13話 vs魔獣スフィンクス①

 僕たち四人は、第十階層まで辿り着いていた。


 僕は全能スキルの一つ『探索サーチ』を使い、十階層にある宝箱を見つけ出していた。


「まさかこんな階段を降りてすぐの壁に、隠し部屋があるなんて、ちょっとビックリだわ」


「本当ですよね。もう徹底的に調べ尽くされたと思っていましたから、僕も驚きですよ」


 僕は手には小さな彫像がある。


 体は獅子で顔は人間、背中には二枚の翼。

 これは伝説の魔獣スフィンクスを模った物だと直ぐに分かった。

 彫像の素材はエメラルドで出来ている。


「これなら試験も合格だよねぇ。えへへ、よかったねぇ、アルテイ」


「ユニの言う通り、これなら問題ないでしょう」


 ユニは機嫌良さそうに、ずっとニコニコしている。


「じゃあ目的は達成って事で、そろそろ地上に戻りましょ。わたし、いつまで暗くてジメジメした迷宮に居たくないわ」


「そうですね。そろそろ戻りましょうか」


 僕たちは再び歩いて地上まで戻る事にした。

 転移を使わない事に、エミリカはずっと文句言っていたけれども。


 僕は基本的に歩くのが好きなんだ。

 しかも今回は試験だから、出来るだけ移動にはズルはしたく無い。


 僕たちは降りて来た階段を昇り始めて、九階層に出る予定だったんだけど……


 階段を登った僕を待っていたのは、九階層の通路ではなく、異様に広い空間が広がっていた。


「なにこれ? わたしたち、出る場所間違えたの?」


「いえ、十階層と九階層繋ぐ階段ですから迷う事なんてあり得ませんよ」


 壁や床の作りは他の階層と同じだから、僕たちはまだ墳墓の中にいる事に間違いはない。


「……ふむ。何かのトラップが発動したようじゃな」


「まさか? 僕が調べたときにはそんなトラップなんてありませんでしたよ?」


 十階層から戻るときにも『探索』を使って、なにも問題ない事は確認していた。

 だからトラップになんて引っかかる事はあり得ない。



 ――ゴゴゴゴゴ



「なぁに、この音ぉ?」


 動揺している僕たちの前で、中央にある床が振動し始めた。


「床が迫り上がっているようじゃな」


「って、なに呑気に構えてるのよ!? 下から出てきた魔獣って――」


「「スフィンクス!?」」


 迫り上がった床の上にいるのは、僕が見つけた彫像と全く同じ姿をした『魔獣スフィンクス』だ。


 全高はゆうに五メートル、全長十メートル近くと言うところか。


『グオオオオ!』


 スフィンクスが吠え、僕たちに向かって突進してくる。

 その巨体からは想像できないくらい俊敏な動きだ。


「ここはわたしとユニに任せなさい! やるよ、ユニ!」


「わかったわぁ、エミちゃん!」


 エミリカとユニは二手に別れると、突進してくるスフィンクスの左右に着いた。


火炎陣ファイヤトルネード! ……え!? うそうそ!?」


疾風ライトニング迅雷サンダーぁ! あれぇ? ユニの魔法もぜんぜん出ないよぉ?」


「なにをぼうっとしとるんじゃ! 二人とも、早く逃げるんじゃ!」


 魔法が出ないショックから呆然としていた二人に、ハクアが叫んだ。


「エミちゃん、早く離れよぉ!」


「……そ、そうね!」


 二人は慌てて、スフィンクスから距離を取る。


 しかし――


「グオオオオ!」


 スフィンクスはエミリカを狙いを定め、前足からの猛攻撃を繰り出している。


「ちょっと、どうしてわたしばっかり狙うのよ!」


 踏み潰されそうになりながら、エミリカは何とか躱している。


「魔法が出ないなんてあるんでしょうか?」


「……おそらくじゃが、この部屋は魔法を発動できないようにする結界が施されているかも知れんのじゃ」


「だからですか。さっきから転移スキルを使おうと試みているんですが……全く発動しない理由はそれのようですね」


 この結界の中じゃ、僕のスキルは発動しない可能性が高い。


 魔法もスキルも使えないんじゃ、エミリカを救うどころか、僕たちの命だって危険だ。


「――そうだ! ハクア、ドラゴンの姿に戻れませんか! そうすればスフィンクスを抑える事が――」


「それは無理じゃな。ワシの本来の姿はかなり大きさがあるから迷宮の天井が邪魔になって思うように動けん可能性があるのじゃ」


 確かに横の広さはあるけど、天井はそれほど高くはない。


 エミリカが不死鳥の姿に戻っても、飛行出来ずにスフィンクスの餌食になるだけだ。

 エミリカもそれを知っているから、元の姿に戻らないんだろう。


 魔法もダメ、神獣の能力もダメ。


 僕のスキルも発揮できないこの状況……僕たちは本当にピンチなのかも知れない。

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