小話①『紫乃に会いたい』
「ねぇ、
一年前、紫乃に会いに行ってみないかと提案してくれたのはユウヒだった。
どこにいるのか分からないから、会うのは無理だと思っていた。けど、ユウヒが一緒に調べてくれたおかげで、紫乃が今、
“
『離れて暮らす父親のことを少しでも知りたい』
それなのに、紫乃の居場所を見つけ出すためとはいえ、ばあちゃんの前で思ってもないことを口にした。オレはウソをついた。ばあちゃん、ごめん。
母さんと父さんにも今日のことは言っていない。ユウヒと二人で一年かけておこづかいを貯めて、こっそり紫乃に会いに行く。言ったら止められるかもしれないというのもあったが、
それでもオレは、できることなら紫乃に会いたかった。ワガママなのは分かってる。分かっていても、紫乃と再会したいという気持ちが抑えられなかった。少しだけでいい。一目顔を見るだけでも構わないから、紫乃に会いたい。
「会いたいなら、会いに行こうよ。ここでガマンしたら、ずっと後悔することになるかもしれない……会いたいと思っているなら、会いに行くべきだよ」
そう言ってユウヒは、紫乃に会いたいオレの気持ちを大切にしてくれた。
才神市まで、特急を使えば、一時間半くらいで着く。想像してたよりも、ずっと近くに紫乃は住んでいた。
才神市の出入り口がある駅に到着するまであと少し……。
「紫乃ちゃんに会えるの楽しみだね」
ユウヒの言葉に、自分でもびっくりするほど、強くうなずいた。
「ありがとな、オレのワガママに付き合ってくれて」
「ワガママなんて思ってないよ。そもそもあたしが言い出したことだし。それに、あたしも紫乃ちゃんに会ってみたいと思ってたから」
「そう言ってもらえると嬉しいな。……本当に、ありがとう」
頭をぽんぽんと撫でると、少し照れくさそうにユウヒは微笑んだ。
『
電車を降りて改札口を出ると、長い階段が見えた。
この石畳の階段をを上りきった先にある大きな門が、才神市への出入り口だ。
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