第19話 告白
ナズィ・ニルファールを引き連れて、ロテル上空まで降下した。マムルークはドゥガンフレームごとナズィ・ニルファールに回収させた。
エルデ・ドゥガンはヴァンダーモードに似たコントロールシステムを一部採用していたため、フレームから痛覚がフィードバックしマムルークが失神したのだ。
そしてまだ気を失ったままのようだ。そりゃ四肢切断のショックはでかかろう。
イ・ドゥガンに戻り、オレとレイラはジャンプでナズィ・ニルファールに跳んだ。
同時にアンダーガールズにも来てもらう。
UCとして今回の事件にどう対応するか決めてもらわないといけないからだ。
アンダーガールズはスーパークラフトカー3台を使ってナズィ・ニルファールに着艦したが、なぜか、かあさんも乗ってきていた。しかも自分で運転して。
今回はアンダーガールズも勢いを止められなかったのか、と思ったが、レイラが呼んだんだ。
母親として子どもに接する際の意見が聞きたかったんだと。
なんか生々しい話。
うーーん。
またモヤモヤがモヤモヤする……。
レイラはマムルークのお母さん。嘘みたいだが、事実だから受け入れるしかない。
のだが受け入れたくない!
くそっ、エフテラム家の家督め! 会ったことも見たこともないけど!
考えれば考えるほど思考の泥沼に陥り、脳が破壊されるとわかっているのに止められない。うじうじ。
……違うことしよう。
オレはかあさんに木刀を返した。
「これのおかげで勝てたよ、かあさん」
「あら、役に立ったのならよかったわ」
かあさんはにこにこしながら受け取った。イ・ヴァンダーと切り離されたら、あの奥義の感覚はオレの中から失われていた。
時間遡行と脳内リンク。そして超加速された演算能力。
それによって、木刀に込められた記憶、みたいなものをイが読み取った。
それがあの時、奥義が使えた理由なんじゃないかな。
そんな気がするだけだけど。
さて、オレたちは今
マムルークはまだ気を失ったままなので、先にロズダム艦長からレイラが話を聞く。アンダーガールズも立ち会う。オレとかあさんは横で聞いている。
オルドゥーズ人同士の脳内会話だとオレたちに伝わらないから、肉声でのやり取りだ。
経緯は予想どおりだった。
レイラが襲われたことはナズィ・ニルファールも把握していた。レイラを護るUCが無力化されたことも。
けれど、クルーたちはUCのサポートがなくてもレイラが地球人にどうにかされるとは思っていなかった。それにイ・ドゥガンもいる。
が、マムルークがロズダム艦長に噛みついた。UCは役に立たない。レイラを助けに行くようにと。
ロズダム艦長はAIのダウンロード中であるため少し待つようにマムルークを諭した。
その間にレイラは自力で脱出した。
もうそれでいいはずだったが、またマムルークが噛みついた。レイラに手を出した国に鉄槌を落とすべきと。罰を与えること自体はロズダム艦長も同意するところだが、マムルークは国ごと吹っ飛ばしそうな勢いなのを説得、軍事施設の破壊に留めた。
過干渉はレイラに止められている。国を亡ぼすわけにはいかない。
その後は、レイラに反応弾を迎撃され、地球人に手を出すなと叱られたマムルークがエルデ・ドゥガンを持ち出し、地球人に汚染されたと勘違いして戦いを挑み、負けて現在に至るということだ。
それにしても、制服姿の女子高校生に叱られる宇宙服のおっさんの図はなかなかシュールである。頭の大きな5歳の女の子に叱られるよりはマシか。
「やっぱり、ロズダム艦長の罪はマムルークを止められなかったという点に尽きるわね」
「仕方なかろう。王子の命だ」
「私の包括的指示は無視したのね」
「軍事施設の破壊は将来的な姫の安全確保に役立つ。それに軍は市民生活に関係ないじゃないか。破壊しても干渉にはならないだろう」
「何言ってんのよ! 軍事力のパワーバランスが崩れればこの世界は崩壊しかねない。だからOTも徐々に浸透させているのよ。
「むう。そこまでこの星は愚かだったのか」
「違うわ。この星はまだまだ進化の途中。地球人自身が考え判断し、国や世界を将来どうするか決めないといけないの。そのためにテクノロジーが必要なら協力するけど、私たちの価値観を押し付けては意味がないのよ。
アンダーガールズが顔を見合わせる。
艦長の考えは、かつてイが話した地球の評価と同じだ。低水準で教化の必要のある原始文明。
それがオルドゥーズ人の地球に対する普遍的な見方だと思っていた。だからUCは保護し協力しつつ、一方で監視し保険を掛けるという立場を取ったのだ。
だが、レイラは違った意見を持っている。
なぜかやけに地球人の肩を持つ。そして地球人自身の自主自立を望んでいる。
かあさんは納得したように頷いている。そして微笑みながらオレを見た。え? オレのせいなの?
CICに通知が来た。マムルークが目を覚ました。
「あ、マムルークが起きたみたいね。艦長はもういいわ。マムルークを連れてきて」
「ヤルダー、一緒に来い」
艦長とヤルダーがマムルークを連れてきた。痛覚フィードバックのせいかかなり憔悴した表情だ。イケメンが3割減ぐらいになってる。ざまあ!
「ひどいよ、レイラ……」
椅子に座っているのもつらいという風情だ。肩を落とし、うらみがましく前に座るレイラを見上げる。
「勘違いして暴走したのはマムルークではありませんか。エルデ・ドゥガンって何ですかあれは? ドゥガンフレームを複製していたことも報告を受けてないんですけれど」
レイラの口調が変わっている。厳しい上司モード? いや、教育ママモードか?
