小話②『桐石陽子から見た、景宮ユウヒ』
中学生になった年の春。
お兄ちゃんは
美鈴音市では大丈夫だと伝えたい、のびのびとここでの生活を楽しんでほしい。
周りに馴染めるようになるまで、近くで見守っていよう。ユウヒにきちんと居場所ができたら、遠くから見守ろう。
あの子の居場所を奪ったアタシには、誰かと楽しい時間を共有する資格なんてないから。そう思っていたのに……
「
ユウヒはお弁当箱を両手で持って、じぃーとアタシの目を見つめる。
「皆と一緒に食べればいいでしょ」
「うん、だから陽子ちゃんも一緒に、ね?」
“皆”とは、ユウヒと仲の良いクラスメイト達のことだ。
女の子が四人と、男の子が三人。能力値はバラバラで、ユウヒと気が合う子達だと思い、引き合わせた。アタシもかつては一緒にいた相手というのもあり、信頼もしている。
皆の方を見ると、「がんばって」とユウヒに小声で声援を送っていた。
「前にも言ったよね? アタシには皆と一緒にいる資格なんてないって」
アタシの言葉に、ユウヒはしゅんと肩を落とした。そして、小さく口を開く。
「資格なんて本当に必要なの? あたしは何も知らないし、陽子ちゃんの考えは分かんない、分かんないから……あたしは諦めないよ!」
最後だけ力強く言葉を発し、そのままの勢いで皆の輪の中に飛び込んでいくユウヒの背中を、アタシは見送った。
“諦めない”と言いながらも、一週間程は何も仕掛けてこなかった。だから諦めてくれたのだと、勝手に思い込んでいた……だけど……
「
まさかこんな強引な手段に出るとは一ミリも予想してなくて、頭を抱えた。大人しそうだと思っていた子が、こんな突拍子もないことをするなんて、誰にも想像できないだろう……でも、この行動が、“
結局、ユウヒと二人っきりならという条件付きで、アタシが折れる結果となった。
登下校に加え、お弁当まで誰かと一緒に食べる未来が待っているとは……あの子を失ってからの、過去の自分がこのことを知ったら、確実に怒るだろうな。
「今週の『オレンジジュースの妖精 レオ&ジン』面白かったね!」
「今週の土曜日は、お父さんもお母さんも仕事でいないから、お昼はホットケーキでいい?」
「うん! 陽子ちゃんが作ってくれるホットケーキ美味しいから楽しみ。もちろん、あたしもちゃんと手伝うよ!」
ちょっとしたことでも楽しみにしてくれる、楽しそうに笑ってくれるユウヒを見ていると、元気をもらえる。何気ない言葉に、うれしくなる。
だけど、楽しい、うれしいと思う度、それを良しとしないアタシが、アタシの首を締めてくる。
あの子の悲しそうな顔が、思い浮かぶ。
アタシは、あの子も過ごすはずだった楽しい時間を、受け入れてもいいのかと……もうすぐ夏休みが始まるというのに、景宮くんから“ユウヒと一緒にいるための理由”をもらったのに、今もずっと自問自答している。
“遠慮なんてしないで、一度くらい自分の本当の気持ちを言葉にしてみれば?”
アタシは……どうすればいいのだろう。
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