第5話『紅と実父、画面越しの再会』前編
今更、なんのつもりなのだろう……オレは
そんなこと言われなくても分かっているし、出来れば
「……イヤなら切るけど……どうする?」
「いや、切るなよ」
九島さんの言葉に、タブレットから反応があった。大人の男性の声……
「でも、
「……紅、紫乃のことで話がある。時間がないから簡潔に話す。俺の顔を見るのがイヤなら、話だけでも聞いてくれないか」
「……九島さん、タブレット、借りてもいいかな?」
「うん、どうぞ」
オレは九島さんからタブレットを受け取り、画面を真っ直ぐ見据える。記憶の中に、かすかに残っている
やっぱり見るんじゃなかったと、ほんの少し後悔する。紫乃が連れていかれた時のことを、はっきりと思い出してしまうから。だけど、九島さんに迷惑をかける訳にはいかない。だからこの選択でよかったんだ。
画面の向こうにいる
「久しぶりだな、紅。早速だが、本題に入らせてもらう」
「あの」
淡々と話し始める
「はしめまして。お父さんが再婚して、紅くんの妹になった
ユウヒは控え目に、タブレットを覗き込み、ペコッと会釈する。
「あぁ……君が……そうか……あぁ、問題ない。むしろ、君には知っておいてもらっていた方がいい」
ユウヒにまで、知っておいてもらっていた方がいい話ってなんだよ……ユウヒになにか迷惑をかける気じゃないだろうな……?
「改めて本題に入る。まず、大体、察しはついているだろうが、紫乃は才神市にいる。しかし、紅、お前とは会えない」
「だから帰れって言うんだろ? そんなこと言われなくても分かってる」
「最後まで話を聞けよ……確かに今日のところは帰ってもらうしかない。だけど、お前が紫乃に会いたいなら、
突然、意味の分からないことを言われ、困惑する。
紫乃に会うために、
「才神市の、
「は……? なにいって」
「信じられないかもしれないが、本当だ。想造力値【S】の人間は、自身が想像できるもの、
「……幼い頃は、一緒に住んでいたのにどうして……」
「それは、生まれたばかりの時にやる能力値の検査結果を偽っていたからだ。……元々、俺自身、
「なん、だよ……それ……だから、紫乃を無理やり連れて出て行ったことは仕方ないって言いたいのかよ。大体、
「紅……! 無理なんだよ……俺の力では、無理だったんだ……」
「あんたは
紫乃と離れて暮らさなければならない理由は分かった。それでも、こんなの納得できない。仕方のないことだと、割り切るなんて無理だ。
幸せに暮らせているのなら、それで良かった。楽しく普通の暮らしが出来ているなら、一緒に暮らせなくても構わないと思っていた。なのに、研究対象ってなんだよ。一生、研究所から出れないなんてふざけてる。そんな理不尽、オレは許せない。
「紅……お前なら紫乃を救えるかもしれない。研究員になって能力値【S】の人間に、危険性がないことを証明してみせるんだ。もし仮にそれが無理だったとしても……兄であるお前が傍にいれば、紫乃は安心できる筈だ」
紫乃を救える可能性があっても、今すぐには無理だという現実に胸が苦しくなる。子供の自分は無力なんだと思い知らされる。紫乃が泣いていても、抱きしめて「大丈夫」だと声をかけることも出来ない。それが悔しくて悔しくて堪らない。
「紫乃は……紅、お前と会いたがっている。だから前向きに考えてほしい。今すぐなんて現実的じゃないことくらい、分かるだろ。紫乃のことを本気で大切に想っているなら、将来また才神市に戻ってこい」
「……あんたに言われなくても……大人になったら、絶対に紫乃を迎えにくる」
「……紅、お前ならそう言ってくれると思ってたよ」
画面の向こうで、不意に
感情がぐちゃぐちゃで、どうしたらいいのか分からなくて、オレは涙が落ちそうになるのを必死で堪えることしかできなかった。
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