3話 勇者パーティその後【追放した側視点】

 アルテイを追い出した俺達パーティは、魔王軍が四天王の一人・魔槍使いグンニグルの居城に潜入していた。


 迷宮と化した居城なんて、いつもどおり簡単にいくはずだった。

 だが、今俺達は追い詰められている状況だ。


「……なんでいつもより魔物モンスターに襲われるんだ? 今までこんな事あり得なかったろう!」


「落ち着け、ゴリアテ。例え今までどおりじゃなくても、俺達なら問題ないだろう?」


「……そうか? 今まで以上に強力な魔物に複雑な迷宮。まだ入って間もないのに、全員が満身創痍状態を問題無いと言うのか、ファウスト!」


「ゴリアテさん、落ち着いてください。今はいがみ合ってる場合じゃありませんよ」


 怒り散らすゴリアテを、フヨウがなんとか落ち着かせているが、そんなに簡単には収まりそうもない。


「ファウスト……大丈夫だよね?」


 マリンも不安そうな表情を浮かべている。


「大丈夫だ、マリン。今までどおりやればな」

「うん……」


 マリンが不安になるのも無理はない。

 この一階層だけで、俺達は何度も同じ場所をぐるぐると回っている状況なんだからな。


 マッピングなんて雑用をアルテイに任せてから、それを引き継いで出来る奴が他にいなかった。


「とにかく休憩が終わったら、第二階層を目指そうじゃないか? なあ!」


 疲れているのか、俺の言葉に三人は無言で頷くだけだった。


 休憩を終えた俺達は、再び迷宮を進んでいく。




 ○



 敵の数も増えていき、仲間の体力も魔力も無駄に消費していくだけの戦闘を繰り返していたが。


 だが俺達は一階層から抜け出す事は、未だに出来ていない。


「……ちょっといいですか、ファウストさん」


 僧侶のフヨウが深刻そうな表情をして、俺の近くに走り寄って来た。


「どうした、フヨウ? 何か問題があったのか?」


 彼女は首を横に振る。


「ファウストさん、これを見てください」


 彼女は回復薬や食料を詰め込んだ道具袋を、俺の前に突き出した。


「それがどうしたって言うんだ?」


「どうしたって……もう回復薬も食料も底をついたんですよ?」


「はぁ!? いつもどおり計算して薬も食料も買ってきたんだろ? それがどうして底をつくんだよ!?」


「それはこっちが聞きたいです。とにかく私達、これから先になんて進む事なんか不可能です……どうするんですか?」


 俺の責任と言わんとばかりに、フヨウの瞳が強く訴えかけてくる。

 俺はフヨウから思わず目を逸らした。


「とにかく今後をどうするのか任せましたよ。ファウストさん」


 彼女は冷たく吐き捨てて離れていった。


「ねえ。フヨウはどうしたの? あんなに機嫌が悪そうなフヨウ初めて見るよ?」


 その状況を見て、今度はマリンが入れ替わるようにやってくる。


「いや……実はな……」


 俺は正直に彼女に今、俺達が置かれている状況を話した。


「嘘……食料も回復薬も無いってどう言うこと? 今までこんな状況に陥った事なんてなかったじゃない!?」


「そうなんだよ……アルテイに任せてたときは――」


 俺は言いかけて、ハッと気がついた。


 マッピングも、道具調達も奴に任せっきりだった事に。

 奴が見張り番のとき、何かを作っていたのを何度か見かけた事がある。

 今にして思えば、あれはもしかして、回復薬を精製していたんじゃないのかと。


「ファウスト……? 汗がすごいよ……?」


「あ、ああ……」


 今更、奴の重要性に気づくとは……

 こんな事なら、マリンとの事は隠したまま、奴を上手い具合にこき使っていればよかったな。


 まあいい。

 いない奴の事なんて考えても仕方あるまい。


「おい。みんな、進むぞ」


「進むって……俺達は今迷っているんだぞ?」


「分かっているさ。マリン、お前にマッピングを頼む」


「え、ええ。分かった、なんとかやってみるね」


「フヨウはなるべく魔力を使うな」


「……分かりました」


 奴がいなくても、俺達がやれるって証明してみせる。

 一階層なんて突破して、最上階にいる四天王グンニグルを倒して、王都に凱旋してやろうじゃないか。


「行くぞ、みんな!」

「「おう」」


 俺達は気合を入れ直して進み始めた。


 しかし、その進撃は長くは続かなかった。

 魔物の強い抵抗と、迷ったまま一階層を抜け出す事ができなかったのだ。


 死にかけながら俺達は、なんとか居城から抜け出すのに、三日間もかかってしまった。

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