自然をじっと見つめる作者のまなざしに引き込まれて読み進めていくと、武蔵野の野で寄り道したような不思議な感覚に包まれます。
子供の間違いを正す厳しさと、何食わぬ顔でまんじゅうを頬張るユーモラスな姿。命を守る優しさと、命を奪う残酷さ。猛威と恩恵が同居する、善悪などという人間の物差しでははかれない存在。作者の自然に対する豊富な知識と、畏敬の念がとても感じられる力作です。まだ読んでいない方は、是非読んでみてください。面白いです。
1行目を読み始めてすぐに、時間の流れが変わりました。焦るがゆえに、心の内のスピードと周囲のスピードがちぐはぐになっていく覚束なさが、ヒヤリ、ぞくり――と、日本ならではのじっとりとした怖さを加速させます。読み終わった後、現実に戻って来た…とハッとしました。武蔵の野にいるという「沼すべり」に、私もきっと、1行目を読んだ瞬間から出会ってしまったのでしょうね。ホラーの名手による短編です。文句なしに面白いです。
武蔵野の境界にある小さな沼が舞台の伝奇的小説。 沼は小さい分、深い。そこでは蛙が産卵し、オタマジャクシが育つ。 その沼には「沼すべり」と呼ばれる怪異があった。好奇心旺盛な主人公は、干上がった沼なら大丈夫だと言うが……。 まさにこの文学賞の為の一品で、こういう小説を待っていました。 この作品に出会えて嬉しかたです。 是非、御一読下さい。
情念など一切感じさせぬ淡々とした言葉で綴られるのは、美しい武蔵の野の姿と、そこに生きるもの達の息遣い。素朴でありながら、少しぞくりとさせられる結末は、「遠野物語」などの民間伝承好きにはたまらない。そう言えば、幼い頃、野山や水辺で遊んでいると、不思議なものの存在を感じたこともあったっけ……と遠い昔を懐かしく思い出した。
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