8話 勇者パーティ崩壊の危機【追放した側視点】
アルファス山。
最近、この山の奥にブラックドラゴンが出現すると、近くに街で噂になっていた。
俺達パーティは、事の真相を確かめるべく、領主に頼まれて周辺を調査している途中だ。
山に入って、すでに一時間以上は経過しているが、ドラゴンの姿は全く見当たらないでいた。
「なぁファウスト。本当にこんな変哲もない山にブラックドラゴンなんていると思うか?」
「さあな。何かの見間違いじゃないかと、俺は考えているが……」
「がっはっは! そうだよなぁ。こんな変哲もない山に魔界のドラゴンがいる訳がない。どこかの臆病者がサラマンダーを見間違えただけだろう!」
ゴリアテは大声を上げて笑っている。
今から四日前の事だ。
四天王グンニグルの居城で瀕死だった俺達四人を救い出した人物がいた。
なんでもそいつは街の教会に俺達を預けると、名前も告げずに何処かへ去ったらしい。
「ちっ……今思い出しただけでも、本当気に入らねえぜ」
「なあに? まだ助けてくれた人を気にしてるの?」
「……まあな」
尋ねてきたマリンに、俺は素っ気なく答えた。
「しかし……いませんね。その噂の魔物は……」
辺りをキョロキョロと見回すフヨウを庇うように、ゴリアテが一歩前に出た。
次の瞬間――
茂みの中からなんの前触れもなく、俺たちの前にブラックドラゴンが姿を現した。
「ゴリアテ、武器だ! マリンとフヨウは俺とゴリアテの後ろへ!」
ゴリアテと俺は剣を抜き構えた。
俺とゴリアテが持つ剣はただの剣じゃない。
ドワーフの中でも名工と呼ばれた伝説的鍛冶職人に鍛えた貰った伝説の剣と全く遜色がない一級品。
この剣があれば、どんな凶悪な魔物であろうと物の数じゃない。
「いくぞ、ゴリアテ――」
「ぎゅお?」
ドラゴンは首傾げると、俺たちに突進してきた。
「マリン、フヨウ! 魔法だ!」
「は、はい!」
「分かってるわよ!」
フヨウとマリンが炎と氷の魔法を同時に、ドラゴンに撃ち放つ。
だがしかし――
「ぎゅおおお!」
ドラゴンの鋼のような鱗が、二人の魔法を跳ね返した。
「うおおおお!」
「どおおおおお!」
ドラゴンの注意がマリンとフヨウに向けられたとき。
俺とゴリアテはドラゴンに斬りかかった。
――ガキィン!
「な!?」
俺は自分の目を疑った。
鍛えられた伝説級の武器が、ドラゴンの鱗に弾かれ二つに折れてしまったのだ。
「ドワーフに鍛えられた武器だぞ!? 折れるなんて事があるのか!?」
ゴリアテもかなり動揺しているのが、表情を見れば分かる。
「きゅおおおお!」
こんな状況でもドラゴンは待ってくれないらしい。
ドラゴンが吠え、臨戦態勢を取った事はその場にいた全員が理解した。
マリンとフヨウの魔法もドラゴンには通じない。
俺達に残された道は一つしか残されていない事になる。
「に……逃げろぉお!!」
俺はありったけの大声を張り上げ叫んだ。
「うわああ!」
「いやああああ!!」
屈強なゴリアテも、いつでも沈着冷静なフヨウも、顔に恐怖を浮かべ逃げ出した。
「ファウストっ!? 待って!」
「うわああああああ!?」
俺はマリンをその場を置き去りにして、逃げ出した。
マリンは泣き叫びながら俺の後を追いかけてくるのが分かった。
「ぎゅおおおおお!」
俺はドラゴンの尻尾の強烈な一撃を喰らった。
他の三人も同じように尻尾で振り払われて、それぞれ違う方向へと弾き飛ばされていく。
俺は吹き飛ばされ地面に激しく叩きつけられ、背骨が折れたのが自分でも分かった。
「そ……そんなバカな……俺達は勇者一行だぞ……」
ドラゴンの咆哮が俺の耳に聞こえたのを最後に、意識が途絶えた。
後で知ったのだが、俺達はたまたま通りかかった他の冒険者に助けてもらう事ができた。
ゴリアテもフヨウも、マリンも危険な状態だったらしい。
数ヶ月を要する治療に専念するために、俺達は魔王軍との戦いから離脱を余儀なくされる。
そして――
その日を境に、俺達は『次世代の勇者』と呼ばれる事は無くなった。
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