第16話 さらわれた姫騎士

「航平、手を」


 レイラが手を伸ばす。

 オレは、その手を取ろうとして、固まった。

 レイラの手を握れない。


 ためらってる場合じゃない。

 敵はすぐそこだ。

 でも、オレ、そんなに簡単に気持ちを切り替えられない。


『航平。私に騙されたと思ってる? それは私の年齢のこと? それともマムルークのこと? その両方?』


 レイラが脳内で語りかけてきた。

 直球だな。

 レイラらしい。


 OTハッキングはレイラの能力には及ばない。

 そもそもOTのコアはブラックボックスだから解析出来ない。

 ハッキングされたのは、地球の科学で作られた電子的な制御プログラムにすぎない。

 コアそのものであるレイラやイ・ドゥガンの能力に影響はない。


『騙した? いや、そうじゃない、そうじゃないけど、……教えてほしかった』


『ごめんね、航平。前にも言ったけど、私にとっては年齢も、一族のことも当たり前なの。それで航平が苦しむことになるなんて、思わなかったの』


『……』


 オレは、いつか見た夢を思い出す。オレが老いて死ぬ。レイラが若いままそれを看取る夢だ。

 あの夢が怖かったのは、何千年も生きるレイラにとって、オレの一生なんて瞬きする間の出来事にすぎないと思い知らされたからだ。

 レイラは地球人とは全く異なる、遠く離れた存在。宇宙人。

 オレとレイラの世界は違う。

 オレは、レイラの長い長い一生の間の、ほんの小さなさざ波のようなもの。

 わずかな、気まぐれのような瞬時の出来事。

 オレはそんなちっぽけな存在だったと知ってしまったからだ。


『そんなことないよ、航平。私には今が大切な時間。航平と一緒にいることが嬉しい』


 レイラ……。


『私の過去、私の未来。航平が生まれる前、航平がいなくなった後。たしかに私は航平と違う時間を生きていたし、この後も生きていくかもしれない。でも、今は、航平と同じ時間を生きているわ。それじゃダメなのかな?』


 同じ時間を生きる……。

 オレが生きている間、オレの人生は、レイラと共に生きられる……。


 そうか、そうだよな。

 オレにとっては生きている時間が一生なんだ。当たり前のことじゃないか。

 オレにとっては小さな出来事じゃない。きまぐれでもはかなくもない。


 一生、一緒に生きる。なら、生きることを充実させないと、損だ。

 人生は一回きりだし、短いんだから!


 子持ちの件はまだ結構重いけど、2千年前のことだしな! ドンマイ! ちくしょー! エフテラムの家督とかいうおっさん! 会ったことないけど!


『ごめんよ、レイラ』


『ううん、ありがとう航平。一生よろしくね!』


『おお!』


 われながらちょろいが、超絶美少女に一生よろしくといわれてノーと言える男子がいるだろうか、いやいない!

 オレはレイラの手をしっかりと握った。レイラが転移する。


 オレたちはロテル1階食堂に出た。

 窓ガラスが割れ、飾り棚が倒れ、大理石のテーブルが砕けている。酷い有様だ。

 ロボメイドが立ったまま動作を停止している。ドロイドのAIも阻害されているようだ。

 自動防衛システムも作動していない。

 地下にいる警備ドロイドも同様なんだろう。これ、ロテルも結構まずい状況なんじゃね?

 かあさん、クリスチーネさん、レオノラさんがロテルにいたはずだが、食堂ここには姿はない。とうさんはこの時間まだ会社だ。


 レイラが失認無効アムネジアジャマーフィールドを展開した。


 窓の外に敵の姿が見えるようになった。装甲戦闘車が1台、ロテル前400メートルあたりに陣取っていた。兵員輸送も出来る車のようで、フルメタルな兵士が多数展開してロテルこっちを狙ってる。ざっと30人ぐらいか。てか、もう撃ってる。ロテルの屋上に向かって。


「みんなは屋上みたいね」


「急ごう!」


 露天風呂の庭の隅で、カットソージャージの上下を着たかあさんが木刀を持ち下を覗いていた。

 屋上の目隠しになっていた竹矢来をはがした隙間からクリスチーネさんとレオノラさんが腹ばいになってスナイパーライフルを構えていた。


「レイラちゃん! 航平!」


「ソフィアたちは? どうしたんだぞ?」


「リムジンが襲われて、レイラとオレだけ跳んできました。レオノラさん」


「OTを無効化されるとはにゃー。まいったにゃー」


 だからクリスチーネさんなんでにゃー?


