第4話『想造力値A【同じ能力者】との出会い』後編
あたし達三人は、円形の机を囲うように配置されている、木製の丸イスにそれぞれ座り、ひとまず自己紹介をすることにした。
「私は
「オレは
「妹の、景宮 ユウヒです。あたしも九島さんと同じ名前はカタカナで、小学六年生。よろしくね」
「九島さん、助けてくれてありがとう」
あの時、九島さんが助けに入ってくれていなかったら、紅くんが大ケガをしていたかもしれない。絶対に守ると決めていたのに、あたしは結局、何もできなかった。だから九島さんには感謝してもしきれない。
「オレからも、本当にありがとう」
「ううん、大したことはしていない。私はただ……チームメイトを止めただけ……本当にごめんなさい」
「九島さんは悪くないんだから、そんな顔しないで」
申し訳なさそうな顔で九島さんがうつむくものだから、あたしは慌てて首を振った。どうしよう……と紅くんを見ると、オロオロしていてので、余計に困ってしまう。
「そうだ! 少し早いけど、おやつにしよう! 九島さんも良かったら食べて」
思い出したように言いながら紅くんは、前の日に作っておいたスイートポテトの入った容器を取り出した。
紅くんが少し強引に、「どうぞどうぞ」と顔の近くに容器を差し出すと、九島さんは顔を上げる。
「もしかして……手作り?」
「うん、ユウヒと一緒に作ったんだ。スイートポテトは好き?」
「一番ではないけど、とても好き」
「それなら良かった。好きなだけ食べてくれるとうれしいな」
「ありがとう……いただきます」
九島さんはスイートポテトを手に取ると、ぺこっとおじぎをしてから、はむっと食べた。
「おいしい」
顔をほころばせ、モフモフ食べている姿は小動物みたいでかわいい。
九島さんの言葉に紅くんは、嬉しそうに笑っている。あたしと紅くんもスイートポテトを手に取り、口にする。
「九島さんは、食べ物で何が一番好きなの?」
「……好きな人が、作ってくれたホットケーキ」
あたしの問いかけに、少し恥ずかしそうに答える九島さんがかわいくて、心がポカポカした。こういうのをほっこりすると言うのかもしれない。紅くんもニコニコ顔で九島さんを見ている。
「好きな子って友達?」
「うん」
「いつから好きなの?」
「出会ってから、一年後くらい、かな……その子のことが、好きだと自覚したのは」
「出会いはいつ?」
「小学一年生の途中で、他県に引っ越して……転校先の学校で同じクラスだったの」
「どんな子なの?」
「面倒見がよくて、カッコよくて……だけど寂しがり屋な一面もある、とても優しい子……あの、恥ずかしいから、この話はもう……」
紅くんとあたしが交互に質問するものだから、九島さんを困らせてしまったようだ。悪いことをしたな。
二人で謝ると「ううん、気にしないで」と九島さんは、はにかむ。
「二人が一番好きな食べ物はなに?」
「一番は肉じゃがかな。オレンジジュースが好きだから、ミカンも好きだよ」
「オレはスイートポテトと、あと干し芋も好き! 実は今日も持ってきてるんだ。良ければこれもどうぞ」
「私は、二番目にうどんと、干し柿が好きだから……干し柿はいつも持ち歩いてる。もらってばかりなのは悪いから、良ければ食べて」
紅くんと九島さんはそれぞれ自分達のカバンから、干し芋と干し柿を取り出す。
どうしよう、あたしは食べるのに時間がかかるもの……みかん味のアメしか持ってきていない。こんなことなら他のお菓子も持ってくるんだった。
とりあえずアメは持って帰ってもらうことにして、スイートポテトと干し芋と干し柿を食べながら、あたし達はいろんな話をした。
食べ物以外の好きなもの、得意な教科、苦手な教科、趣味の話。会話の中で特に気になったのは、九島さんがやっている、“シンルドリティ・サバイバル・ゲーム”……通称『
それから、九島さんは約二週間前までは違う都市に住んでいたけど、訳あって才神市に住むことになったという話もしてくれた。
「どうにかして、元のチームに戻れないのかな……?」
思わずそう言葉にすると、九島さんはやわらかい表情で、あたしに微笑みかけた。
「大丈夫、大人になったら……会いに行こうと思ってるから……今は会えなくても、きっといつかは会えるって信じてる」
「大人になったら、か……」
何か思うところがあるのか、紅くんがぽつりと呟く。少しの間、何かを考えているような感じだったけど、「うん、信じてさえいれば、きっとまたいつか会えるよ」と微笑んだ。その言葉はまるで
