4話 全能スキル

 翌日。

 あの後、僕はスキルの種を食べた。


 ミディアから『前の持ち主が覚えたスキルの記憶と能力が全て詰まっている』と説明を受けた。

 僕は種を食べる事で、それを全て引き継いだのだ。


 僕はその能力を把握するために、今から全能スキルを試そうとしている。


 古城の庭園には、僕とメイドのミディアの二人。


「全能スキル発動!」


 スキル発動と同時に、僕の頭の中にあらゆる情報が入ってくる。


 古城を中心に数百キロ周辺の地形データ、街や迷宮の位置。


 何処かで行われている大規模な戦闘の情報、商人同士の不正な取引きに、小さな街で発生している夫婦喧嘩まで。

 それ以外にも数多ある野草の効能や希少な野草の群生地までもだ。


 ありとあらゆる事細かな情報が、大量に僕の脳内に流れ込んできているのだ。


 こんな情報量が一変に脳内に入ってくれば、普通は耐えられなくなるのだろう。

 だけど自動的に情報を整理して、今の僕に必要な情報だけを選定してくれる。


「……ふぅ。とりあえず情報はこの程度でいいでしょう」


 僕は一旦、スキルを止めた。

 今これ以上データを収集する必要はないからだ。


「お疲れ様でございます、ご主人様。紅茶でもいかがでしょうか?」


「ありがとう、ミディア。もちろん紅茶はいただきますよ」


 陶器のティーポットからカップへ、熱い紅茶を注いでくれている。


 彼女の気配りには、本当に感心する。

 欲しいと思ったものを、僕が言うよりも早く用意してくれるんだから。


「それでご主人様。全能スキルは如何でしょうか?」


「うん。思ってた以上にすごいですよ。まさか、これほどの能力があるなんて驚きですね」


 さっき使った情報収集は、全能スキルのほんの一部にしか過ぎない。

 今の僕は他のスキルの能力を早く使いたくて仕方がないのだ。


「それは良かったです。前のご主人様もお喜びでしょう」


 ミディアは嬉しそうに微笑んでいる。


「さてと。紅茶も飲んだところで、また全能スキルを試すとしましょうか」


 僕は空になったカップをミディアに渡すと、再びスキルの能力を使う準備をする。


「……今度はどんな能力を使ってみましょうか」


 天候を操る能力、違う場所に転移する能力。

 標的を操る能力に、周囲の時間を遅くする能力……まだまだ試したい能力は山ほどある。


「うん……? そういえば先ほど大規模な戦いがありましたね」


 魔王軍と都市守備隊とが戦っている映像が、僕の中に流れ込んでいた。

 場所はここから二十キロ先の荒野だったかな。


 王国の衛星都市を堕とすためと、魔王軍の指揮官と部下がそう話していたのをスキルの能力で聞こえていた。


「魔王軍は約五千の兵……対する都市の守備隊は約二千のようでしたね」


 都市の兵士軍が魔王軍に圧されていて、あまりかんばしくない状況だったな。


 元とはいえ、僕も勇者パーティの一員だったのだから、これを見捨てる訳にはいかない。


「でも彼らを助けるには、どのスキルがいいですかね……ふむ」


 全能スキルの特徴の一つとして、複数のスキルを一度に使う事ができる。

 もちろん使いたいスキルを絞って一つずつ使う事も可能だ。


「うん、これが最適かも知れませんね。複数照準マルチロックオン!」


 戦闘が行われている方角に手を向ける。

 次の瞬間、僕の手のひらから無数の高エネルギーの球が発射された。


 この球体を通して、僕は映像をみる事ができる。


 数分後。

 僕が発射したエネルギー球が、魔王軍の兵を次々と倒していく映像が僕には見えていた。


「うん、殲滅完了ですね」


 魔王軍は僕の攻撃を受け、一瞬で全滅した。

 都市守備の兵士達は、何が起こったのか理解できずに戸惑っているようだ。


「離れた場所からの攻撃も問題ありませんね。うん、もっといろいろ試してみましょう」


 僕は夢中になって、他のスキルもいろいろ試した。


 絶対に使いどころを間違えてはいけないスキルもあれば、何の役にたつかも分からないスキルまであった。


 一日かけて僕は数百個あるスキルを全て把握する事ができていた。

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