15話 試験終了後

「お疲れ様でした。これが冒険者認定カードになります」


 墳墓での冒険者試験が終わった後。


 条件をクリアして帰還した人だけを対象に、ギルド会館の一室で、冒険者カードの受領が行われていた。


 全てが終わり、他の冒険者達は部屋を退去した後。


「――ちょっといいかな?」


 僕たちも帰ろうとしたところをギルマスから声をかけられて呼び止められた。


「……僕たちですか?」


「そう君たちにだよ。それにこの部屋には君たちと俺以外は誰もいないからね」


 ニコニコと笑顔を向けている青年が、この街のギルマス・ヤーウェンさん。

 さっきまで、試験に合格した冒険者達一人一人にカードを手渡ししていたのもこの人だ。


「……僕たちに何の用があるんでしょうか?」


「君たちに一つ頼みたい事があるんだ。聞いてくれるかい? あ、もちろん聞いてくれるなら、結果次第じゃご褒美を考えなくもないよ。どうだい?」


 ギルマスからの頼みを断れば、ギルド内での印象が悪くなりかねない。

 上手く断るにも一度話を聞いてからでも遅くはないな。


「いいですよ。それで僕たちは何をすればいいんですか?」


「お! 話が早くて助かるね。さすが期待の大型新人なだけはあるね」


「期待の大型新人って僕たちの事――ですか?」


「あれ、知らない? 試験を一番に完了させて尚且つ伝説の魔獣を倒すなんてな。そんな凄い事やってのける新人を期待しなくてどうするよ?」


 そんな風に言われて悪い気はしないけど。

 あまり期待されるのも、正直重圧プレッシャーを感じる。


「最近、この辺りにも魔王軍が出始めてね。

 俺が得た情報だと、どうやら四天王グンニグルが倒された事に関係しているみたいなんだよね」


 言ってヤーウェンさんは細い目で、僕を見ている。


「……あの四天王グンニグルが倒されたんですか。それは魔王軍にとっては大きな損失でしょうね。それで魔王軍は四天王を倒した人を探すために、活動範囲を広めたと?」


「いや、そうじゃないみたいだね。だから君に魔王軍の動きを調べて来て欲しいんだよね」


「え……そんな重要な仕事を新人冒険者の僕たちにやれって言うんですか!?」


「ああ、そうさ。今動ける冒険者で君たち以外に適任はいないと俺は思ってるんだよね」


「――相手は魔王軍じゃ。それ相応の報酬はあるんじゃろうな?」


 今まで黙って聞いていたハクアが、僕とヤーウェンさんの間に割って入った。


「確か、君も今回合格した冒険者の――」


「ハクアじゃ。それは今はどうでもいい事じゃ。それで魔王軍の動向を探るのはワシたちにとって危険な仕事じゃ。それと同等の対価はなんじゃ?」


「……対価ね。そうだね……結果にもよるけど、冒険者のランクをもう一つ上げるってのはどうだい?」


「え? 冒険者のランクって……」


 今日、僕たちが得た冒険者ランクは『カッパー』より一つ上の『シルバー』だ。


 それより上と言うのは、『ゴールド』と言う事になる。


 もちろん『金』以上のランクはある。

 確か最上級は『オリハルコン級』だったはずだ。


 ヤーウェンさんの話から察するに、僕たちは冒険者としての実績を積まなくて、いきなり『金』に昇格できると言う訳だ。


「いいんじゃない? さっき聞いた話じゃ、その『金』になるまで結構実績が必要なんでしょ? でもたった一回で『金』になれるならラッキーじゃない。それにアルテイなら何の問題もないし、私たち神獣が――んん!?」


「エミちゃん。それ以上は秘密だよぉ?」


 ユニはエミリカが喋るのを止めるように、唇に人差し指を押しつけた。


「えっと……? 今の話はいったい……?」


 ヤーウェンさんの細い瞳が光っている。

 どうも今のエミリカの話に興味が湧いたようだ。


「あー……僕たちは、とある神獣の加護があるんですよ。それを彼女は言いたかっただけですよ。気にしないでください」


 咄嗟に僕は誤魔化した。


「ふぅん、そうか。そんな凄い加護があるのなら、この件はますます適任だね。じゃ、あとは話をこちらで進めておくから。

 君たちは連絡があるまでこの街で待機してくれ。

 では、失礼!」


「え、あ! ヤーウェンさん!?」


 彼は笑顔で手を振りながら、部屋を出て行ってしまった。


 残された僕たち四人以外、その部屋には誰もいない。


「あの人間。待機しとけって言ってたけど、そんなに悠長に構えてていいの?」


「ま、何かいろいろと用意があるんじゃろう。ワシらはその日までゆっくりとしておけばいいじゃろ」


「そうそう。エミちゃんはもっと余裕を持って生きていくないとぉ」


「いやそれは今関係ないでしょ、ユニ」


 三人はいろいろと雑談を始めだしている。


 僕は賑やかな三人を他所に、ヤーウェンさんの意図を考えていた。


「どうしたのよ、アルテイ。そんな真剣な表情してさ」


「いえ、気にしないでください。それよりもですね、メイドが家で祝杯の準備をしているはずですから、早く帰りませんか?」


「うわぁい! 御馳走だ御馳走ぉ!」


「ふむ。酒が飲めるんじゃな……くふふふ」


「そうね。早く帰りましょう」


 僕たち四人はギルド会館を出ると、転移スキルで屋敷まで跳んだ。


 屋敷に帰ると、メイドは冒険者合格祝いの用意を済ませていた。

 メイドが用意してくれた料理とお酒を、僕たちは夜更まで堪能したのだった。

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勇者パーティの雑用係だった僕は、【全能スキル】で世界最強へ〜神獣少女たちと超レアスキルで無双する〜 魔王の手下 @BOSS110

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