「ところで、あなた達はどうして才神市に来たの? ここは特に、観光できる場所もないし……いろいろと大変なのに……」
紅くんも同じようなことを考えているから、あたしの顔を見たのかもしれない。もしくはどう伝えるべきか、悩んでいるのかも。
「……言いづらいことなら、無理に話さなくても」
「いや、そうじゃないんだ。ただ、もしかしたら、才神市に来た意味はなかったかもしれないと思って」
困ったような九島さんの声に、紅くんはすぐに否定した。そして意を決したように「実は……」と言葉を続ける。
「紫乃って子に……妹に会いに来たんだ」
「妹……?」
九島さんは不思議そうな声で、そう呟いた。紅くんが“紫乃”と名前を出した瞬間、かすかに反応したような気がする。
「オレの……父親が、才神家の人間らしいんだ。昔、紫乃を連れて出て行って……才神市にいると思って来てみたけど、さっき会った
「……うん、分からない。力になれなくて、ごめんなさい」
やっぱり、なにかおかしい。九島さんは隠し事をしている気がする。才神
本来なら、ここで引くべきなのかもしれない。だけど、少しでも可能性があるなら、簡単に諦めるべきではないと思う。折角、
「本当に? 本当に、九島さんは紫乃ちゃんのこと知らないの?」
「ユウヒ、九島さんは分からないってさっき」
「ううん、心当たりくらいなら、あると思う」
あたしの言葉に、九島さんは困ったような顔でうつむく。
「お願い! 紅くんは幼い頃、無理やり紫乃ちゃんと引き離されて……ずっと会いたいと思っていたの。だから、知ってることがあるなら、教えて下さい」
あたしは立ち上がり、頭を下げた。
「……気持ちはうれしいけど、ユウヒがそこまでする必要はないよ。ほら、九島さんも困ってるから」
紅くんはやんわり、あたしをイスに座らせ「そんな悲しそうな顔、しないで?」と頭を撫でる。
「でも、紅くん」
「ユウヒ、九島さんは分からないって言ったんだ。だったら仕方ないだろ?」
その言葉にハッとする。紅くんも、九島さんが何か知っていることを察しているのかもしれない。それでもあえて聞かないのは、九島さんにとって言いたくない、もしくは言いたくても言えないことだと気がついたから……? そうか、そうだよね。人にはそれぞれ、他人には話せないことくらいある。出会ったばかりの相手なら尚更、話せないことは多いだろうし、才神市は特殊だから話してはいけないこともあるのだろう。
紅くんがそれを察して何も聞かないなら、あたしがこれ以上、何か言うのは違う、よね……。
「うん……分からないなら、仕方ない、ね。九島さん、ごめんね」
あたしの言葉に、九島さんはますます困ったような顔をする。
少しの沈黙が流れた。それを破ったのは九島さんで……彼女はおずおずと口を開いた。
「ねぇ……確認なんだけど、二人は本当に、
「え……うん、そうだよ」
突然の質問に、少し戸惑いながらも紅くんが答えた。すると九島さんはためらうように、また口を開く。
「こんなこと、聞いて良いのか分からないけど……二人は、血が繋がっていない……?」
「うん、親同士が再婚して、
「再婚……そう、なんだ……」
真っ直ぐな紅くんの言葉に、九島さんはどこか悲しそうな顔で呟いた。質問の意図が分からず、紅くんと顔を見合わせる。
その時、携帯の着信音が園内に響いた。紅くんとあたしの着信音とは違うため、恐らく九島さんの携帯だろう。
携帯ではなかったけど、やはり九島さんの持ち物の着信音だったようだ。九島さんはカバンから、大きめのタブレットを取り出した。
鮮やかな青色のタブレットケースをめくり、画面を見た途端、九島さんの動きが止まる。チラッとあたし達の方を見て、「ごめん、少し待ってて」と言いながら、声の届かない場所まで移動した。
それから程なくして、九島さんは戻ってきた。どこか心配そうな、戸惑っているような表情で、タブレットを抱きかかえている。
「その……
「え……一体、誰が……?」
予想外の言葉に、紅くんもあたしも首を傾げる。九島さんはタブレットをぎゅっと強く抱きしめた後、意を決したように口を開いた。
「……景宮くんの、お父さん」
紅くんの……お父さん……?
さらに予想外の台詞に困惑しながら、紅くんの方を見れば、彼は固まっていた。その表情はとても険しくて……いつもの紅くんからは考えられないほど、怖い顔をしていた。
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