第5話『紅と実父、画面越しの再会』後編
「それと……
「え、はい……分かりました」
オレの方に手を伸ばしてくるユウヒに、タブレットを渡すのをためらう。ユウヒになんの用か分からない以上、二人っきりで話をさせたくなかったからだ。
「
「紅くん、あたしは大丈夫だよ。もし、何かイヤなお願いをされたとしても、きちんと断るから」
ユウヒはニコリと笑い、タブレットに触れた。それでもオレは少し迷ったけど、ユウヒの真っ直ぐな瞳と目が合い、タブレットから手を離す。
「
ユウヒの言葉に、九島さんは「うん」とだけ答える。ユウヒはタブレットを抱え、席を立った。オレと九島さんは無言で、ユウヒが戻ってくるのを待つ。
どうして
そうまでしてオレに紫乃のことを伝えたのは……
紫乃は
「二人とも、おまたせ。九島さん、タブレットありがとね」
程なくしてして、ユウヒが戻ってきて、九島さんにタブレットを返した。
「……大丈夫だった?」
ユウヒからタブレットを受け取りながら、九島さんは問いかける。
「うん、大丈夫だったよ。紅くんのこと傍で見守っていて欲しいって言われたのと、あたしにも紫乃ちゃんのことを、自分の妹のように思っていて欲しいって言われたくらいで……あと、紅くんによろしくって言ってたよ」
「そっか……」
九島さんはどこか安心したような顔で、タブレットをカバンの中にしまう。
ここでも言えるようなことを、わざわざ離れたところで話す必要はあったのだろうか。オレには
だけど、いつまでも
「ユウヒ、そろそろ帰ろっか」
「うん……そうだね」
「九島さん、今日はいろいろとありがとう。たくさん話せて楽しかったよ」
「こちらこそ、ありがとう。才神市で、気兼ねなく誰かと話せたのは初めてだったから、うれしかった。私は……才神市の外には出れないけど、門の前までなら、良ければ送ってくよ?」
「九島さんが良ければ、そうしてもらえると助かるよ。ユウヒも九島さんともう少し話したいだろうし」
「うん。九島さん、お願いしてもいいかな?」
「もちろん」
オレ達三人は、机の上をキレイにしてから、植物園の外に出た。
比較的、人通りの少ない道を、九島さんの案内で進んでいく。ユウヒと九島さんが楽しそうに話す姿を眺めながら、たまに相づちを打ちつつ、オレは二人の一歩後ろを歩いた。初めて自分と同じ能力値の子と会って話せたことが、ユウヒにとっていい思い出になっていたらうれしいな。
才神市へ入った時と同じ扉の近くで、九島さんとオレ達二人は向かい合った。
「ここまで送ってくれてありがとう。九島さんも気をつけてね。またいつか、こうやって話せたらうれしいな」
「うん、もし、またどこかで会えたら、よろしくね」
オレと九島さんは握手を交わした。ユウヒは名残惜しいのか、悲しそうな顔をしている。
「……大丈夫。なんとなくだけど、二人とはいつか、どこかで会えそうな予感がしているから……きっとまた話せる日がくると思う。だから、そんな顔しないで?」
九島さんはユウヒに手を差し出し、優しくほほえんだ。
「うん……元気でね。今日は本当にありがとう」
ユウヒは九島さんの手を両手でぎゅっと握り、泣きそうな表情を笑顔に変えた。
オレとユウヒは手を振りながら扉をくぐり抜ける。扉が閉まり切って、互いの姿が見えなくなるまで、オレ達は手を振り合った。
才神市の外に出ると、受付のおじいさんにブレスレットを返し、お礼を言って別れた。おじいさんは特に何も聞いてこなかったけど、別れ際に優しい声で「気をつけて帰るんだよ」と言ってくれた。
オレ達は無言で電車に揺られる。それでも特に居心地の悪さはない。
目指すものが分かっているなら、あとは行動するだけだ。何も迷うことはない。
いろんなことを、調べて考えよう。地元の中学校に入学するんじゃなくて、想造力について深く学べる学校に入れたら……独学よりきっとこっちの方がいいだろう。
とにかく、今やれることをやるしかない。出来るだけ早く、紫乃を救うため……才神市へ、戻ってこれるように。
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