 手早く情報交換する。リムジンが襲われたとほぼ同時刻、ロテルに失認状態の兵士が突入してきたようだ。

 かあさんが木刀でなぎ倒して、一旦引いたらしい。

 で、今この距離を隔ててにらみ合いというわけだ。


「でも、敵の姿が見えるようになって助かったぞ。失認アムネジアがいかにずるいかよくわかったぞ。今まで美智子ミッチーの勘だよりで撃ってたぞ」


 かあさんが敵の位置を指示していたようだ。殺気の探知能力は凄いからな、かあさん。


 二人は喋りながらスナイパーライフルを撃つ。接近しようとしていた敵兵が二人、弾かれるようにひっくり返り、構えていたアサルトライフルが吹っ飛んだ。ロテルに侵入しようとしていた敵兵たちがざっと装甲車の位置まで戻る。

 凄い腕だ。殺さないように敵を撃つなんてよく出来るもんだ。


「んー、ヤな音が聞こえるにゃー」


「案の定だぞ。むう、対空兵器はないぞ」


 オレにも聞こえた。ヘリの音だ。峰から出現したのは、攻撃ヘリだ。

 チェーンガンやロケットランチャーをぶら下げたやけに細長い奴。

 リンクが効いていれば機種がわかるが、今のオレは単なる素人である。ミリオタじゃないし。


「レイラちゃん!」


 かあさんがレイラに目配せすると、それで意味が分かったのかレイラがかあさんの手を取った。そして消えた。ジャンプだ。


 すぐに攻撃ヘリがぐらッと揺れた。


 あ……。


 しばらく揺れていたが、突然攻撃ヘリは方向を変えて、敵兵に向かっていく。

 チェーンガンを撃った。

 どどどどどどと土煙が上がった。威嚇射撃だ。

 敵兵が散り散りに逃げる。

 ヘリを奪ったのか。操縦してるのは、かあさん!?

 そういえばこないだもヘリ操縦したって言ってたな。またまたあ~と話半分で聞いてたけど、ホントだったんだ。


 どがん!


 装甲戦闘車が攻撃ヘリを砲撃した。

 が、直前で砲弾が爆発する。

 迎撃した? この至近距離で?


「これはチャンスなのだぞ」


「わーってる! 行くにゃー!」


 レオノラさんとクリスチーネさんが屋上から飛び降りた。スナイパーライフルは置いたまま、光剣ビームスパッドを抜いて。


 え、ちょっとここ3階の屋上だよ!


 慌てて下を覗き込むと屋上からロープが垂れていた。

 金具をひっかけて、二人はあっという間に地上に降り、走り出す。


「コーヘイ! ロープ巻き上げといてにゃー!」


 敵兵に登ってこられたら困るか。てか、オレ片付け係なん?


 二人が走り出すのと攻撃ヘリがロテル側に後退して着地するのがほぼ同時だった。

 クリスチーネさんが攻撃ヘリに駆け寄る。

 木刀片手にかあさんが攻撃ヘリから出、クリスチーネさんが入れ替わりで乗り込む。反対側から縛られたパイロットが蹴り出され地面に落ちた。合掌。

 ヘリが離陸し、かあさんが走る。


 今度は装甲戦闘車がぐらぐら揺れて、突然走り出した。周囲の敵兵を追いかけるようにぐるぐる回りだす。


 なんじゃこりゃ?

 あ、今度はレイラが奪ったのか。


 敵兵は右往左往している。そこへかあさんとレオノラさんが到着、混乱して銃も構えられない敵兵をなぎ倒していく。


 光剣ビームスパッドはレベル3設定だ。

 レベル1でその名のとおり光剣、ビームで切断というか溶断する剣となり、レベル2でビームピストルになる。ビーム弾を発射出来る。

 殺さずに戦闘不能狙いならレベル3の麻痺スタンモードだ。


 クリスチーネさんの攻撃ヘリもチェーンガンで威嚇射撃をはじめた。

 敵兵の混乱がいや増す。かあさんがまた何人か倒していく。


 装甲戦闘車が停止した。レオノラさんがルーフに飛び乗る。ハッチが開いて兵士3人が押し出された。気絶しているようだ。

 最後にレイラが顔を出した。レオノラさんが装甲戦闘車に乗り込み、交代でレイラが外に出て装甲戦闘車と一緒に駆け出す。


 ……要するにレイラのジャンプで万事解決ってことだよな。


 ってオレ何もしてないじゃん! ロープ片付けただけじゃん!

