市だ。中央アジアになんでナズィ・ニルファールが?
「何をしているの?」
『ファイティングシステムを立ち上げている。攻撃するつもりだ』
「サマルカンドを!?」
『いや、世界各地の反UC勢力の主要軍事施設をマルチロックしている』
マッブが投影される。各基地までの中心がたまたまサマルカンド付近なんだ。
「あのバカ艦長め! 介入しすぎちゃダメって言ったのに! 航平、お願い!」
繋がっているからレイラの考えは分かる。
『ほんとにいいんだな』
『うん、ナズィ・ニルファールを止めないと』
「「フィジカルリンケージ確認。イ・ドゥガンからイ・ヴァンダーへ
ファイティングシステムブレイクアップ!」」
オレと、レイラと、イが繋がる。
膨大な知覚と巨大な力がオレの中に流れ込んで来る。
ヴァンダーモード!
「「
おっと、目の前に誰もいないのについ見えを切っちゃった。
『おい、そんなことで時間を取ってる場合じゃないだろ!』
ソフィアさんに脳内で怒られたよ。
全くそのとおり。
ロックした標的施設目掛けてナズィ・ニルファールが反応弾を斉射した。
宣戦布告なしかよ!
「「ドローンファング、全機ジャンプ!」」
宇宙空間でドローンファングが離脱、反応弾をビームで撃ち抜き全弾爆散させた。
目映い閃光が世界の空で同時に確認された。
ロテルからも幾つか見えた。
「「
サマルカンド上空にジャンプした。
ナズィ・ニルファールが浮かんでいた。
『艦長、どういうつもり? この星への過度な干渉はしないって申し渡したはずよね』
『どういうつもりも何も、姫をこの星に残すんだ。蛮族には己の分というものを教えておかねば、心配でたまらん、ということだ』
『そうだよレイラ。暴力をふるった子どもを叱るのは大人の役目だよ』
『マムルーク、これじゃしつけにならないわ。脅しよ』
『しつけには飴と鞭が必要だよ。もう飴であるOTは十分渡したよね。なら、使い方をきちんと教えてやらないと、また暴走するよ。大人を舐めるとどうなるか、やんちゃな子どもにはちゃんとその身で覚えてもらわないといけないんじゃないかな。それが大人の責任だよ』
『なんでそんなに上から目線なのよ!』
『実際、僕らは遥か高みにいるじゃないか。こんな素行不良な野蛮人、滅ばしたってかまわないと思ってるよ。愚劣な下等人種のくせにレイラに手を出すなんて』
『マムルーク。あなた本気で言ってるの?』
『僕は怒ってるんだ。愛しいレイラ。君を残すのには反対なんだよ。だけど、決まったことだからね。なら、愚か者の数だけでも減らしておきたいんだ』
『お仕置きが必要なのはマムルーク、あなたのようね』
『レイラ、どうしたの? 僕は君のことを』
「「二刀流!」」
オレ、イ・ヴァンダーは二本の刀を抜いた。ちょっとイラついてる。
『レイラ、ちょっと待って! それとも航平、君がか!?』
「「ヴァーティカル・ツインカッター!」」
瞬間移動で一気に距離を縮め、ナズィ・ニルファールの艦首を
「「ギズモプロテクト!」」
超電磁バリアを纏って縦横無尽に機動する小型メカ、
シューティングゲームのオプションバリアよろしくイ・ヴァンダー周囲を飛び回らせ、敵の弾幕避けにするのが普通の使い方だが、相手の超電磁バリアに対しては位相を反転し無効化することも出来る。
『おい姫、洒落にならないぞ!』
『これは冗談じゃないわ。マムルークを押さえられないなんて、艦長失格よ』
「「ブラスターマシンガン!」」
超電磁バリアに空いた穴に向かって両肩の
瞬時にナズィ・ニルファールがジャンプする。
『
宇宙空間に出た。足元で地球が丸い。
ナズィ・ニルファールは宇宙戦艦に改修されている。艤装も宇宙用だ。地形適応:宇宙Sってやつだな。
『姫。そっちがその気なら仕方がない。改装して生まれ変わった宇宙戦艦ナズィ・ニルファールの真の威力を見せる時が来た』
ロズダム艦長、若干芝居ががってない?
『レイラ、なぜそんな原始人を庇うの? おかしいよ』
マムルークの怒りを感じた瞬間、ナズィ・ニルファールの主砲から
太いビームがイ・ヴァンダーの直前で何百本のビームに分かれる。球状に広がるように360度方向へビームが分散、そして再び焦点を結ぶようにビームが収束する。
その焦点はもちろんオレ。イ・ヴァンダー。
イ・ヴァンダーの装備である
「「
腰のマルチケースに格納されている金属片のような反射板を瞬間移動により周囲全方向に展開、全ビームを弾き返す。
ナズィ・ニルファールに全弾着弾した。が、超電磁バリアは健在。
さすが宇宙戦艦用のリアクター出力だ。スペックが上がっている。
なお、技名セリフは着弾後になった。光速での攻防の中、口で喋ってるからどうしても遅れる。
『うおっ! なんで地上戦用のイ・ヴァンダーが宇宙戦闘に対応出来る!?』
『80年近くも宇宙にいたのよ。イが自分を改造するのは当たり前じゃない』
『レイラ、君は本気で……。そうか、わかったぞ、航平からの
『何言ってるのマムルーク。イが同調してるのにそんなこと起きるわけがないじゃない』
『なら、イも侵されたんだ。そうだよ、本当なら一番怒るのはイのはずだ。もっと早く気がつけばよかった。航平の適合係数は高すぎるんだよ』
いや、かあさんには負けるけど。
マムルークがオレに敵意を向けたのがわかった。
イケメンでいい奴っぽかったけど、思い込みが激しいタイプなのかな。
それに、今からやろうとしていることは良くないぞ。
『王子、
『レイラは、おかしな考えに染まっている。僕が救わないと』
ナズィ・ニルファールは
といってもオレもイと合体してるおかげで、つい今しがたこのことを知ったのだが。
それが出来ていて、
自分たち以外を舐め過ぎなのでは?
マムルークは、地球にバラまかれている
そして、ナズィ・ニルファールが複製したドゥガンタイプのフレームを出し、
『これは
『なるほど。確かにそのようね』
『この機体は、エルデ・ドゥガンと名付けよう。ではいくよ!』
マムルークがエルデ・ドゥガンのコクピットにジャンプした。
『でもこちらはヴァンダー。マムルーク、あなたに勝ち目はないわ』
『地球人に侵されたヴァンダーなど、敵じゃないよ!』
イが怒ったのが分かった。オレも無性に腹が立ってきた。なんだこいつ、子どもみたいなのはお前じゃないか。2000歳のくせに!
『お仕置きタイムよ! 航平!』
わかってる!
二刀流を構え直し、スラスターを噴かしてエルデ・ドゥガンに迫る。
エルデ・ドゥガンも
がきん!
宇宙空間でもコクピットには衝撃音が伝わる。オレの二刀を一刀でよくしのいだな! 生意気なだけじゃなくて実力もあるのか。
エルデ・ドゥガンの胸部からビームが撃ち出された。ブレストカノンズバーストだ。超電磁バリアを最大展開しながら後退する。ドゥガンモードでヴァンダーの兵器が使えるのか。
『あれはドゥガンの単なる複製品じゃないわ。一人乗りに最適化した別物よ!』
うん、さっきの打ち合いでわかった!
エルデ・ドゥガンがギズモプロテクトを3機展開、24機のドローンファングを射出する。
マジでヴァンダーと同等だな。
「「ギズモプロテクト! ドローンファング!」」
こっちも同数のギズモプロテクトとドローンファングを飛ばし迎撃する。
エルデ・ドゥガンが
太刀でぎりぎり受け流す。ロケットパンチならぬジャンプソード!?
『武器や装甲は
そうだ。そうとわかれば対処は出来る。それに
それはギズモやファングにもいえる。もう半数を撃破した。
ナズィ・ニルファールは沈黙している。マムルークに従っていただけのようだ。王家一族だから艦長も逆らえなかった。レイラも王族だが、オルドゥーズ人からすればマムルークの方が正しい対処なんだ。
でも、レイラからは干渉を止められているし、板挟みであったのは間違いない。
マムルークが自分でケリをつけるのなら、ありがたくお任せするということのようだ。
エルデ・ドゥガンのギズモとファングが復活した。どころか、数が倍になった。プラズマだもんな。コアを潰さない限り無限に湧いてくる。
数でごり押しの飽和攻撃。
面倒だな!
エルデ・ドゥガンからビームが連射される。ギズモプロテクトを盾にするが、相手のギズモに中和される。1機やられた。ドローンファングも1機が複数で攻められ破壊された。長引くとまずい。
エルデ・ドゥガンがファングとギズモで牽制しながらブレストカノンやブラスターマシンガンを撃ち込んでくる。
ギズモプロテクトが突破され、イ・ヴァンダーの超電磁バリアで弾くが、エルデ・ドゥガンの出力が高い。ドゥガンフレームの
強いな。舐めてたのはこっちかも。
『航平!』
ジャンプソードが転移してくる。弱った超電磁バリアでは防げない。二刀流をクロスして受ける。
と、そこへ2発目のジャンプソードが襲う。
腕と刀はプラズマで出来ている。両手を撃ち出したらそれで終わりじゃない。しまった、最初のジャンプソードはわざと1発しか発射しなかったんだ。思い込みの隙をつかれた!
空間転移して逃げる。が、マムルークはそれも読んでいた。
ジャンプアウトした先に3発目のジャンプソードが転移してくる。太刀で斬り捨てようとするが、下をくぐられた。
ざしゅ!
超電磁バリアごとイ・ヴァンダーの胴を斬られた。オレにその痛覚がフィードバックする。
ぐはっ!
自分の胴を深く斬られたように感じた。いや、実際オレとイ・ヴァンダーは一体化している。イ・ヴァンダーの胴はオレの胴だ。
『航平!』
ジャンプソードが4発、5発、6発……次々に襲ってくるのが分かった。思わぬピンチにイの処理速度が加速して対応しようとしているのだ。
ほんのわずかな時間。フェムト秒以下でオレの思考が走る。
エルデ・ドゥガンの瞬間移動の複数剣にオレは及ばないのか。
いつかレイラに負けた時のように。
ふと、手になじむものがあった。
かあさんから渡された木刀。
そこに筆で書かれた『虎』の文字。
おじいちゃん。
オレの脳内にある太刀筋のイメージが浮かんだ。
刹那、オレはイ・ヴァンダーの二刀を光速で振るった。複雑な太刀筋。あたかも卍の文字のごときその軌道。
伊庭二刀流奥義、
ついにオレがじいちゃんからもかあさんからも会得出来なかった技。
いや、これは、むしろ。
「「秘剣、
迫るジャンプソードをすべて叩き斬り、そのままジャンプで距離を詰めエルデ・ドゥガンを十文字に斬った。
ドゥガンフレームをコアごと断ち割った。
すぐにエルデ・ドゥガンの装甲や兵装がプラズマ化して消え、四肢がバラバラになったフレームが漂うだけになった。
「「完・全・勝・利!」」
オレたちは戦闘終了を宣言した。
イの機嫌も治っていた。
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