10話 冒険者採用試験

 ここはノルウェル公国の都・アルカデの街。


 僕とメイド、嫁候補になった三人の子たちはこの街に住む事になった。


 住む場所は、神獣たちが会議をしたあのロココ建築の大宮殿だ。


「あれ、本当にもらっても良かったんですか?」


「気にしないで。元々、お母様がわたしとアルテイの為に用意してくれた家みたいだし。ここは素直にもらっておきなさい」


 彼女は悩む僕に向かって、にぃと微笑んだ。


 他の二人は今はここには居ない。


 聖龍の当主ハクアは、同族や臣下の許可を得るために後からくるらしい。

 一角獣のユニは嫁入り道具が必要だとかで、合流するのに時間がかかるそうだ。


 そして僕は、この街で暮らすため冒険者になる事を決めたんだ。


 今後の事を話ながら、僕とメイド、エミリカの三人はギルドの前にたどり着いていた。


「へぇ、四階建てのギルドか。なかなか流行っているんだな」


 ギルドには絶え間なく、大勢の人が出入りしている。

 その中には冒険者の姿も少なくない。


 その流れに乗じて、僕たちはギルドの中へと足を入れた。


「……こんな人間がびっしりと密集してる場所なんて、わたし初めてよ」


 驚いたように、エミリカはキョロキョロと辺りを見ている。


 エントランス付近、長椅子が幾つも置かれている待合所、カウンターには人が溢れていた。

 依頼書を張り出したボードの前にも、冒険者の人だかりの山ができている。


「えっと……どこで受付すればいいんだ?」


「ご主人様。受付は右端のカウンターのようですよ」


 メイドが横に並んだ一番端、壁際のカウンターを指差した。


 僕たちは早速目当てのカウンターへと移動する。

 ただ誰も並んでいない事が、僕には少し気になった。


 カウンターの窓口には、『冒険者登録専用』と案内板が打ち付けられている。


「ようこそ当ギルドへ! あなたも冒険者の登録ですね!」


 受付嬢はありったけのスマイルを浮かべてみせた。


「ええ。僕は冒険者なんて初めてでして。登録ってどうしたらいいんですか?」


「……そうですね。まずはこの記入用紙に名前と職業でも書いてください」


 カウンターの上に置かれたペンと青い色の記入用紙に、自分の名前と職業、勇者パーティだった経歴を書くと受付嬢に渡した。


 彼女は書類に目を通すと、確認するように用紙と俺の顔を何度も交互に見ている。


「――本当に冒険者は初めてなんですね。しかも経歴が次世代勇者の元一員だなんて……これは期待できそうですね」


「期待……?」


「ええ。実は当ギルドも人材不足の問題がありまして。そこで即実践で活躍できる冒険者を募っているんです」


 魔王軍との戦いに冒険者も駆り出され人材不足だと聞いた事がある。

 そんな弊害が、戦いの地よりも遠く離れたこのギルドでも起きているのか。


 求める人材は即実践で活躍できる冒険者なんて、確かに理にかなっているな。


「それでですね。そんな事もあって当ギルドは新人冒険者の採用試験を取り入れる事になったんです」


「なるほど。それじゃ僕もその採用試験を受けろ、と言う事ですね」


「はい、そうなんです。試験開始は明日の明朝五時。この街の東側にあるベルナード墳墓の前に集合となっております。時間厳守なので、遅れないようにお願いしますね」


「ベルナード墳墓、朝五時……ですね。こちらこそよろしくお願いします!」


 僕は受付嬢に軽く会釈して、その場を後にした。

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