 

 階段をえさこらと下り、光剣ビームスパッドを抜き、かあさんたちが戦っている方に向かう。


 レイラとかあさんが敵兵を沈黙させていく。レイラは光剣ビームスパッドで。かあさんは木刀で。銃を構える敵兵にはレオノラさんの操る装甲戦闘車が盾になり、クリスチーネさんのヘリがチェーンガンで牽制する。

 よっしゃ、押せ押せムードだ。

 俺も加わればすぐ片が付くな。


 と思っていた矢先、戦闘バイクが道を登って現れた。3台。


 さっきのだとすると、二手に分かれたのか。そもそもロテルは陽動で、本命はレイラだから、リムジンに関わっている意味はないか。

 ソフィアさんとイライザさんはどうしたんだろう。3台やっつけたのか、まだ戦闘中なのか、それとも……。


 くそ、リンク出来ないだけで焦る。


 バイクは躊躇せずレイラとかあさんに突っ込んで行く。

 かあさんは、真っ直ぐ自分に向かってきた1台を接触寸前まで引き付け、紙一重でかわした。

 かわしざまに、乗り手の兵士ライダーの延髄を木刀で打つ。神速の剣だ。レイラとどっちが早いか。


 一瞬で昏倒したらしく、バイクはそのまま走り去り林の木にぶつかって止まった。こてんと倒れ、兵士も一緒に横倒しになる。もうピクリとも動かない。


 レイラに向かったバイクは、レイラが転移ジャンプし、そのバイクにタンデムでまたがるように出現、ライダー兵に触れた。ライダーは林の木の直前に転移、慣性でライディング姿勢のまま木に頭から激突した。

 こいつも動かなくなった。ジャンプパねえ。


 レイラはそのままバイクを駆る。乗れるんだ、と驚いたが、装甲戦闘車を動かしていたし、イ・ドゥガンのコクピットもバイクスタイルだ。同じようなものなのかも。ってそんなことはないか。スカートがはためく。


 残るバイクは1台。


 が、レイラとかあさんがバイクにかかずらってる間に敵兵が立ち直りをみせていた。

 自分たちを殺せないということに気が付いたのか、走り回る装甲車に逆に向かっていく。そして何人かが車体に取りつき、よじ登った。


 ヘリのクリスチーネさんが威嚇射撃するが、装甲車を撃つわけにもいかず、威嚇にすぎないことを知った敵兵はひるまない。


 敵兵の一人がハッチをこじ開けようとしていた。

 手りゅう弾を手に持っている。

 レオノラさんが危ない!

 オレは装甲車に向かってダッシュした。


 敵兵のひとりがオレに気付き、アサルトライフルを向けた。


 はじめて銃で狙われた。


 しかも敵の目的はUCと違って牽制や行動不能などではない。射殺だ。本気も本気の殺意がオレを射抜く。

 オレはビビった。その分動きが鈍る。

 銃弾が全身に着弾した。顔は腕をクロスしてカバーしたが、その腕から腹、太もも辺りまでいっぺんに撃たれた。


「ひ!」


 つい悲鳴が漏れた。

 パーソナルバリアの緩衝フィールドが生きていた。銃弾はすべて弾かれたが、着弾の衝撃は結構なものだった。オレは倒れ、地面に転がった。

 ショックで頭が真っ白になった。


 前回の学園テロは爆発被害だったし、テロリストは銃を持っていたが、オレが狙われたわけじゃない。

 オレは普通に学校に通ってるし、正直今の今までずっと民間人感覚だった。

 けど、オレはUCの所属員だ。

 そしてヴァンダー・ドライバーは戦闘員だ。だから光剣ビームスパッドのような武器が与えられている。

 反UC側からみればアンダーガールズと同じ『敵兵』の一人だ。

 レイラは生きて捕縛しないといけない。

 だが、オレやアンダーガールズはそうではない。


 全身が痛い。アサルトライフルで撃たれて痛い程度で済んでるのは凄い防弾性能だ。

 が、そもそも銃なんてドラマや映画の中の話だったオレにしてみれば、この痛みはガチだった。

 地面に転がったまま、すくんで体が動かない。


「航平!」


『航平!』


 かあさんとレイラが撃たれて倒れたオレに注意を割く。その分、隙が出来る。


 ばしゅうっ!