「あれは
「なるほど。今回は地球の
「ごめん……。聞かれなかったから」
「それはいいわけにすぎません。まあ、後で報告すればその件についてはいいです。地球人の考えに汚染されてかわいそうと言っていましたね。あれはどういう意味ですか」
「どうもこうも、そのまんまの意味だよ。レイラが原始人寄りの考え方に染まるなんて、そんなのダメだよ」
「地球人の、航平たちの考え方が愚劣で稚拙である、という意味ですか?」
「そうだよ。当り前だろ。レイラ、襲われたのは君自身だよ。レイラこそなんで地球人の肩を持つのさ!」
「ふむ。根本的な齟齬がありますね。イ!」
『聞いていた。マムルークに整理したことを伝えればいいのか』
イの声がした。脳内通信ではなく、CICとの音声通話だ。
「頼むわ。私からだと今のマムルークは素直に聞かない。イからの客観的情報なら冷静に理解出来るでしょう」
『承知した』
イとマムルークがクローズドで繋がった。オレたちには内容が分からない。
すねた目をしていたマムルークの表情が次第に変わる。目を見開き、頬が紅潮する。
「あっ、ああっ」
急にボロボロ泣き出した。なんだこりゃ。
「どう思いましたか?」
レイラが尋ねる。
「ぼ、僕が間違っていました。こんな意味が……、こういうことだったんですね!」
マムルークが感極まったように言う。だからなにこれ?
「わかったのならそれでいいわ。あなたはまだ若いわ。過ちを改めざるを過ちというのよ。マイハニー」
レイラの口調が普通に戻った。
「はい、ごめんなさい。レイラに認められるよう、これからも頑張ります」
「ロズダム艦長!」
「お、俺か?」
空気になっていた艦長だが、まだ横に座っていた。
「今マムルークに伝えたものをナズィ・ニルファールにもアップロードしておくわ。破門候との争いにも役に立つと思うから。頼んだわよ」
「内容は横で見てた。短命種の情報だな。わかった」
「私からの質問は終わりだけど? UCから何かある?」
「反撃が実際に行われていたら
ソフィアさんが答える。
「マムルーク君自身に答えを出させたのはしつけとして大正解よ。もうちょっと寄り添う感じの言い方の方が良かったとは思うけど、十分花丸よ!」
聞かれてないのにかあさんが答える。
「ありがとうございます、お母さま」
レイラが頬を染める。
ううん? なんかモヤモヤしているうちに終わった感じになっちゃったぞ。
ホンマにこれでエエンかい!?
◇◇◇◇
翌日、ナズィ・ニルファールは宇宙へ、……オルドゥーズへと旅立った。
オルドゥーズまでの星間航法図や、
レイラがオルドゥーズに帰るのは、まだまだ先になりそうだが、
反UC勢力もあきらめたわけじゃないだろう。
オレとレイラの戦いは、まだ始まったばかりだ!
などと打ち切りエンドみたいなことを考えていると、レイラから脳内呼び出しが掛かった。
放課後。ロテルにリムジンで帰宅し、夕食を食べお風呂にも入った後。
ロテルのレイラの個室の前に来た。
始めてロテルに来た日に寝たでっかいベッドのある部屋の隣だ。厳密にいえばロテルごと新しくなったので違う部屋だが、間取りは一緒だ。あそこは本来レイラ専用の寝室で、ここはレイラ専用のリビング。
『どうぞ』
ノックをしなくてもレイラにはオレが来たことが分かる。繋がっているからだ。扉を開けた。
広いリビングのソファに、レイラが一人座っていた。制服を着替えた私服だ。
「ありがとう航平。来てくれてうれしいわ」
「わざわざ呼び出して、何の用なのかな?」
よく考えたら女子の部屋に一人で入るのは初めてだ。
オレはちょっとぎこちなくなりながら対面のソファに座った。
「そっちじゃない、こっち」
レイラが自分の横を指す。隣に座れって!? いやもちろん座るけどね、レイラから言われたんなら。許可あり、セクハラなし! いやっふー!
「こ、これでいいか」
「オーケーよ」
レイラがいたずらっぽく笑う。ああ、くそ近い! いい匂い! そして破壊的にかわいい! サイコー!
「さて、なぜ呼び出したか、わかる?」
「え、うん、むぅ……、わからん」
いやなんとなくわかってるけど。さすがにそんなに鈍感じゃないけど。でも自分から言うのは恥ずかしいじゃん。しかも万が一、いや百が一、いや十が一……いや、自虐ネタはやめよう。でももし勘違いだったら、穴掘って地球の裏側に逃げたくなるくらい恥ずかしい!
「ねえ、航平。ヴァンダーモードで心が繋がった時、私の思いは知っているはずだけど、モードオフすると忘れちゃうのね。だから、あたらめて口で言うわ」
レイラがオレの両肩に手を置く。うるんだ瞳がオレを真正面から見る。いや射抜く。濡れたような唇が開き閉じる。ふにゅふにゅしてるなあ。いかん、吸い寄せられそうになる。
「私は航平が好き。誰よりも愛してる」
キター!
どストレート!
めっちゃ剛速球な告白!
男前!
「おおおお、オレも、レイラが好きだよ」
マジ女神! マジ天使! マジ姫騎士! マジ宇宙人!
最後のはちょっと違うか。
そんな超絶×超絶な美少女から愛の宣言いただきました!
ゴチになります!
……でもちょっとモヤモヤしてるけど!
「うん、わかってる。だから、あたらめて言うわ。私が何者なのか」
何者?
え待って、まだ何か秘密があるの!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます