11話 冒険者試験スタート

 早朝五時――

 ベルナード墳墓前。


「へぇ〜これ全員参加者なの!? 冒険者志願する人たちって結構いるのねえ」


「僕も驚きですよ。まさかこんなに集まるなんて、想像もしてなかったですよ」


 僕とエミリカは、墳墓前に集まった人だかりに驚きを隠せないでいた。


 朝も開けきらないのに、迷宮の入り口前にはかなりの人だかりができている。

 パッと見ただけで百人近くはいるようだ。


「それで、アルテイ。これからどうするのじゃ? 冒険者試験とはそもそも何なのじゃ?」


「あ〜それ、ユニも知りたいですぅ」


「さ、さあ? 僕も冒険者試験なんて初めてですからね。前にいるギルドの人が教えてくれるんじゃないでしょうか」


 ユニとハクアも、昨日の夜遅くにこの街にやって来ていた。

 僕の話を聞いて、ぜひ見学したいと言って無理矢理着いて来ているのだ。


「あーあー参加者の皆さーん! お待たせ致しましたぁ! 今から第二回冒険者試験を開始しまーす! あ、あたしは司会進行のバルメと申します。どうぞよろしくお願いします!」


 墳墓入り口の前にいた受付嬢は、ぺこりと頭を下げた。


「ふんふん。今回はなかなかいい感じの人たちが揃っていますねー……これは楽しみです。では、今回の試験内容を発表しちゃいます! 

 今回はベルナード墳墓の十階層まで行って、そこでお宝か魔物の一部を持ち帰る事! これを達成できれば冒険者として採用させて貰います!」


 彼女の言葉に、参加者たちがざわつき動揺している。


「……なんじゃ、皆の動揺は? どうなっておるんじゃ、アルテイ?」


「えっとですね。僕もそこまで詳しくは無いんですが……この墳墓って熟練冒険者でも難易度が高い迷宮って、昨日ギルドで教えて貰いましたよ」


「ふぅん。じゃ、アルテイなら大丈夫ね。なんたってグンニグルの居城も問題無かった訳だし、ね」


「ほう。あのグンニグルの城をか。ならば、ここに居る連中よりも一番優秀と言う事じゃな。さすがワシの婿になる男よ」


「うんうん。アルテイなら一番にクリアできるって、ユニは信じてるよぉ。それに幸運の一角獣ユニが着いているんだからねぇ」


 ただでさえこの場でも目立つ容姿の三人だ。

 その三人が大きな声で、こんな話をしていれば当然注目を集めてしまう。


「んだよ……あんな可愛い子引き連れてよぉ」

「くっそ! ムカつく野郎だ!」

「迷宮内で殺してやろうか」

「羨ましいなぁ……」


 僕にわざわざ聞こえるように言わなくてもいいのに。


「はーい! 皆さーん静かにしてくださいねー! では今からその場にいる人同士でパーティを組んでくださいねー! あ、すでにパーティを組んでいる場合は、もう大丈夫ですからー!」


 受付嬢が言った瞬間だった。


「へっ!? なになになに!?」

「ふわぁ〜……人がいっぱいぃ」

「ほう、これは……」


 僕たちを取り囲むように、あっという間に人だかりができてしまった。


「なあ! あんた俺達とパーティ組まねえか!?」

「いや、私達とお願い!」

「あのグンニグルの居城に行ったことあるんだって!? そんな実力者なら金を払うからパーティに加えてくれよ!」


 ひっきりなしに勧誘してくる冒険者たちに、ハクアは軽蔑の視線を向けている。


「呆れたもんじゃな。さっきまでアルテイに文句を言っていた連中が……人間のレベルもかなり落ちたもんじゃな」


 ハクアは肩をすくめて、短いため息をついた。


 僕は丁寧に勧誘してくる冒険者たちを説得し、なんとか断る事ができた。


 けど数人は僕に恨み節を吐き捨てていく人たちもいたから、中に入ったら気をつけよう。


 そう言う人達に限って恨みから襲ってくるんだ。

 そんな人間を僕は今まで何度も見たことがあるから。


 それから数十分もしないうちに、数十組のパーティができていた。


「はーい! 少し混乱があったようですが、なんとかパーティを組めたようですね! では今から墳墓に入って貰います……それでここからが重要事項になります! 

 中に入って死んだとしても、当ギルドは一切責任を負いません! 

 それくらいの覚悟で、皆さん挑んでください!」


 受付嬢の言葉に、冒険者たち動揺が走る。


「……試験なのに死ぬ覚悟が必要なの? ちょっと無責任過ぎない?」


「そうでもありませんよ。ギルドは即戦力が欲しいと言ってましたし。それに冒険者は常に死と隣り合わせなんですからね。これくらいはやって当然と言う事なんでしょう」


 とは言っても、エミリカの言う通りこれはやり過ぎな気もしなくは無い。


 前の方で回復薬や必要な道具を配布してるけれど、それでも不安は拭いきれない人ばかりだろう。


「なんの問題もないよぉ、エミちゃん。」


「あ、それもそうね。アルテイなら何の問題無いわね」


 僕、彼女たちにずいぶんと信頼されているな。

 悪い気はしないけれど、あまりプレッシャーをかけないで欲しいと思う。


「じゃあ皆さん! そろそろ試験開始をさせていただきたいと思います! それでは……スタートです!」


 受付嬢の合図と共に、冒険者たちは一斉に駆け出し、墳墓の中へと入っていく。


 僕たち四人はそのあとに続き、墳墓へと足を踏み入れた。

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