 敵兵の一人がロケットランチャーを撃った。狙いは攻撃ヘリだ。

 別の敵兵が装甲戦闘車のハッチをこじ開け、手りゅう弾を中に放り込んだ。

 敵兵が装甲戦闘車から飛び降りる。


 ばごおん!


 装甲戦闘車内で爆音が上がり、ハッチが吹っ飛び窓から炎が噴き出た。レオノラさんが!


 ロケットランチャーの弾がヘリ直前で爆発した。


 同時にかあさんが燃える装甲車前に飛び出した。

 何人かの兵が銃を向けるが、ジグザグに走るかあさんを捉えきれない。

 兵たちの懐に入った。一閃!

 バタバタと倒れていく敵兵たち。


 かあさんのそばにレオノラさんを抱えたレイラが現れた。爆発直前にジャンプで救出したんだ!

 戦っているかあさんにも触れ、3人が姿を消す。ジャンプだ。


 直後装甲戦闘車が爆散した。燃料と弾薬に引火したようだ。周りの敵兵が爆風で吹き飛ぶ。

 オレを撃った敵兵も吹っ飛んだ。オレ自身も爆炎に巻き込まれる。熱っ!!

 攻撃ヘリが爆風に煽られて傾き、ローターが地面を擦った。

 クリスチーネさんがコクピットから飛び降りて走り出す。

 ヘリが横倒しになって、ローターが折れて飛んだ。林の木々に突き刺さる。怖っ!!


 レイラはバイクチェイスしていた。

 最後のバイクを追いかけている。ノーヘルの髪がなびき、制服のスカートがバタバタと強くはためく。あ、パンティ見えた。ピンクだった。

 いや、そんなところに注目してる場合じゃない。

 いつの間にか敵のバイクには二人が乗っていて、タンデムの兵が後ろ向きになってアサルトライフルでレイラを撃っている。


 突然敵ライダーのフルフェイスにひびが入り、ぐらッと傾くと転倒して草の上を滑って行った。敵兵二人が投げ出される。

 レイラがその上を走って轢いた。

 ぐげっというカエルがつぶれるような声を上げて二人は沈黙した。無慈悲。


 爆炎で焙られて、といってもパーソナルバリアのおかげで火傷はしていないが、オレは自分を取り戻した。パンチラに心奪われる程度に。焼かれて冷静になるというのも変だが、ショック療法みたいなもんだったんだろう。


 レイラがアサルトライフルの弾を手に持っていた。オレはようやく手品のタネが分かった。

 弾丸を転移させたんだ。進行方向に出現させれば敵が勝手にぶつかる。置きトラップだな。

 ヘリを狙った弾が爆発したのも同じ手だろう。


 オレも立ち上がる。いつまでもビビってられねえ!

 ってもう敵兵わずかしか残ってないんだけど!


 急にレイラがバイクを麓方向に走りださせた。


 下からまた2台のバイクが登ってきた。先頭の敵兵ライダーが走りながらロケットランチャーを撃つ。

 着弾する前に空中で爆発する。そしてレイラの姿がバイクごと消える。

 レイラはロケットランチャーを構えたライダーの背後に出現、またライダーを林に転移、木に激突させる。

 同時に無人のバイクが後続バイクの直前に出現、正面衝突した。

 がしゃあんと盛大な音を立てて潰れる2台のバイク。ライダーは吹き飛ばされた。


 ロテル前の残存兵が銃を撃ってくる。あと5人。

 こっちも5人。


 レイラが固まっていた2人の背後にジャンプして光剣で斬り捨てる。あと3人。

 焦ってレイラに銃を向けるが、もう姿はない。目を離した隙にかあさんが走り1人を木刀で斬る。あと2人。


 その時、バイクが道を上がってきた。最後の戦闘バイクだ。

 ん、乗ってるのソフィアさんとイライザさん?

 なんか叫んでいるが、さすがに距離が遠くて聞こえない。


『航平、逃げて!』


 は? なに? レイラ!?


 次の瞬間、オレは空中に浮かんでいた。急激に地面が遠くなる。何これ!?


