第3話『紅から見た景色』
プレートに
正直に言うと最初はこの景色に少し戸惑ったが、いろんな花達が見れて結構、楽しい。
だけど、ユウヒがどこか、うかない顔なのが気になる。受付のおじいさんに何か言われてから……いや、家を出た時から不安そうにしていた。ユウヒ自身はいつも通りに振る舞おうとしているようだし、確信はないからオレからは聞かないでおこうとは思っているのだが……ものすごく気にはなっている。かと言って無理に聞き出す気にはなれない。
そんなことを考えながら歩いていると、思いの外、早くに扉の前に到着した。
『
何もすることなく突然、機械音声が聞こえた後、扉が開く。いよいよ才神市内に入るかと思いきや、また同じ銅像と噴水、花畑。そしてさっきと同じくらい離れたところに扉がある。柱と壁で市を囲っていること自体、違和感があるというのに、二重三重にするなんて……まるで漫画の世界みたいだ。一体、何から身を守っているのだろう……?
「なんか、変わった都市だな」
扉をくぐり、再び真っ直ぐ歩きながら、ユウヒに話しかける。
「そうだね。こんなに全体を囲い込んで……一体何から身を守っているのかなって考えてた」
「オレも同じこと考えてた。ん? 全体?」
「え……だって上も……」
一度、立ち止まり、ユウヒが指さす方を見上げる。すると、ガラスなのかプラスティックなのかは分からないが、太陽の反射で透明な何かが張られているのが見えた。そういえば、扉をくぐってから暑さがマシになったように感じていたが、あの透明の何かのおかげだったのか。花達に気を取られていて全然、気づかなかった。
「ホント、一体なにから身を守ってるんだろうな……案外、
冗談のつもりで言ったのだが、ユウヒの顔を見ると深刻そうな表情をしていたので、慌てて否定する。
「いや、今のは冗談だぞ!」
「え……うん、もちろん分かってるよ?」
「へ……そうなのか……それなら良かった」
きょとんとした顔で言われ、思わず拍子抜けする。もしかして、さっきの深刻そうな顔は気のせいだったのかもしれない。
「紅くん、どうしたの? 早く行こ?」
戸惑うオレを軽く引っ張り、ユウヒは歩き出す。それにつられるようにオレも歩を進める。
扉の前で立ち止まると、また同じ機械音声の後に、ゆっくり扉が開く。今度は花畑ではなかったが、教科書で見たことがある西洋のような町並みが広がっていた。そこでふと、才神市だけ鎖国しているみたいだと思った。いや、国内で鎖国という言葉は変なんだけど、なんとなくそんなイメージが浮かんだ。
「おしゃれな町並みだな~」
「そうだね」
扉をくぐった瞬間、近くを歩いていた
これからどうするか話し合った結果、紫乃が最も居そうな“
才神邸は、中央にある神区に建っているらしい。才神市はそこまで大きくないため、徒歩で神区に向かうことにした。電車もバスも走っていないから、そもそも歩く以外の選択肢はないのだが……。
目的地へ向かう道すがら、すれ違う人達にやたらとじろじろと見られた。皆が皆、不思議そうな表情をしている。都市の中心へ近づくにつれ、出入口の近くで見られた時より、不思議そう……というより、険しい表情で見てくる人が多い。時々あからさまなため息や舌打ちまで聞こえてくるので、あまり歓迎されていないようにも思える。
だけど何かに怯えているような表情をしている人達は、ユウヒに向かってお辞儀をしている。というか、お辞儀をする人とされている人に分かれているように思う。ユウヒがお辞儀をされる対象なのだとすれば、
変に絡まれてしまったら、一緒にいるユウヒにも危険が及ぶことになる。ユウヒを危ない目にあわす訳にはいかない。もし何かあれば全力で守るが、絡まれないに越したことはないだろう。郷に入っては郷に従えという言葉もあることだし、オレがお辞儀することでニラまれないのなら、そうした方が良い筈だ。
と思ったのだが……お辞儀をすると、白いアクセサリーをつけている人達から、より鋭い目つきでニラまれてしまった。なんでだ……?
「紅くんはここの人じゃなんだからそんなことしなくていいよ」
ユウヒは珍しく強めのトーンで言った。オレの手をぎゅっと握って、ニラんでくる相手にキッと視線を向ける。ユウヒのそんな顔を見るのは初めてでびっくりしたが、同時にかっこいいと思った。
そうだよな。ユウヒの言う通り、オレは
「ありがとな。ユウヒも、肩の力を抜いて、楽しんでくれたらうれしいな」
オレは自分の眉間を指さして、笑ってみせる。ユウヒは一瞬きょとんとしたが、ハッとして自身の眉間をグッと押したあと、ふわりと笑った。
才神市がどんなところでも関係ない。人に迷惑さえかけなければ、自由にしててもバチは当たらない筈だ。
変に緊張してさっきまで無言だったオレ達は、他愛ない会話をしながら、真っ直ぐ才神邸を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。