 頭の上に飛行モードになったリムジンがあった。


 リムジンの力場に掴まっているんだ。リムジンが急上昇しているのでオレも一緒にひっぱりあげられている。そしてリムジンがジャンプした。

 周囲の気温がぐんと下がる。寒いというより冷たい。氷点下だ。呼吸も苦しくなるが、パーソナルバリアで軽減されている。

 どこまで上がったんだよ! もう地球が丸いぞ!


 てか、リムジンを乗っ取られちゃったのか。これOTの塊だったよな。

 ヤバくね?

 でもモーフィング阻害されてたんじゃ……って、阻害したのはこいつらだから解除も出来るってことか。


『航平!』


 レイラの声が届く。同時にジャンプ圏外というイメージも届いた。

 そうか、瞬間移動だもんな。距離に制限があったんだ。そういえばパワードブレスのマニュアルにもあったっけ。連続ジャンプなら……。無理か、リムジンもジャンプ出来る。追いつけないな。


 イ・ドゥガンを使えば?

 ダメだ。何のためにUCが敵兵を殺さないようにしているんだ。イは手加減なんてしないだろう。


『武装解除し投降せよ。ここは空気が薄い。友人はそう長くはもたない』


 リムジンに乗った兵士がリンクで命令する。LRリンクレシーバーも使えるのか。ああそうか、リムジンにも装備されてたっけ。


 確かに息が苦しい。パーソナルバリアが空気をかき集めているようだが、限界はある。


 レイラを通じて地上の様子が分かる。


 レイラも、アンダーガールズも、かあさんも光剣や木刀を捨てた。

 敵兵がレイラの首に黒いチョーカーをつけた。手足を枷で拘束する。


『レイラ、何をされてる!?』


『爆弾だって。パーソナルバリアでも衝撃を吸収出来ないって脅されたわ』


 圧縮爆弾の一種と思われる。

 爆発のエネルギーをチョーカーの内側に刻まれた細い円周に集中させ、マッハ30を超える爆縮力により円周内部の物体=レイラの首を破壊する。

 鋼鉄さえも豆腐のように流動化して破壊するのが圧縮爆弾だ。

 単位面積あたりでは核爆発を遥かに凌駕する破壊力を有する。


 という情報が伝わる。いやレイラさん冷静に怖い解説送らんといて!


『なんだって! すまん、オレが捕まったから! オレ、最低だ。足引っ張ってばかりだ』


『航平、大丈夫よ。逆にこっちからも脅しておいたわ。航平やお母さまやアンダーガールズに何かしたら、あんたたちの国はただちに滅ぶって』


 リンクのやり取りは一瞬だ。

 敵ともう取引を終えたということだ。


 リムジンがジャンプした。


 地上だ。オレは地面にぶつかってバウンドした。くそ、わざとやりやがったな。

 レイラが敵兵に銃でこずかれ、リムジンに乗った。そのままジャンプで消える。


 ロテルの玄関横の車止めにある地下への隠しエレベータが開いた。残り3台のリムジンが上がってくる。運転席には誰もいない。オートドライブを乗っ取られているのだ。

 全部持っていく気かよ。

 

 さらに大きなトレーラーが地下から出て来る。


「あんなん、あったんすか」


「緊急脱出用だ。あれの存在も知ってたとはな」


 ソフィアさんが怒りをあらわにしている。レイラが連れ去られたんだ。オレも怒ってるけど、あの爆弾はガチのようだ。今は手が出せない。


 敵兵は手早く負傷兵をトレーラーに乗せる。収容が終わると、トレーラーがモーフィング変形した。これも飛行形態になるんかい!


 リムジンも変形し、上昇する。ジャンプで消える直前、なにかが降ってきた。


「全員伏せろ!」


 ソフィアさんが叫んだ。

 そのなにかは空中で爆発し、猛烈な閃光と爆風を巻き起こした。


 オレたちは閃光の中で吹き飛んだ。



 気がつけば、まだ林の中だった。木々が折れ曲がっている。地面がえぐれていた。ロテルは半壊していた。

 核じゃなかったが、強烈な爆発だったんだ。

 でも生きてる。パーソナルバリアさまさまだ。


「コーヘイ、無事か」


 ソフィアさんが憮然としていた。

 アンダーガールズも揃っている。かあさんもいた。無傷のようだ。


「あいつら、嫌がらせに圧縮爆弾を使いやがった。レイラの首がこうなるぞって脅しだ」


 オレはぞくっとした。

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